第23話




「つまんないじゃないでしょ?分かってるくせにいろいろやんないで」


「なあに?何の話しか分からないんだけど」


「レナ?いい加減にしてよ?」


「怖いから怒らないで瑞希?……あぁ、思い出した」


そうしてわざとらしく知ってるくせに思い出したように言ったレナは笑顔で爆弾を投下した。


「こないだベッドで一緒に寝た時に言ってたのでしょ?ごめん瑞希忘れてて。もうしないから許してくれる?」


「………レナ……」


ここでそんな発言しないでと思っても後の祭りだった。もうダメだ今日は。レナを制御しきれなかった私のせいでもあるが最悪だ。栞の顔を見たくない。もう苦い顔をしそうになっていた私を栞は横から腕を引いて強く抱き締めてきた。


「おまえ早く帰れよ。殺すぞ本当に」


「ふふふ。また嫉妬?」


「用が済んだならさっさと消えろって言ってんだよ」


「はいはい。じゃあ、嫉妬されるの怖いから帰ってあげる。瑞希またね?また連絡する」


怒っている栞とは正反対なレナは楽しそうに笑って出ていった。レナは存分に楽しんだようだが私はその後始末にこれから追われる。栞の機嫌は直るのだろうか………。

もはや恐怖を感じていた私は栞に抱き締められたまま動けずにいたら栞がいきなりキスをしてきた。


「栞?……ちょっと……」


話そうとしても舌を強引にねじ込まれて無理だった。

それにこれを拒否するものならもっと機嫌を悪くして怒る可能性がある。私はそのままキスに応えていたら栞は甘い声を漏らしながら私に体重を預けてきたので支えながらどうにか唇を離した。栞はまだまだキスをしたそうだが流されてばかりでもいられない。


「栞……」


「瑞希もっと……。もっとしたい…」


「もうダメ。こっち来て?」


「瑞希……」


唇を寄せてきた栞を避けてからとりあえずベッドに座らせる。栞は我慢ならなさそうに私の首に腕を回すとまた強引にキスをしてきた。逃れられなかったそれに応えながら栞を押し倒して私は栞にまた捕まらないように腕を掴んでどうにか唇を離す。こんなにキスしてくるのはなかったがもう止めないと。栞は火照った顔をしていた。


「なんでやめるの?」


「付き合ってないでしょ私達は。キスしすぎだよ栞」


「……だってしたいもん。それに、キスしちゃダメなんて決まりないもん……」


「そんなに嫉妬しなくてもあれは嘘だから平気だよ?レナは栞に嫌がらせしたいだけだからもう気にしないの」


ちょっと笑いながら栞から退こうとしたら栞は手を掴んできたのでそのまま隣に座った。さっきのキスで怒りは静まったようだがまだ機嫌は直っていない。


「本当に嘘なの?あいつと瑞希仲良くしてた」


「本当だよ。レナがくっついてきただけだし」


「………でも、瑞希嬉しそうだったもん」


「栞?」


「…………」


栞はまた目を逸らして黙ってしまった。黙るのはかなり怒っている合図でもある。このままだともっと怒って手がつけられなくなってしまう。私は栞が掴んできた手を指を絡ませながら繋ぐと自分からキスをした。貪るように奥まで舌を入れて絡ませる。栞とは何度もしているからどういうのがいいかなんて分かっているからこうすれば栞は機嫌なんかどうでもよくなる。

案の定栞はまるで誘うかのように声を漏らしながら私の手を強く握った。


「はぁっ、………あっ!………んっ、みずき?」


「………はぁ、んっ……なあに?」


唇を離せば栞はもう悩ましい顔をしていた。

それも可愛らしいくて男なら襲うだろうが私達はこれでも友達だ。それなのに栞は昔から友達に言うような事ではない事を言う。


「しおの事好き?」


「うん。大好きだよ」


「じゃあ、もっと言って?いっぱい言ってほしい」


「うん。大好きだよ。栞が好き。大好きだよ」


栞に言われた通りにしただけなのに栞は本当に嬉しそうに笑った。モテるから常に誰かしらに言われてるはずなのに栞は昔から私に好きだと言わせてくる。栞の独占欲は重いんだろうが私にはなんだか可愛く見えてしまう。


「しおも好き。大好きだよ。しおは瑞希だけが好き」


「うん。知ってる」


「うん…。瑞希さっきみたいにキスして?」


「もう終わり。今日はいっぱいしたでしょ?」


「まだいっぱいじゃないもん。瑞希して?しおまだしたい」


誘う栞は色気がある顔をするが言っている事は子供の我が儘みたいで笑いそうになる。もう機嫌はどうにかできたようなので私はキスできるくらい顔を寄せて違う話をした。


「ダメ。それよりあんまり怒ったりしないようにって約束したのにもう怒ってるじゃん栞。約束破ってない?」


「それは………、だってあいつ全然帰らないから…」


栞は明らかにしゅんとしていたが私は続けた。あれはレナが煽るのが大分よくなかったけど栞もよくない。


「帰らないからって文句言って挙げ句の果てには殺すなんて言わないんだよ?自分がなに言ってるか分かってるの?」


「だって……!しおの瑞希なのに………!!」


「…約束守れないならしばらく会わないよ?キスもしないし…」


「それは絶対やだ!しお守れるから!!」


栞は嫌がってきたが守れるかは微妙だ。レナの前だと人が変わりすぎる。私は立ち上がろうとしたら栞は起き上がって私にきつく抱き付いてきた。


「栞本当に守れるの?手は出さなかったのは偉かったけど殺すとか言っちゃダメなんだよ?」


「守れる!守れるから会わないのとか絶対やだしお」


「突っかかるのもやめられるの?」


「うん……」


「本当に?」


「本当だよ!」


あれを見ていた私からすると頷けないが前よりはまだマシだった。取っ組み合わないだけマシだけどお互い子供なだけあってまだ酷い。私は少し考えてから言った。


「じゃあ、次また殺すとか嫌いとか酷い事言ったりしたら本当にしばらく会わないし口聞かないからね?」


「うん、分かった。絶対守るよしお……」


「…うん。分かったよ」


私はしゅんとしてしまった栞の頭を撫でながら頷いた。

どうにか仲良くしてほしいけど栞の嫌い具合が下がる気配がない。どうしたもんか、こればっかりは二人の歩み寄りによる。


「…瑞希怒ってる?」


そして栞はしゅんとしながら聞いてきた。

怒っていると言うより呆れている方が近い。二人のせいで私は頭が痛いよ。私は栞に笑いかけた。


「怒ってないよ。ただ、喧嘩ばっかりするから疲れるだけ。栞がこんなに怒りっぽいとは知らなかったよ」


「……だってムカつくんだもん……」


「そんなに嫌なの?」


「やだ。瑞希はいつもしおと仲良くしてくれてないとやだ」


「栞………」


栞は私に体を寄せるようにくっついてくる。

昔から私にベッタリだけど栞は友達を作ろうとしないからそれもあるんだろう。栞と趣味が似ていたりする人を紹介しようとしても私がいるから友達はいらないと言うし、そもそもこうやってこだわりを見せるのは私だけだ。私に関してはやたら口を挟んでくるし露骨に嫌がったり我が儘を言ったりする。好きにしたってそれが強すぎるが友達がほとんどいないから仕方ないのもある。


「でも、しお我慢するよ?しお瑞希と会えなくなったりするのやだから我慢する」


「…うん。我慢できたら誉めてあげる。現に今回は手をあげなかったし。偉いじゃん栞」


「うん!瑞希と約束したもん」


栞をギュット抱き締めて誉めただけで栞は喜んでいた。こういうとこは単純で幼くて可愛らしいのにあの喧嘩を思い出すと二重人格は間違いではないのかもしれない。

栞は私に嬉しそうにくっつきながら笑った。


「ねぇ、瑞希?しお今日泊まってもいい?瑞希と一緒にいたい」


「いいけど、明日私仕事だから朝早く出ちゃうよ?」


「いいよ?しおも一緒に出る。瑞希それよりしおとお休みの日出掛けようよ?しおどっか行きたい」


「うん、そうだね。どこ行こっか?」


栞はねだるように言い出したから応えたのに栞は突然むっとした。今度はなんだろう。


「…瑞希あいつとドライブどこ行ったの?」


「え?あぁー…………海?かなぁ?………」


ここでドライブの話をされても苦笑いするしかなかった。あれはドライブというより死にかけた話だ。しかもなんかいきなり連れて行かれて本当に怖い思いをした。もう行きたくないくらいなのに栞はレナを意識しているように行った。


「じゃあ、しおと海行こう?しおも海行きたい」


「え?……まぁ、うん……。いいけど……」


「瑞希あとはあいつとどっか行った?」


「……そんな意識してどうしたの?レナは今関係ないでしょ?栞が本当に行きたいとこ行けばいいじゃん」


あからさますぎるが負けたくないのだろう。栞はつんけんしていた。


「しお本当に行きたいもん。しおの方が仲良しだから見せつけてやるだけだし」


「見せつけるもなにもないでしょ?」


「だってさっき見せつけられたもんしお!ムカつくから仕返ししてやりたいの!」


「仕返しなんて話じゃないじゃん。そんなにレナを意識してどうするの?レナの事好きなの?」


「あいつなんか嫌いだよ!大っ嫌い!本当ムカつくんだもん!」


嫌いと言う割に私より意識している栞は不機嫌になってしまった。嫌いなら放っておけばいいのに栞はレナだけは許せないようだ。どうにか折り合いを付けさせないと私やいろんな人が被害を被るし、なんか起きそうだ。

私は栞を宥めるように頭を撫でた。


「嫌いって言わないって言わなかった?」


「……あいつの前でだもん」


「でも、嫌い嫌い言ってるともっと意識しちゃうからやめな?それにもっと嫌いになっちゃうし、もうあんまり考えないようにしないと考えすぎて無駄にイライラしちゃうよ?」


「だって、あいつ……」


「だってじゃないの。そうだなぁ……」


頭を撫でながら少し考えていい考えが思い付いた。

栞をうまく操るなら自分をダシに使えばいい。栞は私には必ず食いつく。私は大袈裟に行った。


「栞がそんなにレナを意識してると好きみたいでなんか妬いちゃうなぁ私」


栞は案の定すぐに食いついた。



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