第28話



「あのさ、私は大丈夫だからこのままで行こうよ?」


私は栞がこれ以上キレないように提案した。

遊園地ついて喧嘩なんかやめてほしい。

それでも栞は不満そうだった。


「でも、瑞希疲れちゃうよ?それに瑞希は私と回るのに」


「まぁ、いいじゃん栞。私は平気だから行こうよ?」


「……うん…」


手を引いていた栞は私の腕を組んでくっついてきた。

レナが近くにいるのが嫌だったんだろうが致し方ない。レナは薄いカーディガンを羽織って日焼け対策をしていた。すると横から美穂がフォローするように言った。


「瑞希疲れたら私持つよ日傘」


「あぁ、うん。分かった。それより久々だなぁ遊園地とか」


「それね。とりあえず空いてるやつからバンバン乗っていこうか」


「そうだね。フリーフォールとか乗りたいなぁ」


今日は二人の事でげんなりはしていたが楽しみでもあった。働きだしてからほとんど遊園地なんか行かなくなったしいろんなアトラクションに乗りたいところ。

歩きながらワクワクしていたら栞が訝しげに言った。


「あれ怖くないの瑞希?」


「え、楽しいじゃん。栞嫌いだっけ?」


「嫌いじゃないけど高いからちょっと怖い」


「一緒に乗れば大丈夫だよ。それにやだったら待っててもいいよ?」


栞はアトラクションとかほとんど平気だった気がするが無理に乗らなくてもいい。気を使わないように言ったけど栞は嬉しそうに笑った。


「ううん。瑞希と乗りたいから乗る。楽しみだね瑞希」


「そうだね。そういえば高校以来じゃない来たの?久々だよね」


「うん!あの時も楽しかったよね」


栞はさっきのはなんだったのかと思うレベルで嬉しそうで安心した。なんかやばそうな予感はするがこうやって話していれば大丈夫だろう。栞の機嫌もよくなったところで遊園地に入場すると空いてるやつから順に乗っていった。

ジェットコースターや3Dの映像を見るのも乗ったが全部楽しかったし美穂や栞も楽しそうにしていたがレナだけは無表情だった。サングラスは飛ぶ可能性があるからアトラクションに乗る時だけ外していたレナは乗っている最中叫びもせずにただ真顔か眉間にシワを寄せていた。

私はそれを見かねてどうだった?と尋ねてみても別にと言われるだけで遊園地でもレナは変わらなかった。

楽しくはなさそうだけど文句は言わずに付いてくるだけまだましかなと妥協して日傘を差してあげながらお目当てのお化け屋敷にやってきた。

ここの遊園地はお化け屋敷が有名なのだ。

昔行った時も怖くて楽しかったが昔よりも怖くなっているらしい。私達は病院のような外観のお化け屋敷の列に並びながら話した。


「ここのお化け屋敷昔より怖くなったらしいけどどう変わったんだろうね。おばけ増やしたのかな?」


「あぁ、確かに。ていうか、コースが延びたらしいじゃん?出るのに時間かかるって話だけど…」


「瑞希置いてったら怒るからね?」


美穂と話していたら栞が朝からずっと組んでいた腕を引いてきた。


「置いてく訳ないじゃん。栞も走って行っちゃわないでよ?」


「私は行かないもん。怖いから瑞希にくっついてるし」


「本当に?」


「本当だよ?離れた方が怖いから離れないもん。だから瑞希も離れちゃダメだからね?」


「ねぇ、どうせだからふた手に別れない?」


笑って話していたらレナは口許に笑みを作りながら言ってきた。また何か企んでいるのだろうか。


「大勢いると怖さが半減するし。どう?置いていったやつは何でも言うことを聞く、なんて」


「えぇ?ここのお化け屋敷まぁまぁ怖いよレナ?」


すかさず言ったのは美穂だったがレナは笑うだけだった。


「作り物にそんなびびる訳ないでしょ。あんたは一人で行く?」


「絶対やだよ。ここのめっちゃ怖いんだからね?」


「じゃあ、どうする?」


こちらに顔を向けてきたレナにそこまでの企みは感じなかったので私は受け入れることにした。私はそんな怖がりではないし少人数の方が楽しそうだ。


「いいんじゃない?栞は?」


「私は瑞希とがいい」


「残念だけど瑞希は私と行くから」


「は?そんなの聞いてないし」


「今言ったけど」


そうしてすぐにまた揉めそうになったので私は先手を打った。誰かが仲介に入らないと意見は曲がらない。


「じゃあ、公平にグーパーで別れよう?ね?いいでしょ?」


「…うん……」


「はいはい」


「じゃ、やるよ」


少し強引に決めて一瞬でふた手に分かれた。

私はグーを出したけど同じグーを出したのは美穂だった。美穂は私と同じように苦笑いをしていたがパーを出した栞はレナに悪態をついていた。


「チッ……レナとかよ」


「やだ、栞と一緒?幽霊にまで媚び売らないでよ?」


「は?ちんたらしてたら置いてくからな」


「それは走って逃げるって意味?逃げたら私の言うこと聞いてよ?」


「聞くわけないだろ」


自分から公平に分けた矢先にやり直そうなんて言えるわけもなく私はただ心配だった。幽霊よりも怖いよ。


「喧嘩しないでよ二人とも。ちゃんと二人で出てくるんだよ?わかってる?」


まるで子供に言うように言ってしまったが言っとかないと何かしてしまうのが二人だ。やらかしてからでは遅い。レナは笑っていた。


「勿論。楽しもう栞?」


「……」


「栞?話しかけられてるんだから返事くらいしたら?」


機嫌が悪くなってしまった栞に話しかけると分かった、とだけ言ったが顔はむくれていた。もう決まってしまったのは仕方ないのでどうにか機嫌を直さないと。


「栞?そんな態度しないよ?約束忘れたの?」


「……覚えてるよ」


「じゃあ、ちゃんとして?できるでしょ?」


「……うん」


不貞腐れてはいるがちょっとだけ気持ちを持ち直せたようだが栞は不満気に呟いた。


「……瑞希とが良かったのに」


「また今度ね?今日ほとんど一緒にジェットコースターとか乗ってたからいいじゃん」


「……バカ」


「あとでなんか買ってあげるよ。アイスでも食べる?」


「……食べる」


「じゃあ、頑張って行ってきてね」


「……うん」


この様子ならきっと問題は起こさないだろう。

私達の順番になってまずはレナと栞が先にお化け屋敷に入って行った。私と美穂はそれを見送りながら心配を口にしていた。


「瑞希大丈夫かな?」


「うん……たぶん」


「ていうか、幽霊の人可哀想……。レナはいつもどおりだろうし栞は幽霊に舌打ちしてたからな前」


「え?そうなの?それ高校の時の話し?栞怖がってなかったっけ?」


新事実を漏らした美穂はなんとも言えない顔をした。


「瑞希の前ではね。瑞希が見てない時はダルそうだったよ。本当になんとも思ってないんじゃないかな。は?みたいな顔してたもん」


「まじ?」


「まじだよ。あれは悪魔だって言ってるでしょ瑞希。王子以外はハエくらいにしか思ってないよ」


さっき置いてかないでよとか言ってたのにどういう事だ……。美穂は嘘は言わないからちょっと混乱してしまう。ていうか、その栞に気づかなかった私はバカなのか?


「幽霊の人に文句言いそうだよねあの二人……。大丈夫かな……?」


「大丈夫だよ。とりあえずもう順番来たから行こう?美穂置いてかないでよ?」


「置いてくわけないじゃん。瑞希こそ私を一人にしないでよ?」


「勿論」


私達はレナ達が入ってしばらくしてからお化け屋敷に入った。お化け屋敷は予想以上に怖くて美穂と二人で悲鳴をあげながら進んだ。それでも美穂の方が怖がってオーバーなリアクションをしていてそっちも面白かった。美穂こんなに怖がりだったっけと薄暗い中を一緒に歩きながらお化け屋敷から出る頃には楽しかったけど怖かったのもあって疲労感を感じた。


「あー、めっちゃ怖かったね。叫びすぎて疲れた」


「分かる。てか、本当に美穂叫びすぎだから。芸人みたいだったよリアクションが」


「だって怖かったじゃん!予想を上回ってたよあの怖さは」


「確かにあんな暗いとは思わなかったけど……あれ?」


少し歩きながら携帯を確認すると栞から着信が何件か入っていた。これはなんかしたのだろうか……?不穏に感じていたら美穂が辺りを見回した。


「そういえばさ、レナと栞どこ行った?」


「確かに……。栞からも連絡来てたんだけど……」


「瑞希!!」


「あぁ、栞…」


そうして私も辺りを見渡していたら栞が慌てた様子でやってきた。こんな栞は珍しい。いったいどうしたのか、私の腕を掴む栞は早口に言った。


「こっち来て?レナがさっき倒れそうになって」


「え?!大丈夫なの?」


「うん。ベンチに座らせてる。お化け屋敷の中では平気だったんだけど出たら急にふらついて」


「レナ薬飲んだ?具合悪くなった時用に持たせてるんだけど」


私の腕を引く栞について行きながら美穂が言うと栞は怒り気味に言った。


「は?あいつ何にも言わなかったよ?マジあり得ない…。もう!」


「はぁ、ごめんね栞。レナは基本私の話はあんまり聞いてないから」


「チッ…。あのやろう……!レナ!おまえ薬持ってるなら言えよ!」


早足で歩いてすぐにレナの元に到着する。

栞は怒りながらレナの鞄を勝手にあさりだした。

レナは頭を押さえながら座っているが本当に具合が悪そうだ。額や首には冷や汗が滲んでいる。


「レナ大丈夫?」


膝の上にあった手を握るもレナは何も言わなかった。

最近は調子が良さそうだったのにめまいがするのだろうか。一気に不安に刈られた私は心配で動揺していたが美穂が横から薬と水を差し出してきた。


「レナこれ飲んで?」


「……」


「大丈夫?」


レナは薬を飲むと小さく頷いた。

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