第26話 バグマン伯爵領
王都でのお披露目会の翌日から4日かけてバグマン伯爵領の本館に”帰って”きた私は、領民への領主交代のお披露目を行い、領地の引き継ぎと、代官との打ち合わせ、領軍の司令官の任命などをしていた3日目、王都から2人組の使者が来た。
「お久し振りです。何かありましたか?」
私は、玄関で使者を迎えた。使者の一人は顔見知りだった。確か王国軍の騎士でしたか。もう一人は兜を被ったままですが、女性騎士ですね。
「はっ。クリス王女殿下がこちらに……。」
そういいながら私に親書を渡す。
「来られるのですか、準備しなければなりませんね。クォーツ、準備をお願いします。で、何時来られるのでしょうか?」
即座に執事に命じる。実質この国の最高権力者にあたる方が来るのだ、失礼があってはならない。
「ええ、それが……。」
苦笑する使者殿。不思議に思っていると。並んでた女性騎士が……。
「来ちゃいました。」
兜を脱ぐと、最近見慣れた上司の顔があった。
「あ、オランドは悪くないですよ。私が追い抜きそうになったのを止めてくれましたから。」
「いやぁ、1日先行して移動していたのですが、昨日の夕方、宿場町を通過しようとしている将軍閣下がおられたときは、目を疑いました。」
苦笑する使者殿。いや、ツッコミどころ満載なんですが。
「オランドさんが遅れたわけではないのですね。」
「ええ、規定通りの移動です。いえ、少し早く移動しました。閣下の行軍速度の速さはよく知っておりますから。」
さすが軍司令部で働く方です。クリス様の事をよく知っておられる。
「ただ、こんな平時に夜営行軍されるとは思いもよりませんでした。」
「……どういうことです?」
「規定は、常歩で1日8時間移動です。私は将軍閣下が早く移動するだろうと速足で8時間移動を基準に宿場町を選びました。ところが、将軍閣下は速足で12時間移動で野営された訳です。その結果、最後の宿場町で追い抜かれそうになりました。簡単に言えば、私は3日間で計24時間足らず移動したのに対し、将軍閣下は2日で24時間移動しています。宿場町で遭遇してなければ、町から1~2時間先に行かれていたでしょう。となると、恐らく先触れの使者である私が到着する3時間前はに将軍閣下が着いていたでしょう。」
「…………。」
呆れて物も言えなかった。先触れよりも速く、単騎で野営しながら街道を駆け抜ける王女がどこにいるのかと……。あ、現役の将軍でもあったっけ。
「…………クリス様、一応王女で王太子妃候補なのですから、護衛つきの馬車で移動してください。クリス様一人でも盗賊団や魔物の群れを何とかできそうですが……。」
「え?よく知ってるわね。2つほど潰してきたわよ、盗賊団。」
胸を張る彼女が何を言ってるか一瞬わからなかった。
「……ひとつ確認なのですが、王都からここまでの間の話ですか?」
「え?そうだけど……。」
「「「…………。」」」
なんなんですかこの人。一般常識が全く通じないですわ。この場にいる3人――――使者に渡す金貨を持ってきたクォーツも唖然としてます。
「…………バグマン卿すみません。計算ミスをしてました。下手したら昨日の夜、閣下は到着してました。」
「…………いえ、よく見つけていただきました。王女殿下の秘書として感謝いたします。」
「…………いえ、将軍閣下がご迷惑をお掛けしてすみません。」
「…………使者殿、こちらを。」
クォーツが金貨の入った袋を2つ渡す。
「……ええ、いただきます。」
「……クォーツ、執務室は使えますわね。」
「……はい。」
「……バグマン卿。私も同席しても?」
「……ええ、もちろんですわ。本日はこちらにお泊まりください。」
「……ああ、よろしく頼みます。」
「……では、皆さまこちらへ。」
そして、執務室で雷が落ちた。
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