第25話 バグマン女伯爵お披露目
その日、バクマン女伯爵のお披露目の夜会が、王都のバクマン伯爵邸で行われた。通常とは違い、既に社交界に出ていた旧バクマン辺境伯家令嬢が新バクマン伯爵になったうえ、形式上新興貴族になるため、そこまで大きなお披露目が必要ではなかったのだが、この夜会の主賓に王族が勢揃い――――親交のある――――というか直接の上司になるクリス王女だけではなく、そのエスコート役に王太子エルヴィン。ついでに王女フェリシアまで付いてきた。さらに王妃エリスも参加し、そのエスコート役としてその夫、国王ガイウスまで付いてくることになり、大規模になってしまった。
「両陛下、ようこそ来ていただきました。」
主催のエルネイシア=バグマン女伯爵が、国王、王妃に挨拶をする。
「うむ、バグマン伯爵。我が国の中枢を担うものとして、活躍を願ってる。もし、困ったことがあれば王家に言うがよい。便宜をはかろう。」
「ありがとうございます。誠心誠意、王国に仕えます。」
「うむ、よろしく頼む。」
両陛下と挨拶を終えたシアは続いて来た私たちの方に声をかける。
「エルヴィン殿下、クリス殿下、フェリシア殿下、ようこそいらっしゃいました。」
そして、3人の並び順を見て。
「……なぜ、エルヴィン殿下ではなく、クリス殿下の方が両手に華になってるのでしょうか?」
もっともな話である。
「私もそう思うわ。でも――――。」
「私だってお義姉様にエスコートされたい!」
「――――って言われちゃって。」
「で、そんな愉快な格好になってしまいましたのね。納得ですわ。」
「納得しないでほしい……。」
私が項垂れていると。
「それは、エルヴィン殿下の妹への溺愛っぷりは王宮内では有名ですし、フェリシア殿下も命の恩人の将軍閣下への熱愛っぷりは有名ですからね。」
何?その三角関係?
side:エルヴィン
「ところで、バグマン伯爵のそのドレス……。」
俺は女伯爵の衣装のあることに気付く。
「ええ、クリス殿下に戴いたものです。クリス殿下やフェリシア殿下、王妃陛下たちと同じデザインのもので、ハイレントの絹で作られた布をレイドズの職人が仕立てた逸品です。クリスリッタ商会を経由して製作しました。」
ぐりん。と、この会場の令嬢や夫人の視線が集まった。デザインもさることながら、その質のいいシルクと素晴らしい刺繍がどこの物なのか気になっていた女性陣の視線だ。
だが、俺が気になったのはそこではなかった。
「”たち”とは、まさか……。」
「ええ、本日いらっしゃる殿下のお妃候補全員の分も用意しておりました。」
「そ、そうか……。」
俺がこの数日抱いていた漠然とした謎が解けた瞬間だった。
なぜ、自分の婚約者候補全員がこの夜会に参加すると告げたのか。クリス以外の全員がエスコートを求めなかったのか。そして、ファーストダンスを求めなかったのか……。
そして、気づいてしまった。もうクリス以外を正妃にすることができないことに。
空気を読めない妹が付いたとはいえ、その妹は実質俺ではなくクリスがエスコートしており、クリスをエスコートしているのは自分である。それも、父である国王からの命令でだ。さらに他の婚約者候補たちは侍女がエスコートしている。しかもあの5人はあまり仲がよくない2つの派閥を作っていたはずが、今は揃いのドレスでかたまって談笑している。それも、俺の方を見ているわけでもなく、ただ談笑している。醜い女の争いをいているわけでもない。ただ揃いのドレスを目立つように披露しているだけだ。
「どうかしましたか?殿下。」
しばらく呆然としていたみたいだ。クリスに声をかけられ正気に戻る。
「いや、考え事をな……。」
1月もせず、完全に外堀を埋められてしまったな。どうクリスの機嫌を損ねないよう生き延びるか考えねばな、あの娘にまた会うまで……。
そして、婚約者候補とのダンスの最中に〔クリスリッタ商会〕がクリスの経営している商会と聞き、最後の謎も解けた。
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