第11話 伯爵の謝罪
城へ向かったルーヴァンス伯爵が通されたのは、謁見の間でも王の執務室でもなく、将軍の執務室であった。
「お久しぶりですね、伯爵。領地の方は順調ですか?」
部屋の主は、伯爵を見ず、積み上げられた書類を確認し、処理していた。
「ああ、閣下のお陰で順調です。……で、私は何故こちらに通されたのでしょうか?」
「それは、何故あなたが陛下へ謁見を求めたのか確認するためです。本来ならこういう場合宰相閣下の案件ですが、昨日の件がありますのでまずはこちらにと。」
伯爵は、はっとした顔になり、すぐさま頭を下げた。
「ウォルスター嬢、昨日は娘が無礼なことをした。すまん。娘には昨日から謹慎をさせている。申し訳ないことをした。」
「伯爵……。」
将軍は書類から顔を上げずに話す。
「あなた、間違ってますよ。」
「は?」
伯爵は顔を上げ、17才の将軍を見る。
「な、何を間違ったのでしょうか?」
将軍は書類を処理し、次の書類を手に取り確認しながら返す。
「まず、謝罪する相手を間違えてます。あの時、一番の被害者で面子を潰された王女殿下に謝罪に行くのが先です。次に、こういう場合、当事者に謝罪させるのが普通です。伯爵だけで来たのも間違いです。更に言うならば、あの場にいた王太子殿下が内々に処分をしております。陛下への謁見はこの件の事を謝罪しにいくつもりだったのでしょう。これは王太子殿下が”無かったことにしてくださった”ことを台無しにする行為です。それに、もう成人している子供同士のいざこざに親同士が話し合うことはあり得ません。手紙で軽率な行為をしないように伝えてましたよね――――、(手元の書類を見て)あら、昨日、宰相閣下に会いに来ているんですね。この時間は、まだお茶会をしていましたのに。その時でも来ていただいたのなら、まだ簡単でしたわね……。」
「……。」
「伯爵?」
「……私は、どうすればいい?」
「………………はい?」
ここに来てはじめて将軍は伯爵の顔を見た。
「爵位が下がるのは構わん。家が残るには何をすればいいんだ?」
「んーそうですね。余計なことをせず、なにもしないのが一番ですね。……あっタチアナ様の王太子妃争いはまず無理なので、今のうちに候補を辞退することですね。それ以上のことをしようとすれば逆に王家の反感を買いますので、誠実に領地経営を確実にして0から信頼度を上げるべきかと。一度、王家から離れておとなしくしているのがいいです。」
「……そうか、そうなのか。」
暫し項垂れた伯爵は、
「一度離れるにしても宰相殿に一言伝えておかなくては……。将軍殿!」
「え、あ、はい。なんでしょう。」
「宰相殿に繋ぎをお願いしたい。いつでも構わんので。時間がかかるのなら私は一旦屋敷に帰ろう。その場合、手紙だけは届けてもらいたい。」
「あ、はい。えーと……。」
書類の中から警備予定を探す。
「――――はい、今日は城内にいますね。確認を取りますね。」
部下を呼び宰相の執務室まで予定が空いているか確認をさせたところ、数日仕事で手が離せないとのこと。
伯爵に伝えたところ、会うのは落ち着いてからでいいが、手紙だけ今日中に渡してもらいたいらしいので、そのように手配する。
「では伯爵、次にお会いする時まで。」
「ああ、我がルーヴァンス伯爵家は閣下に大恩がございます。閣下のお声がかかれば全力で補佐しますぞ。まあ、閣下を伯爵家の養女として王太子妃候補にできればよかったのですが、すでに娘が候補になっておりましたからな、必要があれば何時でも呼んでください。」
伯爵は一礼をし、執務室から去っていった。
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