第8話
「心配って大切に思われてないとしないからちょっと申し訳なく思うけどされたら嬉しいし、そういう人は頼りにできるでしょう?」
「頼りになんかする訳ないでしょ。頼ったところで蹴落とそうとしてくるやつしかいないのに自分以外信用してどうするの?」
「んー、まぁ…それは人によるけど信用できる人を信用した方が人生が生きやすいし楽しいよ?どうせ生きるなら楽しく生きやすい人生を送りたいじゃん」
「…………くだらな」
やはりレナとは食い違ってしまった。たぶんレナは生きている世界が違うからあんまり人を信用できないんだろう。レナと私とでは生きてきた環境も思ってきた事も違い過ぎるはずだ。
「あぁ、でも、私に何かあったらどこでも来てくれるって事なんだよね?」
嘲笑っていたのにレナは私で楽しむようかの顔をする。何を考えているのか分からないがきっと私にはよくない事だ。
「まぁ…、そうだよ?レナとは友達だし心配だからね」
「ふーん、そう。友達だとそういうのはプラスになるんだ?」
「え、うん……。レナは友達をどういうものだと思ってんの?」
「いらないもの?仲良くしようとか言ってくるやつって私を利用しようとするか足台にしようとするやつしかいなかったから。だからいらないでしょ?こないだの逃げたゴミみたいだし。ごみと一緒にいたら私まで臭くなっちゃう」
「……そうか、そういう事か………」
レナの常識のなさと言うか倫理観や道徳心のなさは環境のせいかと確信した。回りが最悪だったらそうなるはずだ。そうやって自分を守らないと嫌な思いをするだけだもの。いい人ならいいけれど、よくない人に友達なんて言葉に流されていたっていい思いなんてしない。
「なにか分かった?探偵さん」
ふざけているのか分からないレナは私に面白そうに話しかけてきた。私は自分で遊ばれてるのを理解しながらも乗った。
「うん。それなりに」
「そう。じゃあ、探偵さんからゴミ臭い匂いがしないのはなんで?」
「………面白いから?」
「ふふふ。さすが名探偵。切り刻みたくなっちゃう」
「それはやめて」
本当にやりかねないから一応言っておくもレナはソファから少し体を起こすと私の首に腕を回してきた。無表情で、そしてゆっくりと私に顔を寄せると囁くように言った。それだけでもレナは色気を放っていた。
「それでさっきの続きは?私はまだ満足してないんだけど」
「ちゃんとやったじゃん」
それが指すのが何なのかすぐに理解できたが私はちゃんと応えた。美穂が途中来てしまったが。
「それは私が決める事でしょ?あ、もしかして切られたいからそう言ってる?」
「……違うから…」
「ふーん。じゃあ、早くして?」
「………キスしてどうするの?」
答えはなんとなく分かるが切るのと同じくらい味を占めているレナに困ってしまう。レナは美しく笑った。それは思わず見入ってしまうくらい綺麗なのにレナはいつも通りな発言をした。
「瑞希分からないの?ゴミみたいに虫が沸いちゃった?」
「…なんとなくは分かるけど………」
「だったら待たせない方がいいんじゃない?私待つとイライラするから瑞希の指切り落としちゃうかも」
「……分かったよ」
レナの気持ちだけで進んでいく会話に不用意に反論するものならば私の命の保証がない。
私はすぐそばにいるレナに顔を寄せてキスをした。レナの口の中に舌を入れてさっきのように積極的にキスをする。するとレナは私を強く抱き締めてきた。
「ふふふ、瑞希…?」
「なに?」
「…切り落としてもいい?」
唇を離して至近距離で囁かれる。
レナは獲物を捉えたかのように私を見据える。
綺麗な顔は笑っているのに目は全く笑っていなくて恐怖を感じる。でもそれと同時に美しいレナに引かれるように目が離せない。レナの魅力はおかしな事を言っていても人を引き付ける。
「首を切っておいておけば毎日楽しそうじゃない?」
「楽しくないでしょ?」
「なんで?……あぁ、じゃあ犬みたいに飼った方が楽しい?」
「それも楽しくないよ」
レナは前から奇想天外な事しか言わない。感覚がずれているから今さら驚かないがレナには言っておいた。
「殺したら話せないし動かないよ?それに殺人になるし。あと、飼っても荷物みたいに感じるだけだよ」
「家においとけるなら何でもいいでしょ。置いとけるし、逃げ出さないなんて……素敵な娯楽じゃない?」
「レナ?言っとくけど後ろから殴ったりとかしないでよ?」
「後ろから殴ったって楽しくないからしないけど。それより次は手を切ってもいい?」
「…やだよ…」
レナは小さく息をつくと抱き締めるのをやめてまたソファに凭れる。そして妖美に笑いながら私の手に触れた。レナの手は染みや傷一つなく綺麗なのにとても冷たく感じる。
「残念。じゃあ、見て楽しむから瑞希も私を見て?面白いから」
「………何が面白いの?」
「名探偵が聞いちゃうの?つまんない」
レナは私の反応を楽しんでいる。冗談なのか分からないが私をじっと冷めた目で見つめるレナに流されないように何か聞いてみる事にした。
「……レナのめまいの事親は知ってるの?」
「私に親はいないの」
「え?そうだったんだ。ごめんいきなり……」
無難な話だと思ったけど違った。だけどレナはどうでも良さそうだった。
「別に。あんなのどうでもいいから」
「…嫌いだったの?」
「嫌いって言うかみっともなくて恥みたいなやつだったから。そういうゴミも一定数いるでしょ?」
「まぁ、いるかもしれないけど……。レナは寂しくない?」
なにかあったのかもしれないがレナが孤独な存在なのは分かる。孤独を好んでいるのもなんとなく伝わるがレナは当たり前のように答えた。
「寂しいなんか思った事ないけど。それは一人でいられないやつが思う事じゃないの?依存症のゴミとか」
「それも一理あるけど……誰かといた方が楽しかったり、その人が好きだったらいるだけでも嬉しいじゃん。だから一人になると寂しくなる人はいるでしょ?」
「知らないけど。世の中ゴミが溢れてるから鼻をつまむので大変だし」
嘲笑うレナはいつも通りだがレナを一人でいさせるのはレナの心によくない気がした。ただでさえストレスでめまいが起きていてレナは休職までしている。
だから美穂がレナに友達を作ってあげたいと言っていたのが今になって理解できた。
まだレナといる時間は短いがレナは危うい所がある。綺麗で美しいけどその姿には儚さも感じて、レナの倫理観や共感性のなさを差し置いてもなんだか放っておけない。レナは強いけど弱くもあるのだ。
「レナはそう思うかもしれないけど、私はレナといたいよ?心配だから放っておけない」
「ふーん。じゃあ、私が好きって事?」
「うん。まぁ、そうだね?もう友達だから嫌いになれないし、レナからはあんまり目を離せないから」
目を離せば何か起こしそうなレナはトラブルメーカーと呼んでもいいかもしれない。それでなくても私はいろいろレナからやられまくっているがレナの人間性が最悪ではないから一緒にいるんだと思う。違う意味では最悪とも呼べるが。
「そう。じゃあ、買わせて?」
そしてまたしても言われてしまったが応える気はない。
「それはダメ。一緒にいるからそれでいいでしょ?」
「ムカつく。殴っていい?」
「ダメ。レナそういう事言っちゃダメだよ?」
「いや」
素直じゃないレナは子供のように言う事を聞かない。
レナはもう無表情で飽きてしまったように私から目を逸らした。
「ねぇ、それよりお腹減った」
「え?食べる気になったの?」
「今日だけね。歩けないから準備して?」
「うん。ちょっと待ってて」
レナが食べ物の話をするなんて意外だったが食べないレナが食べる気になったのなら食べさせる他ない。私は美穂が買ってきてくれていたご飯を準備してあげたがレナは何口か食べてご飯を終了してしまった。
これには驚いたがしつこくもっと食べろと言い続けていたらレナは渋々食べてくれてほっとした。
それにしてもレナの冷蔵庫にはこないだ買っていたカルパスと豆乳と水しか入ってなくてそっちの方が驚いた。
レナはご飯が終わるとカルパスを食べながら豆乳を飲んでいてレナの基本はこれのようだ。偏食と言うより本当にめんどくさいのだろう。
それから夜になって豪華な風呂に入るとレナが髪を乾かす気がなさそうなので私が髪を乾かしてあげた。
レナはその間コレクションのナイフを眺めていて本当にナイフしか見てないんだなと悟った私は髪を乾かし終わるとまたレナと噛み合わない話をした。
でも、それで分かった事があった。レナはほぼ家にいてジム意外は家から出ないらしい。でも、車を持っているからたまに走らせているようだがレナはそりゃもう高級な車に乗っているのだろう。が、レナに車を運転させて大丈夫なのか私は心配になった。
「もう寝る」
そうして私の頬を触りながら表情を楽しんでいたレナは言った。まだ早い時間だけどまぁ、寝てもいい。
レナは定位置のソファから立ち上がると奥の部屋に向かって毛布を持って帰ってきた。
「私はここで寝るから。あんたはベッドで寝て?」
「え?悪いよ。一緒に寝ようよ?」
「私はいつもベッドでは寝ないの。あっちにベッドあるから早く行って」
「え、うん………」
ベッドでは寝ないのにベッドがあるのも意味分からないけどソファで寝てるのも意味分からない。レナは意味分からない事が多すぎる。私は答えないかもしれないけど聞いてみた。
「なんでベッドで寝ないの?」
「いやだから」
「そう……」
レナはさっさと毛布を広げると広いソファに横になった。そして電気を消された。もう本当に寝るようだ。私の意見は聞かないみたいなので私はおやすみと言って寝室に向かった。
寝室に入るとこれまたデカくて高級そうなベッドがあった。こっちで寝た方が広くて寝やすいと思うけど何か拘りでもあるのだろうか?私は綺麗にベッドメイキングされたベッドに入るとすぐに眠りについた。
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