第11話


その後無事レナの家に帰ると美穂は怒るどころか心底心配していたようでレナが帰ってきたのに安心していた。レナは美穂にウザそうにしてたが病院に行くのを承諾した。それには美穂も面食らったように驚いていたが信じられないように喜んでもいた。美穂は毎度ながら私に感謝をしてきて戸惑ったがレナとどこに行ったかははぐらかしといた。あんな事言ったらいろいろ大変だろうから黙っといた方が皆のためだ。



その騒動から数日、私はレナが心配なので仕事終わりにレナの家に行くねと連絡を入れて行ってみる事にした。

レナはあれから連絡を寄越さないし連絡を返してこなかったから一応美穂に聞いてみたらアイツの家に行く友達は瑞希しかいないから勝手に行っていいよと言われた。まぁ、レナじゃなぁと思うけど勝手に人の家に行った事ないんだけど……。

私は少し不安を抱えながらレナの家に向かうともらった鍵でロックを外してエレベーターに乗る。前みたいにキレられるからインターフォンは鳴らさないけど部屋まで来て勝手に玄関を開けるのもちょっと緊張する。


私はゆっくり玄関開けて中に入ると靴が二足あって驚いた。レナはヒールの高い靴を履いているので普通の靴は履かない。だとすると先客がいるようだが誰だろう?

見るからに男用だけどレナに男がいるようには思えないんだけどもしかして彼氏?私はドキドキしながら居間に続くドアを開けると驚いた。レナは広い部屋の中で黒いシートを身に付けながら男性に髪を切ってもらっていた。


「え?」


「あ、瑞希。本当にきた」


「え?拓哉?え?…………え、どういう意味?」


私は困惑していた。レナの髪を切っていた男性は拓哉と言う高校の時の友達だった。拓哉は美容師で私も髪を切ってもらっているが銀髪の目立つ頭をしているが腕は確かで就職した時から働いていた店で店長にまで上り詰めている。

しかし、なぜ拓哉がここに?拓哉はレナの髪を切るのをやめた。


「俺レナの専属で髪切ってんの。美穂から聞いてない?」


「え、聞いてないよ。てか、拓哉レナと知り合いだったの?」


「うん。もうすげぇ長いよ?美穂に頼まれてからだけど」


「ねぇ、早くして?」


そうやって話していたらレナは無表情で不快そうに言った。拓哉はすぐにレナに向き直った。


「分かってるよ。レナもう少し切る?毛先は揃えたけど前よりは長いよ?」


「どうでもいい」


「毎回そう言うなよ?なんかこうしたいとかないの?今仕事も休んでんだから髪で遊んでもいいじゃん」


「どうでもいい」


「ん~、じゃあ、もうちょっとだけ切っとくか?ちょっと待てよ」


レナは本当にどうでもよさそうだった。ていうか、座っていることが不服そうだった。だから美穂が拓哉に頼んでるのかなと思うがレナは長い黒髪が印象的な女優なのにこれを見るにめんどくさいからそのままなんだろう。拓哉は素早くレナの髪を切るとレナに髪を見せていた。


「レナ後ろはいつも通りにしといたから跳ねにくいと思う。それなりに切ったから楽になったんじゃないかな」


「あっそう。ありがとう」


「うん。じゃあ、ちょっと待てよ」


全く感謝の念が感じられないお礼にちょっと笑っていると拓哉はそそくさと片付けだした。レナの態度は一貫しているが拓哉も慣れているようで気にしていない。

レナは拓哉が片付け終わるとそのままシャワーを浴びに行ってしまったようだった。もはや私達は空気のようだ。


「拓哉よくレナの髪切ってるね」


普通に態度悪すぎると思うのに拓哉は笑っていた。


「まぁ、美穂の頼みだし。別にそんな嫌なやつじゃないからなレナは」


「まぁ、言いたい事は分かる」


「それより瑞希よくレナと友達になれたな?美穂から聞いたけどレナの友達なんか付き合いの長い俺でさえ見た事ないよ」


「あぁ、まぁ、うん……。態度悪いけどほっとけないから」


拓哉の言い分は非常によく分かった。レナは癖が強いとかの話ではない。


「それで、今日は遊びにきたの?」


「うん。まぁ、そんな感じ。レナ連絡してもあんまり返さないから心配で」


「だよな。俺もそうだよ。レナの髪やる時いつも美穂と連絡取ってる」


「うん。レナじゃそうだと思う。お互い大変だね」


「まぁな。あ、そうだ。俺と美穂とレナでたまに飯食いに行くからその時瑞希も来いよ?また飯行こうって話してんだ美穂と」


正直笑顔で誘われてもえ?と思うだけだった。たぶん美穂がレナを外に連れ出したいんだろうけどあんな態度悪いしご飯もあんまり食べないのに場の空気は大丈夫なのだろうか。しかもなに話してんだろう………。レナは拓哉も美穂もどうでもいいと言うよりウザそうだし。でも、拓哉はいいやつなので私は頷いた。


「あぁ、いいよ。いつでも行く」


「分かった。じゃあ、決まったら俺か美穂から連絡するから。レナと楽しんでな瑞希」


「うん………。またね拓哉」


そうやって拓哉は帰ってしまったが楽しんでと言われるのは複雑だった。私が弄ばれてるなんて思わないだろう普通。私とレナは友達だけどだいぶ変わった関係だし。

私はそれからレナが出てくるのを待って、いつもの豪華なソファに凭れたレナに聞いた。


「レナあれからちゃんと病院に行ったの?」


「行ったけど」


「薬はちゃんと飲んでるの?」


「飲んでるけど」


「そっか。よかった。最近調子はどう?」


「………なんなのさっきから?」


不快そうに言われても心配の方が強い。


「心配なの。それでどうなの?」


「別に」


「そう。悪かったら言ってよレナ?」


「………ウザ」


「はいはい。ウザくてごめんね」


まぁ、いつも通りそうなので私はちょっと安心した。

顔色も悪くなさそうだし今日は本当に大丈夫なのだろう。レナは鼻で笑いながら話しかけてきた。


「それで、今日は私に切られにきたの?」


「違うよ。様子見にきたの。遊びにもきたけど」


「じゃあ、遊ぼう?瑞希に嫌がらせしたい」


「……レナ、嫌がらせはしちゃダメでしょ?」


もう愉しそうなレナに私は呆れながら言った。嫌がらせしたいなんて初めて言われたけどレナは本気だろう。レナは動じずに美しく笑った。


「来て瑞希?今日は切らないから」


「…………やなんだけど」


「じゃあ、そのままでいて」


正直に漏れた本音にレナは笑みを深めると優雅に立ち上がって私の膝の上に乗っかってきた。そして何を考えているのか分からないレナは私を鋭くて綺麗な眼差しで見つめる。それは恐ろしくもあるが魅力的でもあった。


「ねぇ、私のために頑張るんじゃなかったの?」


「まぁ、そうは言ったけど……」


「ふふふ、ねぇ、じゃあ私の言う事聞いて?……じゃないと倒れそう」


「………内容によるよ」


今日は何がしたいんだろう。もう捕まってしまって動けないから強引に聞かせるつもりだろうがレナの考えは私には読めない。レナは低い声で魅了するように囁いた。


「今日は私を切って瑞希?できる?」


「え?」


また何を言い出すんだと思っていたらレナは私に軽くキスをすると膝から退いた。そしてテーブルに並べてある綺麗なナイフを一本取ると私に差し出してきた。


「分からないの?私を切れって言ってるの。バカだから分からない?」


「……いや、分かるけど。いきなりなんで?」


「楽しみたいから。瑞希は遊びにきたんでしょ?なら遊ばないと勿体ないでしょ。早くして瑞希」


「でも、できないよ。レナを切るなんて私には無理だよ」


ナイフを手渡されても私はできなかった。

レナにはいろいろやられてるけど私はレナを傷つけるなんて無理だし、やりたいとすら思わない。断った私にレナはにっこり笑ってナイフを私の手から取った。


「そう。じゃあ、私がやる。見てて瑞希?」


「え、レナ…?ちょっとやめて!!」


私は普通に笑いながら掌を切ろうとしたレナの手を掴んで止めた。あと一瞬遅かったら本当に切っていただろうレナに冷や汗が出る。レナはどういうつもりなんだ。

レナは機嫌良さそうに私に顔を寄せた。


「その顔なに?そそられちゃう。嫌だった?」


「そんなの嫌に決まってるでしょ?なんでそんな事するの?」


「分からないの?瑞希が嫌がるからに決まってるでしょ?その顔…………殺したくなるくらい好きなの。もっとそういう顔して瑞希」


レナは私で遊ぶのを心から楽しんでいるようだった。あのナンパ達を刺そうとしてた時のように嬉しそうで愉しそうだ。もうレナは私の表情を娯楽のように感じているようだがレナを傷つけない方向に持っていきたい。私の表情を楽しみたいからってレナが自分自身にいつかとんでもない事をしそうで怖い。私は愉しそうなレナの目を見て言った。


「じゃあ、自分の事は大事にして?私は切ってもいいけどレナは切っちゃダメ。自分を傷つけるような事はしないで?」


「ふふふ、私が傷ついちゃ嫌なの?」


「うん。私はいいけどレナはダメ」


「……そう。分かった。瑞希の言う事聞いてあげる」


初めて素直に言う事を聞いてくれたレナに驚いた。

レナはなにか条件をつけたり頷かない事しかないのにどういう風の吹きまわしだろう。気まぐれかもしれないがレナはにっこり笑うとナイフを傍らにおいた。


「約束だよレナ?」


私は機嫌良さそうなレナに言っていた。これを破られたら困る。


「分かってるから。何度も言わせないで」


「ならいいけど」


「ねぇ、それより今日は気分がいいから瑞希が私を楽しませて?」


「え?そんな事言われても困るよ」


約束は守ってくれるみたいだがレナは弄ぶ事に重点を置いてきた。レナは普通にお喋りして楽しむような人じゃないのにどうしたらいいんだろう。レナは私の隣に座るとおかしそうに笑った。


「なんで?頭が沸いたの?」


「沸いてはないけど……。なんか動画とか見る?」


「くだらない。楽しませる気ないの?」


「いや、あるにはあるけど……」


「ふふふ。早く考えて?待てないから」


私が困っていたらレナはそれはそれは愉快そうに笑っていた。



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