第26話
「瑞希は行きたいの?」
「え?あぁ……うーん……私は栞と一緒に行きたいかなぁ……。ダメ?」
ここで置いていけないし選択肢は連れて行くしかなかった。もう二人にはいろいろ言ってるからあの取っ組み合いの喧嘩はしないだろうし……。栞は不満そうだったけど嫌がらなかった。
「……いいよ。瑞希がしおと行きたいなら行く」
「本当?喧嘩しないでよ?」
「うん……」
私は栞の頭を軽く撫でると美穂に返事をした。
「美穂いいよ。行く。栞もいるけどいい?」
「え?……私はいいけど……瑞希乱闘事件起こしたいの?マジでヤバイよ二人は」
美穂は本当に心配していたがもうたぶん大丈夫なはず。私ははっきり言った。
「大丈夫だよ。私から言ってあるから」
「……本当に?瑞希がそう言うなら信じるけど………何かあったら私もどうにかするけど瑞希も助けてね?私一人だとあれは手に終えないから」
「うん。分かってる。たぶん大丈夫だから安心して」
美穂の気持ちはよく分かるが大丈夫と思いたい。
私はそれから電話を切ると栞と一緒にレナの家に向かった。栞はその間唇を尖らせていたが機嫌を取りながら約束を再確認したので大丈夫なはずだ。
レナにも話してるし信じないでどうする私。
私はレナの部屋のドアを開けて中に入ると居間にはレナと美穂がいた。
「あ、瑞希と栞いらっしゃい。さっき春子さん帰っちゃったんだけどできたてだよ?座って?」
「わぁ、美味しそうだね。春子さんすごいね」
「こないだ瑞希に会ってから作ってあげたかったんだって。レナの友達だからって」
テーブルには沢山の美味しそうな料理が並んでいる。本当に沢山作ってくれたようだが食べきれるだろうか。私はレナの対面に座ると隣に栞がすかさず座った。腕にくっついている栞は私の隣から退く気はないのだろう。レナはそんな私達を見て怪しく笑った。
「瑞希沢山食べて?春子さんには私からお礼を言っといたから」
「あぁ、うん。ありがとう。レナも食べなよ?」
「食べるに決まってるでしょ。しおもいっぱい食べてね?」
美しい笑顔のレナに栞はすかさず低い声で言った。
「気安く呼ぶなクズ」
「じゃあ、なんて呼べばいいの?僻み野郎さん?それとも妬み野郎さん?あぁ、それか……」
「おまえふざけ…」
「お互い名前で呼べばいいでしょ?」
もう始まりそうなのを察知した私は二人を見ながら言った。おまえもダメだし僻み野郎さんもダメに決まっている。レナはふざけてるみたいだが介入しないとここはダメだろう。
「おまえとかもダメ。名前で呼び合いな?ね?」
「じゃあ、しおで良かったじゃん」
「栞って呼んであげてレナ。栞もレナって呼ぶんだよ?分かった?」
「………分かった」
「ふふふ、栞よろしくね?」
どうにか取り持つも楽しむようにレナが栞に言った。栞は敵対心はあるが前よりは抑えられてはいた。が、普通に不快そうに言った。
「……無駄に話しかけないで私に」
「栞?よろしくって言われてるのにそんな言い方ないでしょ?」
「……よろしくね」
腕を掴む力が強くなる。私の指摘にふて腐れたように私を見てきたがとりあえず形は作れた。二人が前よりも歩み寄れている。レナはにっこり笑った。
「これからは仲良くしていこうね栞?」
「私は瑞希としか仲良くしないから」
「そうなの?でも、私の方が仲良しだけど。ね?瑞希?」
自分で種を巻いたくせに私に嫌な振り方をする。
私はとりあえず注意した。せっかくの食事がまずくなってしまう。今日のメインは食事なのだ。
「レナ?約束忘れたの?」
「あぁ、ごめんごめん。でも、私達仲良しだからつい。許して瑞希?」
「はぁ……、とりあえずごはん食べよう?今日はせっかく春子さん作ってくれたのに冷めちゃうよ」
「うんうん、食べよ食べよ?レナも栞もそこら辺にして。私よそってあげる」
流そうとしたら美穂も乗ってくれた。美穂は二人のやり取りに不安そうだったけど空気を呼んでくれて助かった。
そうしてどうにか食べ始めるもレナと栞の火花が散らないように美穂は私に話しかけてきた。
「春子さんがね、レナに友達ができたのすごい喜んでてさ、瑞希の事気に入ってるみたいだよ」
「あぁ、そうだったんだ。こないだも料理作って貰ったけど本当に美味しいね」
「分かる。春子さんの料理最高だよね。私もさ…」
「ねぇ、それよりドライブは行かないの?」
空気を良くしようとしたのにレナは唐突に爆弾を投げてきた。
栞の前でやめてよと思ってもそこまで事情を知らない美穂は驚きながら話しに乗ってしまった。
「え、ドライブ行くの?いいじゃん行ってきなよ?どこ行くの?」
「まだ決めてない。どこかいいとこない?」
「んー、そうだなぁ……てか、どうせなら一日かけて遊園地とかに遊びに行けば?レナ休みなんだからたまには一日遊びなよ?ね?瑞希もいいでしょ?」
美穂が楽しそうに言うから私も答えようとしたら栞が対抗するように答えてしまった。
「瑞希は私と遊園地に行くの。私と以外に行かないから」
「え?そうなの?じゃあ…」
「ちょうどいいから一緒に行けばいいじゃん。ダメ?運転はあんたがして?私の車貸してあげるから」
「え…………?」
行きたがるレナは美穂に運転を頼みながら栞の反応を見ていたが美穂は私に助けを求めるように視線を送ってきた。これは、ちょっとと言うかだいぶ嫌な展開に話が転がった。栞が反撃しかねないよと内心思っていたら栞は私の腕を引いてきた。
「瑞希はどうしたい?」
「え?」
そして私は委ねられてしまって辛かった。
断固拒否の姿勢に出るかと思いきやまるで私を試すようなこれには正直答えたくない。誰の気持ちも分かるし誰を取っても何かあるのは確かだった。特にレナは避けようのないむしろぶつかってくる障害物だ。でも、答えないなんて選択肢はなくて私は栞が怒るかもしれない不安に駆られながら答えた。
「私は……栞と二人も良かったけど、皆で行った方が楽しいから皆で行ってもいいんじゃないかな?……栞は嫌?」
正直二人がいいに決まっている。だが、レナは断った所でずけずけ余計な事を言いながら突っ込んでくるからもう受け入れてしまっていた。また揉めても困るし事態を終息させるのはきっと私だもの。他所で火事が起きても火の粉は必ず私にかかってきてしまうのだ。
栞はちょっと不満そうに顔を歪めた。
「…瑞希が皆で行きたいならいいけど……」
「また埋め合わせするよ」
「絶対だからね?」
「うん。分かってるよ。じゃあ、……皆で予定立てようか?」
栞は意外にも我が儘は言わなかった。後で何かいろいろ言われるかもしれないけどここまでまだ問題は起きていないから良しとする。レナは反応を楽しむように笑っていたが本当によく問題を起こすものだ……。
私達はそれからご飯を食べながら遊園地について話した。
その話し合いは意外にも栞がまとめてくれた。最初こそ私と美穂で話していたが元々行きたい所があったみたいで栞の案で決まった。後は皆の予定をあわせて行くだけだがその後の機嫌取りが大変だった。
ご飯を食べていた時はレナが何度か絡んできたが前みたいに激しくぶつからなかったけど一緒にいさせるのは危険なので時期を見計らって私は栞を連れて帰った。
そうして私の家に一緒に帰ってきたは良いものの、栞は話しかけてもムッとしていていつもならくっついてきたりしつこく話しかけてくるのに私を見ようともせず黙っていた。
「栞?お茶もっと飲む?」
「………」
「栞?なんかお菓子とか食べる?」
「………いらない」
「そっか。なんか食べたくなったりしたら言ってね?」
「…………」
さっきからずっとこんな感じで頭が痛い。
あの時二人で行きたいなんて言っていたらレナがなんか言って揉めてただろうから言わなかったのに後悔はしてないけどどうしよう。栞が好きな話をしても素っ気ないし顔を見ようとすると逸らすし……。私は機嫌が悪い栞を後ろから抱き締めた。
「栞?そんなに怒らないでよ?」
「…………」
「栞ごめんね?」
今日は抱き締めても無反応で黙っている。
私は一人苦笑いしながらあの言葉を言ってみた。
「大好きだよ栞」
「……」
「ねぇ、栞?今日は栞の言うことなんでも聞くから許して?」
これならたぶん何か言うだろうと思っていたら栞は小さく呟いた。
「……許さない」
「なんで?なんでもするよ?」
「瑞希のバカ。離して」
「………うん、ごめん」
今日はいつもとだいぶ違う。抱き締めてもダメだし好きと言ってもダメだ。私は嫌がる栞から距離を取ると困りながら聞いてみた。
「栞?そんなに私が嫌?」
「違う。…………しおを一番にしてくれないのがムカつく。なんでしおを一番にしてくれないの?ずっとしおが一番だったのに瑞希優先もしてくれないし、しおに怒るし……もうやだ」
「……だってすぐ喧嘩するじゃん。喧嘩しないようにしただけだよ今日は」
「そんなの関係ないもん。ムカつく………」
栞は怒っていると言うよりかふて腐れていたようだった。栞の独占欲は昔から変えようがない。私は内心大きなため息をつきながら栞の手を握った。
「栞は特別だよ?大好きだからいないと困るよ私」
「………嘘つき」
「嘘じゃないよ。嘘だったらキスなんかしないよ」
「……あんまりしてくれないくせに」
「それは、だって……」
「…バカ」
言葉に詰まった私に文句を言う栞はふて腐れてはいるが今ならまだ持ち返せそうだ。私は咄嗟に顔を寄せてキスをすると栞はようやく私を見た。
「もっとしていい?今日はいっぱいするから…ダメ?」
「…いいよ。でも、手握ってないとやだ……」
「うん。離さないよ」
強く握ってきた栞に応えるように握り返すと私は栞にキスをした。
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