第4話
「レナ?愉しいからって切ったらおかしいんだよ?一歩間違ったら犯罪だよ?」
「だから買いたいって言ってんじゃん」
「だから私も買えないよって言ったじゃん」
「なんで?意味分かんないんだけど」
「……んー、何て言ったらいいのかなぁ……」
逆ギレみたいに言われてしまって途方に暮れそうだった。意味分かんないって私の台詞なんだけどどうしよう。私は考えながらレナをおいて冷蔵庫まで来ると中に入っているペットボトルの水を取り出して一口飲んだ。
レナは全く引く気がないし、気が変わらなさそうだ。
と言うか常識が違い過ぎてどこから歩み寄ればいいのか分からない。
レナは私をじっと見ていたがベッドから立ち上がると私の元まで来てまた金を渡してきた。サングラスのせいで表情は見えないけど近くにいるだけでレナは威圧的だった。
「とりあえずこれ受け取ってくれる?買い物にも付き合わせたし、私は貸し借りしたくないの」
あんな買い物に五十万も普通払わないのに頭が痛い。レナの貸し借りはどうなっているんだろう。私は困りながら拒否した。
「だからいらないってば。あんなの貸し借りにもならないし私は気にしてないからいいよ」
「私が気にしてるからこうしてるの。別に宝くじにでも当たったと思えばいいでしょ」
「いや、あのねぇ、レナは友達だと思ってないかもしれないけど私の友達の友達だしそんな風には……レナ?!」
いつ噛み合うんだろうこの会話と思いながら話しているとレナは急にふらついた。私は咄嗟に体を支えたがレナは立っていられないみたいで体重を預けてきたので私はそのまま床に座らせた。
「レナいきなりどうしたの?大丈夫?」
「…………別に」
別になんて言う話ではないのにそのまま動かないレナは調子が悪いのだろうか?さっきふらついた時私が支えなかったら倒れそうだったし私は私に凭れたままのレナの体を支えながら聞いた。
「体調悪いの?」
「別に悪くない」
「でも、具合悪いんでしょ?」
「違う。立ちくらみがしただけ」
立ちくらみにしたって様子がおかしい。レナは何も言わないが凭れたまま動けなさそうだった。本当にいきなりどうしたのだろう。様子がおかしいようには見えなかったが最初から体調が悪かったのだろうか?サングラスのせいで表情は分からないがレナは手をぎゅっと握っていたので私はレナを抱きながらその手を握り返してあげた。異様に冷たい手に驚くが私はとにかくレナに声をかけた。
「レナ水飲む?」
「………いらない」
「そう。じゃあ、落ち着くまでこうしてよ。大丈夫だよレナ。辛かったら言って?」
「………」
何なのかは分からないがレナが辛そうなので私は手を擦りながらそのままでいた。レナは聞いても言わないだろうし、貧血か何かならこのままの方がいい。
私はレナの様子を伺いながら心配していたらレナはしばらく経ってから口を開いた。
「もう離して。もう平気だから」
「え、うん……本当に大丈夫レナ?」
「平気だって言ってんでしょ……」
レナはおもむろにゆっくりと立ち上がる。私はそわそわしながらそれを見ていた。そうして立ち上がるとレナはさっきの金を私に押し付けると自分の鞄を持って言った。
「それあげるから……。あいつには言わないでよ。もう帰るから……」
「え、でも……待ってレナ!」
私はまだ若干ふらつくレナの体を支えようとしたらレナに嫌がられた。
「やめてくれる?私は平気だから。立ちくらみがしただけって言ったでしょ?」
「でも、心配だから送って行くよ?家どこ?タクシー呼んであげる」
「ウザい……」
「ウザくてもいいからちょっと座って待ってて?」
私は心配なので強引にその場に座らすと携帯でタクシーを呼んだ。レナは気に入らなさそうだけど一人でこのまま帰せない。私はタクシーが来るまでの間レナに話しかけた。
「レナ来た時から体調良くなかったの?」
「別に」
「熱とかはない?」
「あったら来ない」
「そっか。その、薬とかあるの?まだ具合悪いなら病院に…」
「自分の世話くらい自分でできるから。一々口突っ込まないで」
「でも、心配だからさ……」
レナに嫌そうに言われてもさっきの今じゃ言わずにはいられなかった。話そうとしないけど心配だ。レナは不愉快そうだったのにいきなり笑った。
「じゃあ、明日来て?私の家に。じゃないとまた倒れるかも」
「えっ……うん、まぁいいけど……」
明日は土曜日で暇だからいいが本当に倒れそうで怖いから行こうと思った。レナは笑っているがさっきのは普通じゃなかった。レナは笑いながら鞄から何かを取り出した。
「瑞希は気に入ってるから特別にあげる。昼過ぎならいつでも来ていいから」
「え?こんな物貰えないよ?」
レナが突然渡してきたのは鍵だった。家の鍵だろうがこんな重要なものを貰っても困る。レナはまたしても笑って言った。
「じゃあ、倒れる。いいの?」
「え、じゃあ、貰うよ。じゃあ、昼過ぎに行くから体調悪かったら言ってね?」
「いや」
「言ってよレナ。心配だからお願い」
いやと言われても困るがレナはいやとばかり言う。
逆にいやじゃない時はあるのかと思うもレナは同じ事を言うだけだった。
「いや。それよりタクシーまだ?」
「あ、そうだった。もう来てるわ。一緒に行くよ」
「タクシーまででいいから。家までついて来ないで」
「うん。分かったよ」
私は嫌がるレナを心配しながら外で待っているタクシーまで送った。本当は家まで付いて行きたかったけど明日行くからいいだろう。レナは別れ際は笑っていたが大丈夫だろうか。
私は心配になってレナを送った後に美穂に電話をした。美穂には言うなと言っていたが美穂なら何か知っているだろう。
美穂は何コールかするとすぐに電話に出た。
「はい?どうした瑞希」
「あ、美穂?夜にごめんね?あのさぁ、レナの事なんだけど」
「え?!なに?レナまたなんかやらかした?いやぁ、ごめんね?先に謝っとく」
レナの保護者のような言い方に笑いそうになるが私はさっきの事を話した。
「いや、なんかした訳じゃないんだけど今日会ったら具合悪そうでさ、ふらついて倒れそうになったから。レナには美穂に言うなって言われたんだけどレナ大丈夫なの?」
「あぁ~、マジかぁ……。実はレナはめまい持ちでね、めまいしてると家から出れないくらいなんだよ」
「え?そうだったの?!」
予想外の話に私は心底驚いた。じゃあ、あのまま帰すべきじゃなかったが美穂は続けて言った。
「まぁ、前からだからめまいが来ると数分とか長いとずっとめまいしてたりするけどちゃんと薬は飲んでるから平気だよ。それいつ起きたの?」
「夜だよ。さっき突然来てて……」
「あぁ、じゃあ、まぁ平気じゃない?朝方いつも酷いみたいでめまいして起きれないから。それよりあいつ何にも言わないから驚いたでしょ?ごめんね瑞希。いっつも何にも言わないんだよあいつ」
「そうなんだ。まぁ、驚いたけど大丈夫だよ」
めまいについては知識も経験もなかったがレナのあれがめまいなのは知れたので良かった。あの時めまいがしてると言えばいいのにレナは美穂に対しても答えないスタイルのようだ。
「でも、その……めまいの症状とか酷いの?レナ、本当に辛そうだったから……」
それよりもあのレナが動けないくらいなのが気がかりだ。めまいは分かったが状態はどうなんだろう。美穂はすぐに答えた。
「それはどうかなぁ……?前よりは落ち着いたかもだけどあれストレスからだからレナしか分からん。レナ聞いても答えないから私も困ってんだけど今は一応休職してるから良くなってきてると思うよ」
「そうなんだ……」
それくらい答えて欲しいものだがレナは貸しになるとでも思っているんだろうか。レナの考えは読めないがレナの様子は注意深く見るようにしよう。
「なんか酷そうだったら悪いんだけど教えてくれる瑞希?私も見てんだけどあんまり家とか行くとキレるから」
「あぁ、うん。分かった」
「それより瑞希レナと仲良くしてくれてありがとね?なんかレナで困った事あれば解決はできない気がするけど言ってね?助言はするから」
「うん…………」
レナの手に終えない感は美穂からひしひしと伝わってくる。あのナイフの件を言いたいけれど…………。私はちょっと考えてから聞いてみる事にした。
「あのさ、レナはナイフ?のコレクターなの?こないだ見せられたんだよね」
まぁ、間違ってはいない問いかけに美穂は答えた。
「あぁ、見たの?そうそう。なんか、綺麗だからって家に大量にあるよ」
「あ、そうなんだ………。見るよう?なんだよね?」
「うん。なんか、いつも磨いたり眺めたりしてるからそうなんじゃない?あれでなんかやってんの見た事ないけど。あ、もしかしてなんかやられた?」
「えっ?…全然。珍しい物持ってんなって思って…。変わってるねレナ」
ちょっとドキッとしたが無難に答えた私に美穂は同意した。
「本当だよねぇ。レナとは長い付き合いだけど私もよく分からんし」
「それは分かる気がする。それより明日レナの家に行くんだけど…」
「え?!瑞希レナの家に行くの?!」
「え、うん……。来いって」
場所を聞いときたかった私は驚かれて驚いた。家そんなヤバイのかなと思った私は不安に刈られたが美穂の反応は違った。
「瑞希ありがとう仲良くしてくれて。ていうか、瑞希の事なんか気に入ってるみたいだねレナ。今まで友達になれそうな人をガン無視だったのに…。それより場所とかアイツ教えてんのかな?アイツいつも来てとかしか言わないから大丈夫?」
「あ、その、教えられてないから場所を知りたかったんだけど……」
「あぁ、やっぱり?本当ごめんねぇ、えっとね……」
調度よく言われて私が聞くと美穂は詳細を教えてくれた。私はそれでようやくレナがどこに住んでいるのか知った。駅は知っていたがレナは都内の駅近のマンションに住んでいるようだった。
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