第19話
「なんでこいつを守るの瑞希!?瑞希はしおの味方でしょ?!」
「だから暴力はダメでしょ栞?もっと落ち着いて話せないの?」
「しおはずっと落ち着いてるもん!!しおは悪くないのに!!瑞希ずっとしおの事責めるの酷いよ!!」
「私別に責めてないよ?栞とりあえず落ち着いて?そんなに怒らないの」
栞はもはや聞く耳を持っていなかった。というかもう怒りすぎて何も納得できないんだろう。守るより止めてるんだけど栞には私がレナに味方しているように見えている。これは困ったと言うかもうどうしたらいいか分からない。レナはレナで栞を挑発するような事ばかり言うし、栞はもうレナの全てが気に入らないみたいだし………。私がどうすべきか悩んでいたらレナが急に後ろから抱きついてきた。
またレナがやらかすのはそれだけで感じ取れたけど私には何をするのかが予想できなかった。
「しおには悪いけど瑞希は私と友達だから私の味方なの。私達って見ての通りすっごく仲が良いから……見てて?」
「ちょっと……」
私の顔を覗き込むように横から顔を寄せてきたレナはとても綺麗に笑ってキスをしてきた。私はそれで血の気が引いた。これは、まずいとかの話ではない。栞の前でこれはヤバい。栞は信じられないような顔をするとすぐに傷ついたように涙を溢した。
「瑞希のバカ!!」
「いっ!!……ちょっと!栞!」
そして私はレナのせいで栞からビンタを食らった。
何もしてないしむしろ仲を取り持っていたのに二次被害を受けた私は凄い勢いで出て行ってしまった栞に唖然とした。栞が泣くなんて今までほとんどなかったのに………。これは本当にヤバいだろう。だけど私とは違ってレナは楽しそうに笑っていた。
「はっはっはっは……アイツなに?瑞希のバカ!とか笑えるんだけど」
「レナ………、本当にいい加減にしてよ?」
「なにが?私達が仲良しなのを見せつけただけじゃん。アイツの顔思い出しただけで笑える。ふふふ、笑えてしょうがないわ」
レナはやはり性悪だった。分かっててやったんだろうが相手が栞じゃ最悪だ。これはすぐにでも追いかけないと。私が歩きだそうとしたらレナは抱きついたまま私を止めてきた。
「ちょっと?私言葉でいいのめして我慢したんだからご褒美は?」
「分かったから後にしてくれる?私栞を追いかけないと」
「なんで?追いかけてもどうせしおがしおがって怒って終わりじゃない?あいつウザいし」
レナが言ったそれは確かにあっているだろう。だけど栞が泣くのは緊急事態だ。栞が泣くのを大人になってから初めて見たから。
「でも、行かないと。このまま放っておけないから。レナ一人で平気?」
「平気に決まってんでしょ。それより約束守ってよね?」
「分かってるよ。やり方は最悪だったけど我慢できたからするから」
「そう」
私はレナの腕が緩んだので振り向いて一応誉めてあげる事にした。反省は多いし最悪な事しか言ってなかったが昔に比べたらレナは我慢ができていて進歩だった。ナイフで切ろうとしていたのに比べたらよくできた方だ。
「ああやって我慢するんだよ?すぐに手出しちゃダメ。言いたい事はまぁ…いろいろあるけど我慢できたのは偉いよレナ」
「なに?いきなり誉めるなんて何か欲しいの?」
「そうじゃないよ。ただ、前より成長したから。良かったって思って。少し大人になったじゃん?」
「前から私は大人だけど?」
レナは美しく笑うとまたキスをしてきた。これがなければあんな事にはならなかったのに。
「ちょっと、レナ?」
「なに?別にキスくらい減るもんじゃないでしょ?」
「そうだけど……もう栞の前ではやめてよ?栞は嫉妬深いし独占欲も強いからさっきの本当に傷つけたんだからね?」
「はぁ?キスの一つや二つで何言ってんの?」
「レナには分かんないかもしれないけど人によってはキスの一つや二つが大問題なの。いいから次からはやめてよ?分かった?」
レナはなんで栞が泣いて出て行ったのか理解できてないが説明しても理解できてなさそうだった。でも、次からはやらないように言っておかないとまたこんな事が起きたら私が大変な目に遭うだろう。レナは私から離れるといつものソファに座った。
「はいはい。それより早く行ったら?あいつがどうしてるか詳しく教えてね瑞希」
「………レナもうあんまり栞を刺激するような事言わないでよ」
「私は事実を話しただけだけど……あぁ、しおみたいに可愛らしく言えって事?あいつあんなぶりっこだとは思わなかったわ。本当キモイ」
「レナ?真似しないでよ絶対」
「はいはい」
栞で楽しむのはこれで終わりにして欲しいものだが、ちゃんと言う事を聞くかは分からない。
私はとりあえずご飯と薬を飲むのと何かあったら連絡するように伝えてレナの家を出た。
栞は電話を掛けても出ないがたぶん家にいるだろう。
いつも怒ると家に引き込もって私が行って宥める流れだから私は栞の家に向かった。
栞の家の鍵は栞から貰っているので私は栞の家につくとエレベーターに乗って栞の部屋に向かう。玄関のドアを開けると思った通り栞の靴が無造作に脱いであった。
「栞?瑞希だけど入るよ?」
私は一応声をかけて部屋に上がった。
レナのせいで散々で神経が磨り減るがどうにか宥めないと。栞は奥にあるベッドで座って泣いていた。
「栞?ごめんね?レナいつもああやってふざけたりするだけだから気にしないで?」
私は泣いてる栞に言いながら近寄るとベッドの縁に座る。すると栞はあからさまに私に背中を向けた。
「栞?ごめんね?そんなに泣かないで?」
「触らないで!」
「うん……ごめん…」
肩に手を伸ばしたら泣きながら嫌がられてしまった。
こんなに泣くのも嫌がるのも初めてで困ってしまう。栞は近くにあったクッションを私に投げてきた。
「もうどっか行って!」
「うわ…!…ごめんね栞」
「もう瑞希の顔なんか見たくない!バカ!」
「……うん………ごめん」
栞は泣きながら怒っていた。どうしよう。話し合うつもりがこんな事になるなんて………。美穂に助けを求めたい気分だが美穂に頼る訳にもいかない。というか、栞を宥めるのはいつも私の役目だった。私は泣いている栞に話しかけた。
「栞?どうしたら許してくれる?」
「……」
「もう私の事嫌いになった?」
「嫌いじゃない…」
「そっか……」
それだけ答えてくれただけでもありがたい話だ。
私はちょっと安心しながら栞の前に移動すると下を向いて泣いてる栞の顔を覗き込んだ。
「栞?泣かないで?私が悪かったから許してよ」
「やだ……」
何を言っても動かなさそうだがさっきよりは話せる。私は涙目で睨んでくる栞にキスをした。何度かキスをして嫌がらない栞に私は舌を絡めた。私がレナに取られたと本気で思って嫉妬させているのだ、それに私じゃないけど傷つけて泣かせた代償としてはこれは軽い。
「はっ………ん、みずき……?」
「なに?」
ようやく名前を呼んでくれた栞。私は唇を離すと栞はやっと泣き止んでくれた。
「しおの事好き?」
「うん。大好きだよ?すっごい好き」
「……うん。……さっきは叩いてごめんね?」
「ううん。いいよ。私も傷つけてごめんね?」
私は悪いと言うか風評被害を受けた感じだけど改めて謝った。レナが悪いんだけどレナは謝らないし、あれは栞に内緒にしていたから罪悪感が少しある。栞は私に抱きついてきた。
「許すけど……瑞希はあいつの味方なの?」
「味方とかじゃなくて栞はレナに掴みかかってたじゃん。ああいう事はしちゃダメでしょ?」
「…………だって」
「だってじゃないの。手はやたらめったら出しちゃダメ。約束できないなら栞の味方できないよ私。いいの?」
「分かった。約束する……」
「うん」
栞はあっさり頷いた。レナよりはまだ扱いやすいがあんなにキレるなんて栞は違うところではレナより子供だ。またあんなのが起きたら私も止められない可能性があるし私は付け足すように言った。
「栞自分と違うからって怒ってたらキリないからもっと歩み寄れるようになりな?絶対受け入れないんじゃなくて、いろんな意見あるよね、いろんな人いるからって少しは思わないと。それから少しは話を聞いて考えてみたら違うように思うかもしれないよ?」
「……瑞希またしおの事責める……やだ」
「責めてないよ?私は栞が好きだからもっと視野を広く持ってほしいの。視野が狭くていい事ってないし、私は栞にもっと広く世界を見てほしいだけ」
栞が怒るのも何となく分かるがもう少し歩みよりの精神がないと何も上手く行かない。栞はいじけて黙ってしまったので私は顔を寄せて栞を見つめた。
「栞?また怒ってるの?」
「怒ってない。……怒ってないけど……」
「気に入らない?」
「……瑞希はしおのなのに、あいつにばっかり優しい…」
「もう、そうじゃないよ?」
栞はいじけモードに入ってしまったので特別な事を示すべく、私は笑ってまたキスをした。栞の機嫌を確実に直すにはこれしかない。何度かキスをして私は栞に笑いかけた。
「栞大好きだよ」
「じゃあ、もっとキスして?これだけじゃやだ」
「……今日だけだからね?」
栞の我が儘を聞いてキスをする。すると栞は私の首に腕を回して舌を入れてきた。レナよりも特別を望んでいるんだろうがこれは応えないとたぶん機嫌を悪くする。
私は背中に腕を回しながら自分からも舌を絡めた。こんなキスを栞ともしてしまうなんて私は甘いと思う。それに倫理的に考えてダメだ。だけど、好きだし嫌じゃないから受け入れてしまう。
積極的にキスをしてくる栞と長々キスをしていたら栞は甘い吐息を漏らした。思わずドキリとするくらい悩ましい声だがそろそろやめないと。私は栞の頬に手をやりながら唇を離すと栞は熱っぽい顔をしていた。
「栞?もうダメ。終わりね?」
「……しおもっとしたい。それに…」
「だめ」
「瑞希…」
「今日は一緒にいてあげるからだめ。帰っていいの?」
「やだ。一緒にいて?」
「うん。じゃあ、終わりね」
まだ求めようとした栞をようやく宥めて私は栞の背中を撫でた。
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