第27話


それから遊びにいく日までの間、早かったけど大変だった。

まず栞だ。栞はレナをとても意識していて何かとレナの情報を聞き出そうとしてきたけど私は曖昧に流しといた。前のようにあからさまに嫌そうに話はしないが情報を与えてもろくなことにはならないだろう。

栞は前よりも私に我が儘を言うようになったがあの取っ組み合いに比べれば可愛いくらいだ。


一方、レナはと言うと私をよく呼びつけて家に来させた。

そして栞はどうか聞いてきていた。

あんな嫌がっていたのに栞をまるで愉快な玩具のように思っているレナは栞に関心が強いみたいで嫌な兆候だった。問題を起こさないでよとは口酸っぱく言っているけどレナは分かってると笑うだけでどうだか分からない。

遊びに行ったら無駄に絡みに行きそうで大変な喧嘩をしそうで怖い。レナは栞の神経を当たり前のように逆撫でする。


そうやって二人の対応に追われている私に私のように心配していたのは美穂だった。

美穂は喧嘩しそうで怖いねと言っていて唯一美穂だけが頼りだが美穂は案外嬉しそうでもあった。

レナが外に出るのは珍しいから自発的に言い出したのが嬉しいみたいだ。

美穂ってあんな悪態つかれてるのに本当に優しいんだなって染々思うが私もここはまぁ同意見でもある。


私と美穂はレナにどうしても甘いようだ。





「レナ瑞希に意味分かんない事言わないでくれる?気色悪いんだけど」


「は?私は瑞希に話しかけてんだから栞の意見なんか聞いてないけど。いきなりどうしたの?耳ないの?」


「は?瑞希の事は私にも関係あるから言ってんだけど。レナの瑞希じゃないから。瑞希は私のだから」


「はぁ?男好きのくせに何言ってんの?男にいつも媚売ってるの誰だっけ?名前の最初にしがつく人じゃなかった栞?」



そうして出発当日の朝から二人はもう揉めていた。レナの家に集合したのは良かったが事の発端はやはりレナでレナが私と手を繋ぎたいとか言い出したのに栞が反応したのだ。栞は顔に表情がなく本当にキレているがレナは余裕そうだ。問題を起こすなと言ったのに…。


「瑞希これどうするの?」


言いあいを始めてしまった二人を見ながら美穂は小声で耳打ちしてきた。どうするもなにも頭が痛いよ。私はため息をついてから美穂に聞いた。


「……止めないといつまでもやるよね?」


「うん。いつもずっとやってるよ。ていうか、止めないと胸ぐら掴み合ったりしだして大乱闘だよ?」


「うん…………そっか」


「瑞希のおかげで前よりは大分ましな争いになってるけど瑞希よく二人をここまで制御したね?最初やばかったんだよ?私にもぶちギレてきて怖かったし二人に怒鳴られてたよ私。なにもしてないのに」


「美穂本当にお疲れ。でも、今でこれじゃまだ制御できてないよ。とりあえず止めるわ」


「うん!頼んだぞ王子!」


美穂は他人事だけどこんな険悪なとこに自ら入りたい人なんかいないだろう。私はまだまだ言い合っている二人の会話に割って入った。


「ねぇ、もう早く行かないと道混むし遊べないよ?いつまで言い合ってんの?」


言い合っていた二人は同時に私を見た。


「レナが変なこと言い出すから……」


最初に答えたのは栞だが明らかにイライラしている感じが伝わる。しかし、レナは対照的に妖美に笑っていた。


「変?私は瑞希と手を繋ぎたいって言っただけでしょ?何が変なの?栞が絡んでくる方が変でしょ?」


「だから瑞希は私のだって言ってんでしょ?何回言わせんだよおまえは…!」


「はぁ?付き合ってる訳でもないのに何言ってんの?妄想の世界で生きてんの?キモ」


「はぁ?!てめぇ…!」


「ちょっと!!もういい加減にしてよ?!」


まだまだヒートアップしそうな会話を止める。手を繋ぐだけでここまで話がこじれて揉める人なんかいないのに勘弁してほしい。

私の声に止まった二人を見ながら私は事態の終息に勤めた。


「手は繋がないからもう揉めないで。今から遊びに行くんだから早く車に乗って。分かった?」


「………分かった」


「はいはい。じゃあ、私は車に行くから」


どうにか収まったようだが栞は顔を見る限り拗ねていて腕を組んで私に背中を向けてしまった。一方レナは興味がなくなったみたいでさっさと車に行ってしまった。これはアフターフォローが必要だけどまずは荷物をまとめないと。私はとりあえず皆の荷物を玄関に持って行った。すると荷物を整理していた美穂がそばにやって来た。



「瑞希どうするの?」


2度目のそれは栞の事だろう。美穂は栞の事も熟知している。美穂は小声で続けた


「姫の機嫌が悪いと良い事は一つもないよ?」


「うん……。知ってる」


「栞は私には無理だから頼むよ。準備はもう済んでるから」


「……うん」


美穂は気の毒そうに私を見ながらいそいそと荷物を持って行ってくれた。なんで私はいつもレナの後始末に終われてるんだろう……。楽しく遊びに行くはずなのに最初からこれってどうなるんだろう…。私は窓の外を見ながら拗ねてる栞にとりあえず話しかけた。


「栞?車行かないの?」


「………」


答えない栞はやっぱり拗ねている。私は栞の前に回り込んで目を合わせない栞に今一度話しかけた。


「栞?いつまでそうしてるの?置いてっちゃうよ?」


「……瑞希また怒った……しおにばっかりいっつも怒る……」


「栞が約束破るからじゃん。約束したでしょすぐ怒らないって。なんで破るの?そんなに約束破ると本当に栞と話すのやめるよ?」


「……やだ。ごめんね瑞希」


「……はぁ。もういいよ」


あからさまにしゅんとしてしまった栞に私は仕方なく思いながら手を握った。栞の気持ちはずっと一緒にいるぶん分かるからどうしても私は甘い。


「もう怒ってないからそんな顔しないの。あんまりレナを意識するのやめな?」


「……うん」


栞がまだしゅんとしていてどうすべきか悩む。

だけどもう車で二人が待っているだろうから早くしないと。私が悩んでいたら栞は手を握り返してきた。


「瑞希しお瑞希と手繋ぎたい」


「え……まぁ、いいけど」


「今だけじゃなくて遊園地の時もだよ?」


「うん。昔から繋いでたじゃん。別に良いよ?」


高校生の時なんか常時それだったから手を繋ぐのに抵抗はないがレナを意識するなと言ったのに……。話を聞いていたのか栞……。

でも、栞の機嫌がさっきより良くなっているのでもう良いだろう。

私は栞を連れて車に急いだ。

車につくと運転席には美穂がいたがレナは後ろに座っていた。わざと座ったんだろうがここで栞とレナを隣り合わせにするわけにもいかないし、私がレナと座るものなら栞が黙ってないだろう。


私は迷わずにレナの隣に座って私の隣に栞を座らせた。

美穂には可哀想な目で見られたがもうしょうがないのだ。これが一番ましな配置だ。

それからすぐに出発したがレナは私と栞が手を繋いでいるのを見ながら美しく笑った。


「ねぇ、私とは手繋いでくれないの?」


手を繋ぐより嫌がらせをしたいくせにレナは嫌なことを言う。栞が何か言う前に私は素早く口を開いた。


「繋ぎたいなんて思ってないでしょ?」


「思ってるけど?繋いだら楽しいでしょ?」


「……レナ?」


「なに?私と手繋ぎたくなった?」


レナはわざとらしく私の頬を指で突いてきた。

するとすかさず私の隣にいた栞が言った。


「瑞希に気安く触んな」


「また口出し?そんなに暇なら栞の大好きな男遊びでもしてたら?ぶりっこするくらい好きでしょ男?」


「は?ほんとに…」


「ねぇ、やめて。レナも刺のあること言わないで」


早々に手を打つ。この争いに意味はないもの。

レナは笑いながら頷いた。


「ふふふ。はいはい。そんなつもりなかったけど許して栞?次からは気を付けるから」


「…………」


「本当だからねレナ。美穂それよりどのくらいでつきそう?」


栞は何も言わずに私に凭れてきたがもう流してしまおう。二人があんまり話さないようにしてしまえばこんな争いも起きない。美穂は急に話を振られて驚いていたが察したのか笑顔で答えてくれた。


「あぁ、えっとねぇ……一時間くらいかなぁ。途中でコンビニ寄ろうか?」


「そうだね」


「じゃあ、とりあえず出発するよ」


美穂は車を発信させた。

そうしてどうにか出発したが車内では特に問題もなく静かだった。何か起きそうな予感は最初からしていたけど意外にも二人はぶつからなかった。レナはいつもどおり大きなサングラスをしているから表情が見えないけど栞は私の手を握りながら小声で話しかけてきたので話していた。

まぁまぁ、順調なのでは?と安心していた私はついてからまた頭が痛かった。


「ねぇ、日差しが強いから日傘さして?」


「え?まぁ、いいけど…」


レナが車を降りた途端快晴の空を見ながら日傘を渡してきたのでさしてあげたら栞が手を引いてきた。


「瑞希近い…!」


「え?だってしょうがないじゃん。近くにいないとさしてあげられないし」


「そうだけど…!レナ自分でさせばいいでしょ?」


全く栞の言う通りだがレナに一般的な考えは無効だ。レナはいつもの低い声で答えた。


「嫌だけど。あ、じゃあ栞がさしてくれる?」


「はぁ?なんで私があんたのためにそんな事しなきゃなんないわけ?バカにしてんの?」


「してないけど。私は体が商品だから焼けると困るの。それに日傘はいつも誰かがさしてくれて当たり前だし」


「はぁ?ふざけんな……!」


空気はまたしても悪くなってきていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る