第18話
「意味分かんない!しおより大事なの?!」
「栞も大事だけどレナは今体調悪くて休職してるじゃん。だから……」
「だからって意味分かんない!瑞希のバカ!」
「栞…………」
栞は意味分かんないを連発していてレナを思い出してしまう。ここまで似てるなら仲良くできそうだけど今はそれじゃない。相手がレナだから気に食わないんだろうけどどうしたものか…。栞は昔から嫉妬深くて私が誰かと仲良くしていると焼きもちをやくけどこれはまた違う部類だ。
「瑞希もうしおなんかどうでもよくなったんでしょ?」
「そんな訳ないじゃん。栞も大事だよ?」
「嘘つき。前はもっとしおの事優先してくれたもん!」
「………じゃあ、栞はどうしてほしいの?」
困り果てた私はとりあえず聞いてみる事にした。
栞はそれでもむすっとしていた。
「しおはいつもしおを特別にしてほしいの!」
「うん……今も私には特別だよ?」
「今はあいつが特別だもん。あいつがしおの瑞希取ったのに瑞希は特別みたいに優しくしてる!」
「……別に取るとかそんな話しじゃないよ?今日はお泊まりできないって話しなだけだよ?」
「違う!絶対そうだもん!あいつ性格悪いからしお分かるもん」
栞は珍しく決めつけてきた。私が言えば頷く方が多いのにレナは随分嫌われている。取ったもなにもないんだけど私は栞を宥めるように言った。
「栞?じゃあ、来週お泊まりしようよ?それなら」
「しお今日がいい!今日じゃなきゃやだ!」
「………栞………なんでそんなに拘るの?」
「しお瑞希があいつと仲良くすんの嫌なの。しおはあいつ嫌いなの」
「はぁ………、栞?ちゃんとレナと和解するんじゃないの?さっき聞くって言ってたのにそんなんでどうすんの?」
私はとりあえず栞を落ち着けるように軽く手を握る。この嫌いすぎて意識しまくっているのはよくない。
栞はまだまだ不機嫌そのものだった。
「だって………しおの瑞希なのに。しお久々に瑞希と会ったからもっと一緒にいたいのに瑞希あいつの事ばっかりなんだもん」
「栞の事も考えてるよ?栞の顔見たかったから連絡したしそれでなくても定期的に会ってたじゃん」
「それは、そうだけど……」
「…もう……栞おいで?」
「うん………」
私は機嫌が直らなさそうなので最終手段に出る事にした。栞の腰を引くと栞が首にくっついてきたので栞の背中に腕を回してしっかり抱き締めると昔から言っているいつもの言葉を言った。
「大好きだよ。栞が一番好き」
「……本当に一番?」
「本当だよ。栞が大好きだよ」
「……うん。しおも好き」
これを言ったら次は決まっている。もう昔から機嫌が悪くなったり栞が悲しんだりするとやる事だ。
少し腕を緩めると至近距離で顔を見合わせる。そしてにっこり笑って頬に唇を寄せようとすると栞はねだるように言った。
「瑞希、今日はほっぺじゃやだ」
「……栞、それは彼氏とって言ってるでしょ?」
「…瑞希しおに嫉妬させたくせに……」
「そんなつもりなかったよ?もう、ごめんね?」
私は仕方なく頬ではなく唇にキスをした。
栞は昔から距離が近くてたまにキスをしたがるのでこれはもう受け入れてしまっている。皆には内緒だけど栞は私への独占欲もとても強いので言い出したら叶えないとむくれる事が多いからこれでいいのだ。減るものでもないし栞も喜ぶし。軽くキスをして唇を離すと栞は自分からもキスをして嬉しそうに笑った。
「瑞希好き」
「うん。もう怒ってない?」
「うん。でも、もうあいつのとこ行っちゃうの?」
「んー、まぁ、夜には行こうかなって思ってるけど栞まだいてくれるならまだ行かないよ」
「じゃあ、まだしおといて?まだ行っちゃダメ」
「うん。分かった」
栞の機嫌がようやく直った所で私は内心ほっとした。
レナの話しは栞の前じゃ禁句だろう。やたらめったら話すと栞が不機嫌になって大変だ。
私はその後栞と笑いながら話していたら日が暮れるのはあっという間だった。
その間レナの話題は伏せていたのでいつも通りだったのに栞は外が暗くなってきたのを見ながらまたむくれた。
「瑞希?」
「ん?もっとお茶飲む?」
「ううん。………もう行く?」
「あぁ、そうだねぇ……」
「……しおも行きたい」
「え?」
むくれていた栞は驚く発言をした。どっちも嫌がっているのにどういう事だろう。栞は私にくっついてきた。
「早く済ませたいからアイツと話したい」
「まぁ、それはいいけど………感情的になっちゃダメだよ?」
「……うん。瑞希も仲良くしすぎちゃダメだよ?」
「私は仲良しって言うかそういうあれじゃないけど……分かったよ」
私とレナの関係は言いにくいものがある。
レナは私に好意と言うか興味を持っているだけで好かれているかはよく分からない。レナは好きとか分からないって言っていたし、レナとはまだまだ時間をかけないと本当に友達になるのも難しいだろう。
「瑞希、じゃあどんな仲なの?」
「ん?んー………分かんない。友達だけど友達じゃないと言うか……」
「恋愛って意味?」
「え、そうじゃないけど、んー…………普通ではないかなぁ?レナとは本当にいろいろあるから…」
栞に詳しく聞かれても私ははっきり言えなかった。レナと一緒にいるといろいろ起きすぎて分からない。
栞はそれが不快そうだった。
「意味分かんない。やっぱりしおより特別なんだ………」
「そうじゃないよ」
「もう会って確認するからいい。それにしおの瑞希にちょっかい出されたくないし」
「栞………?別にそんなんじゃないし友達だってば」
「でも、瑞希はっきり言わないもん。なんか、変だもん」
栞の指摘はまぁ、当たってはいた。確かに変なんだけど友達にはなっているが普通の友達ではない。
栞は私が取られるとでも思っているみたいだし昔からこの独占欲はちょっと行きすぎていて違うと言っても聞かない。私の友達にも昔いた彼氏にもこうだった。これはたぶん直らないんだろう。
「瑞希早く行こう?しお気になるからあいつと話す」
「え、うん……。栞喧嘩しちゃダメだよ?」
「うん。平気だよ瑞希」
そうしてレナには連絡したら嫌がるだろうから黙って栞を連れてレナの家に向かった。
この時はまぁ、大丈夫かなと思っていた私は本当にバカだったと思う。二人は仲悪いとかそういうレベルの話ではなかったから。
それが分かったのは早かった。
早かったと言うか、最初に分かった。
栞を連れてレナがいるソファまで行って第一声から二人の空気は悪かった。
「レナいきなりごめんね。今日は……」
とりあえずソファに座っているレナに話しかけるもレナは栞を見て眉を潜めた。
「なんでこいつが私の家にいる訳?キモ。生ゴミ臭いんだけど」
「は?話に来ただけだから。おまえ女優だからって調子乗んなよ」
「………あのぉ、ちょっと……?」
私はさっきまで私にベタベタだった栞にもレナにも驚いた。栞はもう笑ってもないし栞からは聞いた事もないような言葉を低い声で発している。レナは立ち上がると栞の前までやってきて腕を組んだ。私なんか完全に無視だった。
「調子に乗ってんのはあんたでしょ?下手くそなメイクしやがって。わざわざ学校に行ったのになんの勉強してきたの?あ、もしかして頭沸いてた?」
「は?何も知らないくせにほざいてんじゃねぇよ。メイクの何がわかんだよブスが」
「はっ、なあに?僻み?私が女優だからって僻んでんの?気持ち悪。あんたに意識されるとか寒気するわ」
「はぁ?!ふざけんな!!」
「ちょっ!ちょっと!!やめて!!」
会って数分もしない内に栞から掴みかかってレナも手を出そうとしたから二人の手首を掴んで止めた。
女にしては凄い力だけどどうにか二人を離すように間に入る。美穂はこれをどうにかしていたのかと思うと本当に凄いと思う。こんなに酷いのを私は止められるのだろうか?私は落ち着けるように二人を見ながら言った。
「手出しちゃダメでしょ?もっと落ち着いて話せないの?」
「………私悪くない」
「はぁ?このゴミどうにかしてくれる瑞希?臭くてたまんないんだけど」
「はぁ?!」
「こら!栞!」
栞はぶちギレていてまた手を出そうとしたからその手をしっかり掴んで止めた。栞は私を気に入らなさそうに見てくる。こりゃ、どっちの肩も持てないがどうにかしないと。栞は私には二人の時のように怒ってきた。
「瑞希なんで私ばっかり怒るの?!こいつの味方なの?!」
「そうじゃないけどダメでしょ手出したら。今日は感情的にならずに話すって言ったじゃん?」
「だって!!……嫌み言われてるのに私悪くない!」
「栞……」
栞は引かなさそうだった。誰が悪いとかそういう話ではないんだけど……。私は栞よりは落ち着いているが不快そうな顔をしているレナに代わりに言った。これじゃ私が言わないと話は終結しない。
「レナ、今日は一応前にレナがなんで栞のメイクに文句言ったのか話し合いに来たから理由を教えてくれる?」
「だから気に入らないって言ってんでしょ?ラメだのなんだのシンプルでいいのに下手にいろいろ塗るなよ」
はっきり言ったレナには言葉をもう少し選んでほしかったけど無駄である。栞は信じられないくらいキレだした。
「それはあんたを引き立てるためにやったんだよ!伏せた時に栄えるように…」
「あんなんで栄える訳ないでしょ?あんたのその目飾りなの?」
「おまえ!ふざけんな!!」
「ちょっと!!栞!」
私に対する態度も言葉遣いも全て違う栞はまたしても掴みかかろうとしたので私は押さえながらレナを背にするように間に入った。こんなキレていてしかもふざけんなとか言う栞を見た事がない私は驚きの連発で正直怖いけどどうにか止める。栞は態度も顔も本当に怒っていた。
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