第24話



「しおはあいつの事好きじゃないよ?!瑞希の方が大好きだし!!」


「本当?栞何かとレナの話ばっかりじゃん。やっぱ好きなんじゃないの?」


「好きじゃない!しおは瑞希しか好きじゃない!!本当だよ瑞希?!」


栞はさっきまで不機嫌だったのに必死に弁解してきた。ちょっと困ってる感じの栞は私の変化に目に見えて反応する。ここまで来たなら後はこちらの波に乗せてしまおう。


「じゃあ、あんまりレナの悪口言わないで?なんか好きみたいに聞こえちゃうから」


「うん!分かった!分かったから瑞希勘違いしないでね?しおはあいつじゃなくて瑞希が好きだから」


「うん。悪口言わないなら信じる」


「うん。もうあんまり話さないから大丈夫だよ。しお本当に瑞希の事好きだから」


言いきった栞は必ず守るだろう。私に嫌われたくない栞はいつも私の気持ちを優先する。それに私が好きだから栞は私を好きな気持ちで動く。長く一緒にいれば栞の行動原理は理解できている。私が分かったよと言うと栞はうんと返事をしたけれどなぜかそわそわしていた。


「栞?どうしたの?」


次はなんだと思いながら尋ねるとそわそわしていた栞は急にキスをしてきた。いつも私にキスしてと言ってくる栞が自分からキスをするのは珍しくてキスをしたくせに照れていた。


「……瑞希好きだよ…」


「うん。知ってるよ。いきなりどうしたの?」


「誤解されたくないから……しおの気持ち伝わった?」


「うん。伝えてくれてありがと栞」


私はなんだか栞が可愛らしくてお返しに軽くキスをした。たまに、照れたりするけど栞は単純だからこういうとこが可愛らしくて憎めない。私が笑いかけると栞は照れながら可愛らしく笑ってくれた。



それからは栞とよく遊ぶようになった。

仕事終わりにご飯を食べたりドライブに出掛けたり二人でよく遊びに行った。だからとても楽しくて充実していたがあれからレナと会っていない。レナは連絡もしてこないし大丈夫だろうか。美穂は一応大阪から帰ってきてから連絡をしていたがレナの事は特に言っていなかった。だけど心配だから会いに行く事にしようと思った。どうせ一人だろうし泊まってレナの話し相手にでもなろう。


私は週末、仕事終わりに荷物を持ってレナの家に向かった。一応連絡したけど無視だったから勝手に行く。レナに貰った鍵で部屋のドアを開けるとレナが履いている高いヒールの靴が一足だけある。今日は美穂も誰もいないようだ。私は靴を脱いで上がるといつものソファにレナは座っていた。ナイフを眺めているレナはいつもと変わりはなさそうで安心する。私は荷物を置きながらレナに話しかけた。


「レナ遊びに来たよ。今日は泊まるね。体調はどう?」


「別に」


「本当に平気?」


「別に」


ソファに座ってレナの顔を改めて見るも私なんか眼中にないレナは無表情でナイフを眺めている。

まぁ、この感じなら大丈夫そうか。


「ご飯食べたの?」


「食べてないけど」


「じゃあ、食べる?今日は来るついでに買ってきたから」


「いらない」


「いらないじゃなくて少しは食べな?準備するから」


私は来る途中で買ってきた食べ物をテーブルに並べた。

レナは相変わらず興味がなさそうだったけど私はどうにかご飯を食べさせた。それから風呂に入って髪を乾かそうとしないレナの髪を乾かしてあげるとレナはいつもの定位置に座る。そして私に言ってきた。


「ねぇ、しおは怒ってた?」


それはあの日の事を聞いているのだろう。私は呆れながら答えた。


「怒ってたよ。ああいう事しないでって言ったでしょ?喧嘩しないようにするって言ったじゃん」


「別に喧嘩なんかしてないじゃん。あいつが勝手に意識してきただけでしょ?ふふふ……それにしても愉しかった」


「やめてよ?栞にも言っといたからもうあんな事言わないと思うけどトラブルを起こそうとしないで」


「じゃあ、愉しませて?愉しくないと退屈だからしたくなっちゃうの」


突然怪しく笑い出したレナに不安が募る。レナはやっぱり大きな子供だ。子供よりも考えている事が悪質である。


「じゃあ、明日どっか行く?どこも行ってないでしょ?」


「もしかしてこないだみたいにドライブしたいの?」


「あれは勘弁して。一緒に死ぬとこだったよあれは」


普通に提案したのにこれだ。もしかしてとか言っているがふざけているのか何なのか……。レナは愉しそうに笑った。


「怖がって愉しそうだったのに。じゃあ、しおも呼んで出掛ける?思い出に残りそうなくらい愉しくなりそう」


「栞はダメ。呼んでも来ないだろうし二人だからね絶対」


「そう。残念」


「レナ?約束をもう少しちゃんと守ってくれる?喧嘩しないようにするんだからああやって煽らないでしょ?」


レナには約束させたけど栞で楽しんでいる面があってうまく行かない。レナはどうでもよさそうだった。


「あいつに言ったら?別に私は事実しか言ってないしぶつかってない」


「だったらあんな事わざとやらないでしょ?」


お互いに子供なのは分かっているがレナは栞よりこういうとこは意地が悪い。レナは美しく笑った。


「説教ばっかり。やらせたくないなら愉しませてって言ってるでしょ?意味分からないの探偵さん?」


「ふざけないの」


「ふざけてないけど?ただ、何かないとやる気にならないから」


「刺してもいいって約束したじゃん」


「私はもっと欲しいの。ねぇ、瑞希?なにか頂戴?そしたらちゃんと守るから」


また求めてきたレナはなにかあげないと本当にやらないだろう。我が儘で傲慢だがもう仕方ない。私は嫌々ながらも聞いた。


「なにしたいの?」


「自分で考えて満足させて探偵さん?頭がいいから分かるでしょ?」


「…………」


私で楽しみ出したレナに無言になってしまう。

これは上手くいかないと思わぬ反撃に合うだろう。私はとりあえずレナのすぐそばに座った。


「切るんなら浅く切ってよ?」


「今日はそんな気分じゃないの。もっと愉しい事して?」


「…だからなにしたいの?」


首に抱き付いてきたレナは美しく笑うが怪しく見えて仕方ない。何がしたいのかなんて予測不能なレナは顔を寄せて囁いた。


「今から脱ぐからよく見てて私を」


「は?」


「ふふふ」


レナは本当に予測不能な事ばかり言う。

私から少し離れたと思ったらレナは部屋着を本当に脱ぎ出した。


「ちょっと!何してんの?!」


私は慌てて止めた。何したいのかよく分からないが脱がれても困る。レナは特に動じてもいなかった。


「だから脱ぐからよく見ててって言ったでしょ?」


「なんで脱ぐの?」


「愉しみたいから」


「はぁ?もうとりあえずやめて。他の事にして」


レナの服を整えるが本当にレナは意味不明だ。

レナはにっこり笑うとまた顔を寄せて来た。


「なに慌ててんの?ドキッてした?」


「意味不明な事しだしたらするよ」


「そう。それじゃあ今日は一緒に寝て?面白いからそういう顔もっと見てたいの」


「…まぁ、いいけど」


私の反応を楽しんでいるみたいだが切られないだけマシなので私は受け入れていた。なんか企んでるんだろうけど聞いても答えないだろうしもう諦めよう。考えるだけ無駄だ。私はレナがいつも使っている毛布を持って来ると寝る準備をして一緒にソファに横になった。


「レナ寒くない?」


「寒くて死にそう」


「え?じゃあ、布団持って…」


「抱き締めて?布団なんかいいから」


本当に寒いかと思って心配したのに面白そうに笑って言われてげんなりする。こんな調子でからかわれたんじゃ寝れるのか不安になる。私はため息を付きながらすぐそばにいるレナを抱き締めた。レナの体は相変わらず細かった。


「本当に寒かったら言ってよ?」


「もう春なんだから寒い訳ないでしょ。それより私と一緒に寝る気分はどう?」


「何が起きるか分かんなくて不安だよ」


「そう。じゃあ、愉しいって事」


「レナが愉しいんでしょ」


噛み合わないのは前からだから気にしない。

それに笑ってるからまぁいいだろう。私は背中を撫でながらレナに話しかけた。


「最近めまいはどうなの?」


「別に」


「怖い思いしてない?」


「……別に」


レナは聞いただけなのに急に不機嫌そうに答えながら無表情になってしまった。触れられたくなかったのだろうか、それでも心配で私は背中を撫でながら話しかけた。


「私はいつでもレナが困ったり辛かったりしたら助けてあげるから言ってね?」


「……ウザい」


「はいはい。もう寝よっか」


笑いかけても目を逸らされるだけだ。でも、なんだか言わずにはいられなかった。あの日の事を詳しく聞きたいけど今でこんな反応をするんじゃ無理だろう。

私はレナの背中を撫でながらおやすみと言うとレナは無言で目を閉じた。

私はそんなレナの様子をしばらく伺いながら目を閉じた。



そうして眠りに付いたのに私はレナが動く気配で目が覚めた。レナはトイレに起きたのかと思ってうっすら目を開けるもすぐに様子がおかしいのに気付いた。

レナは体を起こしてソファに座っているが少し息が荒い。そして何かに怯えるように辺りを見回している。

眠気が飛んだ私はレナに話しかけた。


「レナ?どうしたの?」


「……」


レナはなにも言わなかった。ただ不安そうに何かに怯えている。私は電気を付けるとレナの背中を抱きながら様子のおかしいレナの手を握った。レナの手は異様に冷たかった。


「レナ?怖い?大丈夫だよ?ここにはレナと私しかいないから」


そう言ってもレナは辺りを異様に気にして見回している。普段のレナからは考えられないくらい落ち着きのない行動だった。本当にどうしたんだろう。何か声をかけてあげないとと思っていたらレナは急に下を向いてしまった。そして小さな声で訴えるように言った。


「もうやめて……。私は悪くない………」


「……レナ?」


レナは私が握った手を強く握ってきた。


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