第17話
私達はそれからご飯を食べながらいろいろ話したが案外楽しかった。レナはどうでもよさそうだったけど二人とは長いし昔話しにも花が咲いた。
また飲み会をしようと約束して解散したが別れる時に栞の件を本当によろしくね?と美穂に真面目に頼まれて困惑した。栞は忙しいから私からは連絡をあまりしない。いつも栞から連絡が来て会うけどこの際連絡をしてみるか。栞とは最近会ってないから顔を見ときたいし。
私はその日帰って栞に久しぶりと連絡してみた。
最近会ってないから会いたいとも言ったけど仕事が忙しくて都心にいなかったりするから会えるだろうか。
その日はそのまま返事がなく次の日起きてからも返事は来なかった。これは会うのは当分無理かなと思った私はとりあえずレナの家に様子を見ながら泊まりに行こうと思ってその準備をしていたらインターフォンが鳴った。
もしかしてレナ?と不安に思いながらモニターを確認するとそこには栞がいた。
私は驚いて玄関を開けると栞は私に抱きついてきた。
「瑞希会いたかった!!元気だった?瑞希が会いたいって言うから来ちゃった!」
「栞?驚いた。元気だったよ。ありがと来てくれて」
そっと私から離れる栞は前会った時から変わりなかった。レナのようにスラッとしていて背は高いが小動物っぽくて可愛らしい印象の栞はいつもの茶色のストレートのロングヘアにパーマがかかっていた。
「あれ、パーマかけたの栞?」
「うん。拓哉にやってもらったんだよ?似合うかな?」
可愛らしい栞はレナとは比べ物にならないくらい高い声で言った。この栞が乱闘事件になりそうなくらい怒るなんて本当なんだろうか…。しかも髪をやった時に悪態までついていたなんて私の前ではいつもこんな感じなのに。私はにっこり笑った。
「うん。可愛いよ。パーマも似合うね栞」
「ありがと瑞希。瑞希今日お土産持ってきたよ?こないだ京都に仕事で行ってたから」
「そうなの?わざわざありがと。あがって栞?」
「うん!」
私は栞を招き入れるととりあえずお茶を用意してあげるためにお湯を沸かした。栞はアールグレイの暖かいやつが好きなのでそれを入れてあげないと機嫌が悪くなる。
私がキッチンで準備していると栞は私の隣にやって来た。
「瑞希?」
「ん?座ってていいよ栞?」
「ううん。瑞希しおとそんなに会いたかった?」
栞は自分の事を私と二人だとしおと呼ぶ。これは昔からだけとそんな所も私は妹のように感じてしまって可愛かった。
「うん。最近会ってなかったじゃん。だから会いたかったよ」
「そっか。しおも会いたかった。しお瑞希と会えなくて寂しかったし」
「栞は寂しくないでしょ?彼氏いるじゃん。彼氏とは順調なの?」
栞は昔から凄いモテるから男には困らないタイプだ。気分で付き合ったり付き合わなかったりする時があるけど前に会った時は彼氏ができたと言っていた。栞は横から抱きついてきた。
「彼氏と瑞希は違うもん。それにもう別れたよ?しお忙しくなっちゃって彼氏どころじゃなくなっちゃったから」
「そうだったの。栞ちゃんと休んでるの?忙しいのはいいけどちょっと心配だよ」
「今やっと落ち着いたから平気だよ。だから瑞希しおとどっか行こう?しお瑞希とお出掛けしたい」
「んー?いいけど。どこ行きたい?」
よく抱き付いてくる栞の頭を軽く撫でて私はコップにお湯を注いだ。栞は嬉しそうに話した。
「しお瑞希と旅行行きたい。瑞希と美味しい物食べて温泉入りたい」
「うん。いいじゃん。じゃあ、皆誘う?美穂とか拓哉とかも。あ、そういえばレナとも知り合いなんだって?」
私はちょうどいいのでレナの話題も出してみた。
すると栞は美穂が言った通り明らかに機嫌が悪くなった。
「しお、あいつやだ。瑞希知り合いになったの?」
「うん。友達になったよ。レナの事嫌いなの?」
「……うん。メイクの事とか分かってないのによく口出ししてくるし、文句言われるんだよしお」
「まぁ、レナは変わってるしレナが思う綺麗と栞が思う綺麗が違うからじゃない?私は結構好きだけどなレナ」
私はむすっとしている栞を少し離すと栞のお茶を持って居間に移動した。そして座りながらコップを机に置くと栞はむすっとしたまま私の隣に座って腕を引いてきた。
「しおよりあいつが好きなの瑞希?」
「え?比べるつもりはないけどどっちも好きだよ?」
「……もうやだ瑞希!バカ!信じられない!」
「……栞」
栞は私の腕を離すと背中を向けてしまった。
これは相当仲が悪いみたいだ。栞がこうなるのは中々ない。レナと同じように子供の栞は癇癪を起こしたりすると今みたいにあからさまに怒ってますみたいな態度をする。でも、いつも子供がするような怒り方をするからレナが怒っているとかとは比べ物にならない位圧はない。だから私には機嫌が悪くなったとしか思えないのだがこうなると機嫌を直すのが大変だ。
私はとりあえずいつものように後ろから栞を抱き締めた。
「栞ごめんね?どうしたの?」
「知らない!」
「栞教えてよ?ね?」
「やだ!瑞希のバカ!」
機嫌悪そうに言う栞はへそを曲げてしまっている。これは困ったぞ。レナよりはマシだけど栞は別の意味で長引くと厄介である。私は栞の機嫌がよくなるようにいつも言っている事を言った。
「栞大好きだよ。そんなに怒らないでよ?久々に会ったのに」
「……瑞希も久々に会ったのにしお以外の話するじゃん。しかもしおと同じくらい好きって信じらんない。しおと瑞希の方がずっと前から仲良しなのに」
「うん。ごめんね?栞の方が好きだから許して?」
「……じゃあ、ちゃんと抱き締めて?後ろからじゃやだ」
こちらを向いてくれた栞は機嫌が良くなったようだ。久々に会ったから許してくれたみたいだがこのまま機嫌を維持しないとまた悪くなっては困る。私は栞を抱き締めると栞も抱きついてきた。
「栞もう怒ってない?」
「うん。でも、今日はくっついてないとやだ」
「うん。いいよ」
仕方ないので要望を受け入れると栞は身体を離して私に背中を向けると凭れてきた。私はそんな栞を軽く抱き締めてやると栞は私が淹れたお茶を一口飲んだ。
「瑞希美味しい」
「ん、よかった」
「ねぇ、瑞希?」
「ん?」
「瑞希はあいつとよく遊ぶの?」
栞はそれから気に入らなさそうに聞いてきた。
あいつはレナだろうがお互いにあいつ呼ばわりとは会ったらどうなるんだろう。私は正直に答えた。
「うん。最近はよく会うよ?レナ体調悪いみたいだから心配なんだ」
「そっか。しおよりも心配?」
「栞?そういう聞き方しないで?困っちゃうよ」
「うん……。ごめんね瑞希」
「いいよ」
栞は昔から自分が一番でいたい人だからよくこういう聞き方をする。栞はなぜかふて腐れていた。
「瑞希なんで友達になったの?瑞希にはしおがいるのに」
「んー、まぁ、いろいろあってね。だめなの?」
「ダメって言うか……瑞希はしおの友達なのに……」
「栞もレナと友達になればいいじゃん」
「絶対無理。あいつムカつくんだもん。しおは専門的な勉強して経験も積んでメイクしてるのに全否定して文句言ってくるんだよ?あり得ないあいつ」
可愛らしくぷんぷんしている栞は下手くそって言われたのが兎に角気にくわないようだった。レナじゃ他にも普通に酷い事を言いそうだけど二人は子供過ぎて歩み寄る精神がない。
だから着眼点のずれが理解できてないんだろう。
でも、たぶんレナよりは栞の方が歩み寄れると思うから私は優しく言ってみた。
「栞はなんでレナが文句言ったりしたか聞いたの?」
「聞く訳ないじゃん!真っ向から全否定してくるからしお言い返してやった。しお間違ってないもん」
「んー、確かに栞がムカつく気持ちも分かるけど人の意見って沢山あるし、一つの事でも考え方が山ほどあるんだからまずはなんで?って聞いてみたら?そしたら意外にあぁそうかって思う事があるかもしれないよ?」
「………ムカつくからやだ」
「でも、栞はメイクのプロでしょ?プロがそんなんでいいの?」
栞は仕事にプライドを持っている。下積みの時からすごい頑張ってたし栞は子供で我が儘だけど真面目で勉強熱心だ。だからこう言えばきっと求める返事が返ってくるはずだが…栞はまだふて腐れていた。
「確かにプロだけど、あんなやつになんでしおが……」
「怒ってばっかじゃ何にも解決しないんだよ栞?」
「うん………」
「それにもっとかっこよくて凄いメイクのプロになってほしいのに、栞がそんな事で怒ってるなんて私残念だなぁ~」
栞は私の気持ちをよく聞いてくるし私の反応を気にするから私はちょっと残念そうに言ってみた。すると栞はふて腐れるのをやめて慌てて言ってきた。
「瑞希!しお聞くよ?このままじゃよくないとは思ってたから聞いてみるから!」
「本当?じゃあ、頑張ってね栞?応援してるから」
「うん。やだけど頑張る。でも、頑張ったら誉めてね瑞希?あと、しおと遊びに言ってくれないとダメだからね?」
「うん、いいよ」
聞いてくれたけど栞は昔からこうやって条件を提示してくる。内容は簡単だし栞は叶えるとすごい喜ぶからいいけどこういう所はレナと似ている。
レナよりも大分可愛げがあるよ。美穂には二重人格と言われていたけど。
「やった。約束だからね瑞希。あ、ねぇ瑞希?」
「ん?」
「しお今日泊まってもいい?明日瑞希休みでしょ?ダメ?」
そうしていつもの流れに断りにくいなと思って苦笑いしてしまった。
「あぁ、実は今日レナの家に泊まりに行くんだ…。ごめんね栞?また今度泊まりに来て?」
栞はレナの名前を出した途端むくれてしまった。この流れは不可抗力なのに。栞は明らかに不機嫌そうに言った。
「瑞希なんであいつの家に泊まりに行くの?!」
「レナの体調心配だからちょっと様子見に行くついでだよ」
「でも!そんなんなら泊まんなくていいじゃん!なんで?!」
「ん~、レナは友達いないしいつも一人みたいだから一緒にいてあげたいの」
こう言っても栞は頷かないだろう。
栞はしかめっ面だった。
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