第30話 婚約と……

 王国会議の翌日、私とエルヴィン王太子の婚約式が行われた。

 婚約式は王城に併設された神殿で行われた。まあ、神様の前で婚約を誓うだけのシンプルなものだ。それよりも、その後の婚約披露会の方が大変だった。王国会議に参加していた貴族のほか他国からも使者が来た。さすがに帝国からは来なかったけど。

 いろんな人と挨拶をしていると、一人の兵が会場に飛び込んできた。


「陛下、将軍閣下、緊急の知らせです!」

「帝国が攻めてきましたね。」


 私の言葉に一瞬目が点になる伝令兵。


「……あ、はい。今朝方、バグマン伯爵領に帝国軍が進撃してきました。」

「ベリッサ渓谷の方ですね。既に戦力を送り込んでいます。あとヴォルス平原の方にも送りました。」

「「「「えっ?」」」」


 私の言葉に会場にいて伝令の言葉に慌てて動こうとした全ての人が動きを止めこっちを見る。


「どう言うことですか?」


 宰相が聞いてきた。


「え?だって帝国は私が将軍になって2年で敗戦したんですよ。私がいないことが確実な状況で攻めてくるでしょ。私がこの婚約式に出席するのは確実だから攻めるタイミングとしては今しかないわけ。」

「いえ、そうではなく……。」

「ああ、攻めてくるタイミングが予測できたのと、帝国での物価で想定してたわ。だから前もって陣形を指示しておいたわよ。」

「いえ、それでもなく……。」

「じゃあ場所?それは帝国から我が国に攻め込める場所は主にその2か所。そのうちベリッサ渓谷はバグマン伯爵領にある軍が通ることのできる場所で、まずこっちを攻めることでバグマン伯爵領に視線を誘導する。その隙に以前会戦を行って負けたヴォルス平原に軍を送り込み少しでも進攻したい。まあ戦術としてオーソドックスですね。食糧が運び込まれていたのがベリッサ渓谷の向こう側のラドスの街とヴォルス平原の向こう側のデーモスの街なのでわかりやすいですよ。」

「「「「「……。」」」」」


 会場は静かになった。


(? 私、変なこと言ってないよね?)


 会場が静まり返った要因は今朝起きた侵略に事前に対処が終わっている事実を突きつけられたからだ。しかも、職務としての将軍の命令できる範囲内であり、さらに緊急事態なのにここにいる全員が慌てて動く必要すらないのでどうリアクションをとっていいかわからなくなったからだ。


「で、我々はどうすればいい?」


 陛下が聞いてきた。


「そうですね、明日一番にヴォルス平原に向かいますので、今日はゆっくりしたいですね。」

「いや、将軍の予定じゃなく我々がどう動けばいいのかなんだが……。」

「ああ、特になにもしなくていいですよ。むしろ変に動かれると作戦が乱れます。」

「そ、そうか……。」


 国王陛下のここに来ている貴族たちにも功績を分けようとする目論見はすでに作戦を開始している将軍に却下された。


「あ、そうだ。ここにおられる各国の使者の皆様、現在我が国とグロバスデュア帝国が戦争状態に入りました。すでに作戦が始まっておりますので、防諜のため今ここで聞いた話は当方が許可を出したあとになってから各国に報告をお願いします。また、それまではこの王都で過ごしていただくようお願いします。もし、このお願いを破った方の国は仮想敵国と認識し、お付き合いは控えさせていただきます。」


 次期王妃である将軍の一言に凍りつく使者たち。ほぼ全員が自国に伝令を送り出そうとした矢先だった。一部すでに伝令を送り出してしまったので慌てて引き返すよう伝令に対する伝令を出そうとして出していいのか伺い、許可を得て送り出す使者すらいた。迅速な情報伝達は大事だが、急いては事を仕損じた形になってしまっていた。


「さすがになにもなしは何のための使者だということになりましょう。よって我が国から出す情報はただ一つ、グロバスデュア帝国と我がラドファライシス王国の間で開戦したとのことだけでございます。また、その旨を書いた書状を用意しました。これを送り出すとよいでしょう。」


 そう王太子の婚約者たる将軍が言うと、彼女の秘書が書状を掲げた。その手には多数の書状を持っている。各国の使者はその秘書に群がり書状を手に入れる。というか、その書状を持つ秘書が今まさに帝国に攻め込まれているバグマン伯爵であることを使者たちは知らなかった。それくらいラドファライシス王国軍に余裕だあると言うことなのだが……。



 翌朝、ラドファライシス王国軍総大将であるクリス=ウォルスター=ラドファライシス将軍が王国防衛戦のため出陣した。そこには箔を付けるために王太子エルヴィンが同行していたのだが、終戦まで誰も同行していたことに気付かなかった。




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