第15話
その後、しばらく待っていたら美穂がやって来ていろいろ手続きが終わったみたいだった。
美穂が言うには大した怪我ではないようだったから安静にして傷の治りを待つようになるだろうとの事だった。私は安堵しながら今日はレナと一緒にいると美穂に伝えると美穂はありがとうと言って車でレナの家まで送ってくれた。
レナは家に着くとそのままいつものソファに行ってしまったが洗面所にはガラスの破片が飛んでる可能性があるから美穂と一緒に掃除をして鏡は近いうちに直す事にした。
美穂は最初、洗面所の酷い有り様に驚いていたがまたなんかあったら連絡してと言って帰って行った。今回の件で美穂は今以上にレナを心配しそうだが美穂の心配をそもそも気づいていないレナは美穂に何も言わなさそうで怖いから私が今まで以上にそばにいようと思った。
そうして一通り済んで私はレナの隣に座った。
レナは寝る気がないみたいでぼーっとしてどこかを見ている。私は心配に思いながら話しかけた。
「レナ?そろそろ寝ない?疲れたでしょ?」
「眠くない」
「じゃあ、とりあえず横になりな?眠くなくても横になれば身体休まるから」
「………分かった」
鼻でため息を着きながらとりあえず返事をしてくれたレナは広いソファに横になる。私はすぐにいつもレナが使っている毛布をかけてあげた。
「寒くない?」
「別に」
「そう。じゃあ、寒かったら言って?そばにいるから」
「ウザい」
「文句言っても今日はそばにいるから無駄だよ」
いつもと変わらないレナに笑いながらレナの頭の近くに座ると優しく頭を撫でた。レナが今はただ心配だった。無表情なレナの横顔を見ながら私は言っていた。
「レナ?怖かったら言ってね?私が守ってあげるから」
「……守ってどうするの?あんたに利益なんてないじゃん」
「レナが辛くなくなるでしょ?そしたら利益だよ」
「友達だから?」
「うん。友達だし、レナが好きだからレナが嫌な思いしなくて済んだら嬉しいの」
レナは思いやりがあまり分かっていない。
人に気を使うとか大切にするのを理解できていないけどこれから知っていけばいい。レナの性格だからやるかどうかは別の話だけど。
「馴れ合いみたいでキモイ。メンヘラの依存症のゴミみたい。一人でいれないからそういう事するの?」
「違うよ。好きだからするの。レナの言うメンヘラの依存症の人は流されやすかったり自分がないから誰かと一緒にいたいとか誰かと一緒にいるのがステータスとかって思う人だと思うけど私はレナが好きだからだよ。美穂も私もレナが好きだから優しくしてるだけ。自分のためじゃなくてレナのために優しくしたくなるの」
レナは人を軽蔑している所があるが私達の心配が伝わればいいなと思った。私と美穂はきっとレナがどうなっても離れないはずだ。レナは無表情のまま言った。
「くだらない。気に入るのは分かるけど私には好きが理解できない」
「んー、そうだなぁ……言葉にするのは難しいけど気になったり、会いたいって思ったり、頻繁に考えてたら好きかな?」
「じゃあ、私には好きなものはない」
「それは分かんないよ?好きなものって意外にあるから。ふとした時に気づいたりもするし、時間をかけてから好きだなって気づいたりもするからもしかしたらレナは好きなものがもうあるかもしれないよ?」
レナの言葉を聞いてるだけでもなんだか切なくなってしまうがレナにも好きなものがあるはずだ。
と言うより、好きなものができてほしかった。
好きなものがあった方が生きやすくなる。
「……意味分かんない」
「そのうち分かるよ。分かんないなら一緒に見つけていこう?きっと見つかるから」
「いや」
「ふふふ、はいはい。レナもう目つぶりな?目開けてると寝れないよ」
少しうとうとしてる感じのレナに促した。
ちょっと話したら落ち着いたんだろう。レナは無言で目を閉じて少ししたら小さく寝息を立てていた。
それに幾分私は安心しながらレナの髪を撫でた。
人の目を奪うくらい綺麗なのに好きも分からないなんて……レナらしいけど悲しくもある。
レナは嫌なものが多いから好きなものが見えにくいんだろう。ちょっと変わってるからしょうがないけどレナにも好きなものは必ずあるはずだ。
私はその後レナの様子を見ながらソファに凭れて眠っていた。
それなのに寝起きは最悪だった。
「瑞希?瑞希?」
最初はレナの呼ぶ声に目が覚めてきたのに腕に鈍い痛みを感じて覚醒した。目を開けるとレナは私の膝に頭を乗せていて私の片腕を掴んでナイフで切っていた。
「レナ……痛いよ」
「生きてる証拠じゃない?よかったね?」
「もう、レナ?」
あんな事があったのにレナは変わらない。
レナは嬉しそうに笑うとまた切ろうとしたが私はある事に気付いてレナの手首を掴んで止めた。
「レナ服血で汚れてるじゃん。着替えないと」
いろいろあってすぐ寝かせてしまったので服はそのままだったのを忘れていた。レナはどうでもよさそうだった。
「そんなの私は気にしてないけど」
「だめ。忘れてたけど着替えよう?それ脱いで?」
「いや」
「もう嫌じゃないでしょ?起きて?」
私はウザそうな顔をするレナを起こすとレナは不快そうだったのに急に笑った。
「じゃあ、脱がして瑞希?ついでにシャワーも浴びてくるから」
「はぁ?自分で脱ぎなよ?包帯はやってあげるけど他はできるでしょ?」
「それじゃつまらないでしょ?」
「つまるつまらないの話じゃないよ。もう手見せて?」
私はまた頭が痛い事を言い出したレナの手を取った。そして丁寧に包帯をほどくと痛々しい傷が露になる。
後に残らないといいけど血は僅かに滲んでいた。傷を見ていたらレナは私の顔を覗き込んで低い声で囁いた。
「ねぇ、痛いから私の世話して?痛くて動かせないの」
「……ちょっとは動かしてたじゃん」
「ちょっとだけでしょ?それに医者にも安静にって言われてるし。これじゃ髪も洗えない」
「………レナ」
「なあに?私が困ってるのに助けてくれないの瑞希?」
レナは本当に私が言った事を逆手に取ってくる。
こうやって愉しんでいるんだろうが実際この手じゃ難しいだろう。私はまたしてもレナの要求を飲んでしまった。
「今日はしてあげるけど明日からは美穂に頼んでよ?仕事だから」
「分かった。じゃあ早く脱がせて?」
「うん……」
私を愉しそうに見つめてくるレナに居心地の悪さを感じながらもレナを洗面所に連れてくとじっと見られながら服を脱がした。レナはそれはそれは綺麗で見ているのが申し訳なくなるくらいだった。
「瑞希は脱がないの?」
「私はレナのお世話が終わったら一人で入るから脱がないよ」
「なんで?」
「なんでも」
裸なのに恥じらいも見せないレナは目に毒だった。違いがありすぎて脱ぎたくもない。レナはそうと軽く笑うと風呂場に行ってしまったので私は後に続いた。
もうこれは犬を洗う感覚でいればいい。変に緊張してしまうが私が意識し過ぎていたらレナに笑われる。
私は作業のようにレナを洗ってあげた。
レナはその間機嫌が良さそうだったけどじろじろ見られてやめてほしかった。私が緊張してるのを分かっているから楽しんでいるのだろう。
洗い終わって身体を拭いてあげて服を着させてあげていたらレナは笑顔で言ってきた。
「瑞希触らないの?胸くらい揉ませてあげるけど」
「触らないよ。レナ軽々しくそういう事言わないの」
「じゃあ、触ってくださいお願いしますって重々しく言えばいいの?」
「違うよ。もう黙ってて。着替えたら髪も乾かさないとだし」
レナはふざけてるのか本気なのか定かではないがこれ以上喋らせていい事はない。服を一通り着せるとレナは私の首に腕を回して密着してきた。そして弄ぶように言った。
「それで、私の身体はどうだった?興奮した?」
「レナ?からかわないの」
「からかってるんじゃなくて愉しんでるの。ねぇ、ドキドキした?触りたくなった?どうなの瑞希?」
どっちも同じようなものなのにレナは私を逃がす気はないようだ。間近に顔を寄せてきたレナにどぎまぎする。
「あぁ、もしかして噛みつかれたいの?」
「……初めて女優の身体見たから緊張したよ綺麗で」
「そう。確かに顔にそう書いてあった。ふふふ」
美しく笑うレナは満足したのか軽くキスをするとリビングの方に向かってしまった。楽しんでいるようで何よりだが、先に手の消毒だ。私はドライヤーを持ってレナを追うとソファに座っていたので手を出させた。
そして包帯を巻く前に傷を消毒していたらレナにキレられた。
「ちょっと、痛いんだけど?」
「当たり前でしょ?なん針縫ってると思ってんの?我慢して」
「痛い……!」
途端に機嫌が悪くなったレナに手を引っ込められた。自分は私を切ったりするくせに大きな子供で困ってしまう。
「レナ?手出して?」
「痛いから嫌」
「すぐ終わるから」
「やだって言ってんでしょ?バカにしてんの?」
「………レナ」
バカにしてないしなんなら心配してるのにレナは睨みまで効かせてきた。どうしたものか頭が痛い。しかしこのままではいられないので私はレナにエサを垂らした。
「じゃあ、私に嫌がらせしていいから。今だけ我慢して?」
「それ、なにしてもいいの?」
すぐに食いついてきたレナはもう獲物を見つけたように私を見て笑う。普通に考えたらレナは性格は悪いだろうがこれしか今は方法がない。私は非常に嫌だけど頷いた。
「うん……。死なない範囲でね」
「そう。じゃあ、考えとくから早くして?」
「はいはい……」
「楽しみにしてて瑞希?」
「うん……」
すぐに手を出してくれて良かったが私は身の危険である。何されるか考えたくもないよと思いながら全く嫌がらないレナの消毒を済まして包帯を巻いた。
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