第6話
「レナなに言ってんの?」
思わずそう言ってもレナの態度は変わらなかった。
「なにってそのままだけど。耳ないの?」
「いや、あるけど……」
「ねぇ、欲しい物ないなら私が殺してもいい?殺すって言うか…時間をかけて痛め付けたい。きっと愉しくなるんじゃない?私も瑞希も」
レナはちょっとした提案のような感覚なのだろうがこれはさすがに冗談なのか何なのか分からない。
殺すなんて言われた事がなかった私はさっきから愉しそうなレナに言った。
「今度はからかってるの?」
「からかう?そんな訳ないでしょ?人って興味ないから相手にするの嫌いなの。でも、瑞希は笑えるから相手にしてるだけ。本当に見てるだけで笑える」
「…そう……」
「なんでそんなに面白いの?愉しくてたまんない」
どういう意味か分からなくて言葉が出ない。苦い顔をする私とは違ってレナは笑うだけだった。私の何がそんなに愉しいのか分からないが私は刺されてはたまったもんじゃないので動こうとしたらナイフを首に突きつけられた。レナはもう無表情だった。
「なに動いてんの?動くなって言ったでしょ?」
「う、うん。ごめん………」
「ごめんじゃないから」
「うん。レナ……いっ!」
もう一度謝ろうとしてすぐにナイフを手前に引いて首を切ってきたレナ。今度は鋭い痛みを感じてすぐに首に手を当てたが深くは切れていない。動いただけでこれとはレナを怒らせたら私はもっと痛い目を見るだろう。レナは至近距離まで顔を寄せると力強い眼差しを逸らさずに無表情で囁いた。
「ねぇ、痛い?」
「うん……痛いよ」
「じゃあ、約束した事くらいちゃんと守って?私は約束を破るやつが嫌いなの」
「うん。ごめん……」
鋭い眼差しが蛇のようで怖い。私は無表情のまま何も言わないレナに緊張していたらレナは急ににっこり笑うと私の首の傷を舌で舐めてきた。ざらつくそれに恐怖心は減らないし舌が傷に触れて痛い。でも、動いたらさっきよりも酷い事をされる。レナは舐めながら聞いてきた。
「ふふふ。瑞希痛い?」
「うん………ちょっとだけ」
「そう」
レナの声音は愉しそうだが緊張は増す。レナは舐めるのを止めると私の頬に手を添えて私と顔を合わせてきたと思ったらそのままキスをされた。
突然のそれにさっきよりも驚いていたらレナはまた笑っていた。
「……レナいきなりなに?」
「なに?キスした事ないの?」
「……いや、あるけど………」
「ふふふ。ねぇ、瑞希どんだけ面白いの?ふふふ、本当に笑える……」
堪えきれないように笑うレナは私の肩に手をおいて笑いだしたが舐めたのもキスしたのも理解できない。なんなんだいったい。レナにいろいろやられ過ぎて頭が追い付かない。レナは愉快そうに聞いてきた。
「ねぇ、またキスしていい?」
「え、ダメだよ。レナなんなの本当に」
「何が?」
「いきなり舐めたりキスしたりさ………だいぶ意味分かんないんだけど」
「なに?だめなの?」
「いや、だめとかの前に普通しないでしょ?」
全く私の気持ちなんか分かっていないレナは至って普通に答えた。レナは本当に一方通行な人だ。
「は?だめじゃないならいいじゃん」
「いや、あのねぇ、そうかもしれないけど」
「納得いかないから金が欲しいって事?」
「いや、あの、違うんだよ。そうじゃなくて、そういうの付き合ってる人達がやる事でしょ?」
「は?付き合ってなくてもするでしょ?私は仕事でもするし」
「………いや、そうだけど……今はプライベートでしょ?」
「だから?プライベートでもしたかったらするでしょ?」
「……うん………いや、もういいよ。そうだねレナ」
私は歩み寄れなさそうなレナに諦めた。長々途方もなく頭が痛くなるような会話になりそうだから妥協する事にした。減るもんじゃないし、断っても断れないし。
「そう。じゃあ、またしていいって事?」
艶やかに笑うレナにそうなってしまうが言うだけ言っとこうと思った。
「あんまりしないで?よくないから」
「いや。ふふふ、愉しくなりそう」
「レナ?……いいから頼むよ?……あと二人の時じゃないと大変な事になるから二人の時ね?」
「そんなの私の勝手でしょ?そうだ、瑞希は特別にいつでも私にしていいからね?」
私から離れてソファの背に凭れるレナ。そんな事を言われても私からはしないだろう。話すだけでも一苦労なのに、レナはこれも遊び感覚なんだろうか。私はとりあえず断っておいた。
「私はしないからいいよ」
「あっそう。じゃあ、瑞希からキスして?今」
「…………話し聞いてたレナ?」
「聞いてたけど?それより早くして?」
「…………」
話を聞いているくせにこちらの表情を楽しむように言ってくるレナにため息が出そう。レナはソファに凭れたままだが、私は改めて断った。話している内容がさっきから噛み合ってないけどおかしいもの。
「しないって言ってるでしょ?」
「なんで?」
「なんでも」
「は?」
「とりあえず私はしないから。レナはなにか他の事をして?」
「ふーん…」
噛み合わないレナは笑いながら何とも言えない返事をした。ふーんって一応頷いたのだろうか?理由を言っても無駄だから適当に言ってみたがレナはソファから動かない。
「じゃあ、来て?」
「え?なんで?」
「なんでも。いいから近くに来て?」
「……ここでもいいじゃん」
「よくないから言ってるの。早く」
突然呼びつけられても身の危険を感じる。レナは何をするか分からないから一定の距離を保ちたい。
どうしようか悩んでいたら笑いながらレナは私の方に来て強引に手を引いてきた。その勢いで私はレナに抱きつくように身を寄せてしまった。
「わぁ!ちょっとレナ!」
「あんたが来ないからでしょ?」
「だからって強引だよ」
「だからなに?それよりキスは?私は待つのは嫌いなの。知ってるでしょ?」
レナはきつく抱き締めながらまたナイフを首に突きつけてきた。もはや強要のこれは恐怖しかなくて動けない。レナは私をじっと見つめながら笑っているが断りでもしたら次は深く切られそうだ。
「瑞希?聞いてるの?私手が滑りそうなんだけど」
おかしそうにクスクス笑うレナは早くしろと催促してきた。私はもう仕方ないので意を決してすぐそばにいるレナにキスをした。触れるだけのキスなのに首に当てられた刃物のせいで緊張と不安がピークになるだけだったがレナは切らないでいてくれた。
「ふふふ。それだけ瑞希?」
「まだしたいの?」
「勿論。愉しいから早くして?」
「……切らないでよ?」
「それは瑞希次第でしょ?するの?しないの?」
遊ぶかのように言われてもナイフが首にある以上抵抗はできない。こうやって女のレナにキスをするとは夢にも思わなかったがレナの遊びに付き合えば痛い思いはしなくて済む。私は愉しそうなレナにまたキスをした。一回で終わりにしてはまた言われそうなので何度もキスをするとレナは舌を入れてきて驚くが拒否する選択はない。私はそれに応えるようにキスをしていたら首に当てられたナイフが食い込んで痛みが走る。これじゃ話が違う。私はキスをしながら言った。
「ふっ……はぁ、レナ、首、いたい……」
「はぁっ……あぁ、ごめん。愉しくなっちゃって力が入っちゃった。許して瑞希?」
キスを止めてくれたレナはナイフをやっとテーブルに置いた。これで一応は安全が確保された。だがレナに抱き締められているから身動きが取れない私は機嫌良さそうに謝ってきたレナを許した。
「いいけど……消毒液とかないの?」
「あいつが何かあったらって持ってきてたと思う。ちょっと待ってて?」
「うん……」
さっきよりも優しい対応をしてくれるレナは私を離すと違う部屋に探しに行ってくれた。それが少し異様に見えて驚くが機嫌がいいからなのか小さい箱を持ってきたレナは私のすぐそばに座ると中を開けた。
「私がやってあげるから動かないで?楽しませてくれたお礼」
「……うん」
「ふふふ。ねぇ、売る気になったらいつでも言って?私が買ってあげる。瑞希ならいくらでも出してあげるから」
「…………うん。そんな気にはならないと思うけど」
レナはあの無表情からは考えられないくらい愉しそうだった。人の反応を見てここまで変わるなんて私はそんなに面白かったのだろうか。よく分からないでいたらレナは消毒液をティッシュに含ませると私の首に当ててきた。それは染みて痛いが我慢はできる。痛みで顔が歪む私にレナは嬉しそうに言った。
「ふふふ。ねぇ、その顔やめて?殺したくなる」
「……痛いんだからしょうがないでしょ」
また厄介な発言をする。殺されてはたまらないが痛いものは痛い。レナは更に続けた。
「でも、やめないと殺すだけじゃ済まないかも。瑞希面白いから切り刻みたくなるし、虐げたくなっちゃう」
「……じゃあ、痛い事しないでよ?」
「いや。私は瑞希が嫌がる事が好きなの。それに、瑞希の血を見るのも愉しいからやめられない。ねぇ、瑞希?」
「…なに?」
結局私の意見は無視で話しは進んでいく。言っている事はヤバイが要するにサド気質なのも大概にしてほしいものだ。もうレナには慣れたがこれじゃいつか本当に死にそうな気がする。次は何を言われるのかと思ってレナに視線を向けるとレナは首にガーゼを貼って私の腰に腕を回して密着してきた。
「キスして?」
「……次は本当に切らないでよ?」
「勿論」
言う事は聞いといて損はない。いや、聞いておかないと身の危険がある。私はレナにまたキスをした。
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