第27話 過去の思い出
その夜、領主の居室で、夜のお茶会が行われていた。
「ところで、なぜ王太子殿下をお慕いになったのですか?接点が見えないのですが……。」
「ああ、そうですね。私、元々男爵家ですからね。」
「ええ、ここまで全く候補に上がってこなかったですから、余計に気になりますわ。」
確かに私でも気になるよね。
「そうですね、たぶん殿下も覚えていないと思いますが、実は昔、会ったことあるんですよ。」
「え?そうなのですか?」
「ええ、あれは10年前でした……。」
10年前、ある伯爵領。私は母方の叔母の家に遊びに来ていた。
「おばさま、お久しぶりです。」
「クリスちゃん久しぶり。姉さんは元気かしら?」
「はい、お母さんは元気です。」
「そう、よかったわ。しばらくゆっくり楽しんでね。」
「はい。」
おばさまの嫁がれた伯爵家は比較的涼しい所にあるので避暑に来てました。お父さんお母さんは領地が交通の要所なので、むしろ今が忙しいそうで、領地にいます。
私がエルヴィン王子と出会ったのは、おばさまの所に来て、3日目の事でした。
その日、私は朝からおばさまの屋敷の図書室で本を読んでいました。その時読んでいた本は恋愛小説や冒険譚ではなく、経営の本でした。その時、私は一人娘だったので、将来、婿養子を取って領地を経営する事になると考えていたからです。
図書室で本を読み更けていると、後ろから「何を読んでいるんだ?」と声をかけられビックリしました。
振り返ると、そこにいたのは美形、もとい王子殿下でした。まあ、その時は王子だって知らなかったですから。
その時、私は慌てたはずみに、本の塔を倒してしまい、そこを王子殿下に抱き寄せるように助けられたのです。
まあ、私は直後にひゃーーっと言って逃げてしまったのですが。
翌日には彼はいませんでした。どうやら休憩におばさまのお屋敷に来ていただけらしく、すぐ次の領へ向かっていったそうですが……。その時に彼が王子だと聞かされたのです。
それが初恋でした。
その後、おばさまの屋敷の図書室やら、お父さんの書斎で男爵では王子妃になれないことを知ったり、戦争を終わらせたら、国王陛下から褒美が貰えるので、それを使ってみることを考えたり……。
剣と魔法を覚え、戦術戦略を学び、5年で小隊長として軍に抜擢されてすぐに王女誘拐事件を解決して王子に再会するなんて思ってみませんでした。フェリスって何であんなに誘拐されるのでしょうか、不思議です。後は戦場で功績を上げて将軍にまで駆け上りました。
「と言ったとこですね。」
「……一目惚れで軍に入るなんて……、もう、何て言ったら……。」
絶句するしかない。それで、最強になるなんて。
「ところで、この事は王太子殿下は知ってるの?」
「知らないわ。だって重いでしょ、こんなの。誰にも言ってないよ。」
遠い目をするクリス様。私も何にも言えなかった。
「お兄さま、いつクリス義姉さまと結婚するんですか?」
「いきなりだな、おい。」
クリスがバグマン伯爵領に視察に行って王都にいないある日、フェリスとのお茶会をしていると、妹からそう言われた。
「まあ、俺も腹を括らないといけないだろうな。」
「お兄さま、まさかお義姉さま以外に気になる方がいらっしゃるのですか?」
俺の呟きに、フェリスが聞いてくる。苦笑いしながら、仕方ないのでちょっとだけ……。
「ああ、昔、お前が産まれた頃に出会ったんだが、どこの誰かもわからん。避暑地への道中の貴族の館の図書室で会った物静かで恥ずかしがりやな本好きの子で、一目惚れだったんだがそれから会えてない。一応、伯爵家で会ったし、俺とほとんど変わらない歳だからまた会えると思ったんだが、夜会にも現れない。気になって調べてみたんだが、その家に俺と近い歳の令嬢はいないし、親戚を調べても、あの将軍しかいない。それに、イメージが正反対だ。恐らく別人だろう。もう会えないなら諦めて、将軍と婚姻するしかないかと思ってはいる。」
結構喋ったな。まあ、俺は王族としての義務を果たすだけだ。
お兄さまの初恋の女性の話を聞いて、お兄さまの想い人が恐らく庶民なんじゃないかと思いました。さて、どうしましょうか。一応、今どこにいるかだけでも把握しておきたいですね。私だって、拐われたり、空気読まなかったりばかりじゃないですからね!!
そういうことを考えて行動すること自体が空気読めてないことに誰もツッコむ者はいなかった。
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