魔女は呪いにかけられて

风-フェン-

第1話




「あのさぁ、ちょっと最悪かもしれないお願いがあるんだけど聞いてくれない?」


そう言ってきたのは高校の時からの友達の美穂だった。高校の時からショートカットで可愛らしい印象は変わらないけど長く付き合ってきてこんな事を言われたのは初めてである。

今日は最近仕事が忙しくてご飯が食べれなかったので久しぶりにご飯を食べようと誘われて来たのに開口一番にそれとはどういう意味なんだろう。

私は戸惑いながら口を開いた。


「どうしたの美穂?…いきなりなに?」


「実はね、私には幼馴染みがいるんだけどそいつと友達になってほしいの。だけどちょっとと言うかだいぶ問題があって……」


「……ヤバイやつって事?」


美穂がこんな事を言うのは意外で驚いた。美穂は明るくて社交的で誰とでも上手くやれる人だ。だから友達も多いし、どちらかと言えば明るくて美穂と同じような人と友達なのだが……。美穂は珍しく顔をしかめた。


「ヤバいって言うか………人の気持ちは完全無視みたいなやつ」


「え、ヤバいじゃん…」


なに言ってんの?と思うと同時にそんなやつと幼馴染みなのに驚く。美穂は悩み事のように話した。


「うん……ごめん。しかも、常識がとち狂ってるから普通は通用しないし、嫌がる事を平気でやるし、超気分屋。我慢は難しいかなぁ…。あれは大きい子供なんだよねぇ……例えるなら」


「………私にその人と友達になれって事?」


「うん………できたら……。そいつね、そんなんだから友達が一人もいなくてさぁ、友達を作らせようとしてもことごとく連敗な訳よ。で、私の最後の頼みの綱に来たって感じ。もう瑞希しかいないの私には」


「そう……」


私は無言になってしまっていた。

美穂は長い友達で仲が良いがこんな嫌なお願いをされたのは初めてだ。正直仲良くなれなさそうなヤバい人の特徴を言われても断りたくなるだけだろう。でも、美穂はこんな事を普段言わない分断りにくい。

美穂は懇願するように言った。


「あのね、瑞希には本当に申し訳ないと思ってる。でも、どうしてもお願いしたいの。前から友達を作ってあげたかったんだけど上手くいかないし今はいろいろありすぎて前よりも友達を作ってあげたいのよ私は。でも、あいつを相手にするには人間性が良すぎるような人じゃないと無理だから瑞希に来ちゃったの。本当にごめん瑞希。大好きだけどごめん。でも、お願い。一生のお願い。頼むよ瑞希」


「……うん、いいよ。美穂がそこまで言うなら……」


「ありがと瑞希!瑞希なら言ってくれると思ってた!本当にありがとう瑞希!!」


私はここまで美穂に言われては断れなくて受け入れてしまった。全く乗り気ではないけどこんな頼んでくる事は中々ない。美穂は嬉しそうにお礼を言いながらまた説明をしてくれた。


「それであいつは持ち手がない刃物みたいなやつだから一々何か思わなくていいからね?不用意に傷つくだけだから無神経な子供を相手にする気持ちでいれば大丈夫。あと、言っても聞かないしやらないしすぐキレて大変だけど撤退するかとことん話し合うかすればどうにかなるから。私からはそれくらいかな。本当に無理だったら言ってね瑞希」


「うん……まぁ、分かったけど…不安しかないんだけど」


「私なんかほとんど毎日大変な思いしてたから大丈夫だよ。ヤバいけど良いとこはほんの少しあるから」


「例えば?」


「んー…………約束すれば守るとこ?でも、約束させるのがまじで大変なんだよねぇ…ごめん、あんまり良く聞こえないね。んー………はっきり物を言うとこ?は関わりやすいかな?」


気になって聞いてみた回答はますます不安をもたらしてきた。ここまで来たらどんな人なのか見物だ。美穂は携帯に視線を移すといじりながら言った。


「あ、もうすぐ来るって。実は今日呼んでるんだここに。ごめんね瑞希。変わったやつだけど仲良くしてやって?」


「え?呼んでたの?」


「うん。瑞希ならきっと受け入れてくれると思って。本当にごめん瑞希。大好きだよ」


「まぁ、いいけど…」


ちゃっかりしている美穂にちょっと呆れてしまう。それにしてもそんなにヤバい人なのになんで幼馴染みをやれているんだろう。美穂は面倒見はいい方だけど話を聞いている以上友達になりたいとは思わない。

それから美穂は申し訳なさそうに言った。


「それで私あいつ来たらちょっと仕事で戻らないとだからとりあえずご飯だけ頼むわ悪いんだけど。あいつちょっと好き嫌いあるしあんまり食べないんだけど無視する事はないから聞いて食べさせてあげてくれない?言わないと食べないんだよね」


「え?マジで行っちゃうの?」


「うん。ちょっと急に呼び出されて。あ、これは仕組んでないから本気のやつね。だから…あ、レナやっと来た」


そうして話している途中にやってきたのは大きなサングラスをかけた長身の女性だった。顔が小さくてサングラスがやけに大きく見える彼女の表情は見えないが手足が長くてスラッとしているから綺麗なのだろう。長い黒髪を後ろに払うと彼女は私の対面に座る。




「なんなの?疲れたんだけど」


挨拶もない彼女の声は意外にも低くてまるで悪役ようで驚いた。だけどなぜか声にも雰囲気にも色気があってよく分からない魅力を感じる。第一印象は威圧的だけど不思議な人だった。


「あんた部屋から出てないでしょ?だからたまには外でご飯食べなって事。で、紹介するけどこっちはレナ。私の幼馴染みでこっちは瑞希。高校からの友達。二人とも仲良くね」


「……ダルいから帰る」


紹介してくれたのにすぐに立ち上がろうとするレナを美穂はすぐに止めた。


「ちょっとレナ!レナはここでちゃんとご飯食べてから帰って。食べないんだったら春子さんに言うからねご飯食べないって」


「ウザ」


「ウザくて結構。じゃ、お金置いてくから。ここは私の奢りだからいっぱい食べてね。じゃあ、瑞希悪いんだけどよろしくねレナの事。ごめんね」


「うん……」


そうしてお金を私に託してきた美穂は申し訳なさそうに謝るとため息をつくレナに帰るなよと言って行ってしまった。風のように去ってしまった美穂に悲しくなるがお願いされている以上仲良くしてみよう。

相手に仲良くする気はまるっきり感じないが。


「えっと、レナちゃん?って呼んでいいかな?」


「レナでいいから。私はあんたって呼ぶから」


「あぁ、うん。分かった……」


私は笑いながら悟った。確かにこれは美穂の言っている通りだろう。この子はだいぶ普通とはかけ離れていそうだ。サングラスを外さないから表情が分からないけど私に興味がなさそうだしめんどくさそうなのを感じる。それでも私は話しかけた。


「じゃあ、なんか頼もっか?レナはなに食べたい?」


「食べたい物なんかないけど」


「じゃあ、嫌いな食べ物は?」


「魚と臭い物」


「んー、じゃあそれ意外で適当に頼むか…」


臭い物が曖昧だけど嫌いな物を聞けたので良しとしよう。私は興味無さそうなレナに他にも聞きながら注文をして料理が来るまでの間話しかける事にした。私はお酒を頼んだけどオレンジジュースを頼んで飲んでいるレナは頬杖をついている。レナはずっと退屈そうだった。


「レナは…」


「ねぇ」


「ん?なに?」


突然話しかけてきたレナはめんどくさそうに言った。


「あんたあいつに頼まれたバイト?私の世話しろって?」


「いや、そうじゃないけど」


「じゃあ、くだらない友達?あんたも暇だね?あいつに付き合うなんて」


「まぁ、友達だし…」


「はっ、くだらな」


バカにしたように鼻で笑う彼女は嘲笑うように言った。


「ごめん笑って。そういうのくだらなくて笑えるの」


「レナはくだらないから友達作らないの?」


「作らないもなにもいらないでしょ?無駄だから必要性が感じないし。ゴミと仲良くしたいと思う?」


「まぁ、ゴミと仲良くしたいとは思わないけど……」


美穂が言っていた事が繋がる。この子は普通とは違うと言うよりサイコパス気質なのだろうか。今まで関わってきた人とは全てが違った。でも、なぜかそれは魅力的にも感じた。愛想笑いもない威圧的な見下すような態度だが雰囲気が色っぽいからか彼女には人を引き付ける力がある。レナは失礼な態度をしているが興味が湧いた。ここまではっきり堂々と言う人はいない。


「それで?私と仲良くしろって?あいつ」


レナは読んだかのように言ってきたが美穂の口ぶりを思い出すと何度もあったのだろう。私はとりあえず頷いた。


「うん。まぁ、幼馴染みだから仲良くしてって」


「はっ、余計なお世話なんだけど。全く。幼馴染みじゃなくて仕事仲間なのに。ふふふ、まぁいいか。ねぇ、あんた買い物好き?」


嘲笑うと全く違う話を振られる。読めない彼女に私は戸惑いながら答えた。


「うん。それなりに」


「じゃあ、あとで付き合って?私買いたい物があるの」


「え、うん…。まぁ、いいけど」


買いたい物が何なのか検討もつかないが彼女は何を買いたいんだろう?聞こうとしたら注文した料理が来た。料理を適当にテーブルに並べてじゃあ食べようかと食べはじめてもレナは全く動かないで頬杖をついたままだった。食べる気もないのか私はレナに食べながら話しかけた。


「レナ食べないの?なんかやだった?」


「別に。めんどくさいだけ」


「え………めんどくさいの?」


めんどくさいと言われると思わなかった私はちょっと笑ってしまったが、レナはどうでもよさそうに言った。


「うん。ご飯ってあんまり意味感じないし、そんなにお腹減らないから」


「そっか……」


「全部食べていいからね?私は見てるから。あいつには言わないでよ」


「……うん」


本当にそう思っているだろうレナはただオレンジジュースを飲むだけだった。さっきから美穂が言った通りの事が起き過ぎている。この子は変わっているが美穂には言わないと食べないから食べさせてって言われてるし私はとりあえず言うだけ言ってみる事にした。


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