第2話



「ねぇ、レナも食べなよ?美味しいよ?」


「興味ないからいらない」


「いや、でも、折角だから食べなよ?私一人で食べても寂しいし……」


「あんたの寂しさなんか知らないけど」


「じゃあ、……お願い。お願いするから食べて?美穂も心配してたし」


こんな拒否された事がなくてもうお願いするしかなかった。レナは我が強いと言うより違う感覚で生きている。

断るかなと思ったらレナはため息をつくと箸を持って料理を一口食べた。


「これで満足?もう食べないから」


「え?もっと食べなよ」


「いや。私の事は気にしないであんたが食べな」


「いや、気になるよ。飲食店来て食べない人なんかいないし」


「私は食べない人なの。それより早く食べてくれる?私買い物行きたいんだけど」


箸を置くレナは呆れたように言った。なんで私が呆れられているのだと思うがもっと食べさせないとダメだ。一口は食べた内に入らない。私はとりあえず一皿レナの方に置いた。


「じゃあ、他は私食べるからレナはこれ食べて?お願いね」


「ウザ」


「早く行きたいんでしょ?なら協力して」


「……あんたあいつみたい」


文句を言うけれどレナは箸を持って食べ出した。意外に素直なのかなと笑いながらはいはいと言って私も食べ出した。

それから私は食べながらレナにいろいろ聞いてみた。

が、レナは全く何も答えなかった。答えなかったと言うより聞いても聞かないで、や分からないと言うだけで無駄だった。レナは私と仲良くする気はやはり全くない。

でも、私が食べてと言った料理だけはちゃんと食べてくれたので良しとする。態度は悪いけど私はそんなに嫌いじゃない。このタイプは仲良くなるまで時間がかかるだろう。

料理を食べ終わってから私達は会計を済ますと私はレナにスーパーに行きたいと言われたからスーパーに連れて行ってあげた。

レナは外見からは自炊しそうには見えないけれど何を買いたいのだろうか。買い物かごを持たないレナは私に言った。


「豆乳とカルパス買いたいんだけど探して」


「え?うん。いいけど……豆乳とカルパス好きなの?」


「ないから買うだけ。それよりかご持って」


「あぁ、うん……」


サングラスをかけたままのレナの表情は読めないし感情のない低い声で話されて分からない。最初からレナは分からないからまぁいいかと割り切った私はレナを連れてスーパーを歩いた。スーパーを歩いているといろんな人からの視線を受ける。レナは身長が高くて百七十くらいはあるので普通に目立つからだ。それにサングラスを外さないしスタイルがいいから歩くだけで目を引くだろう。しかし、当の本人は全く気にしていない。いつもそうなんだろうが私は少し気になりながらも目当ての物を探した。


「レナ豆乳あったよ?」


「十本くらい買って」


「うん」


そんなに買うの?と思いはしたが私は言われるがまま小さいパックの豆乳を十本かごに入れると次はカルパスを目指した。


「カルパスは?」


「あるだけ」


「あるだけ?まぁ、いいけど」


一口で食べられるカルパスを私は言われた通り取るがカルパスを五袋も買うのは始めてだ。レナはどうするつもりなんだろう。私はとりあえず聞いた。


「あとは?もういいの?」


「いい」


「じゃ、レジ行こう」


レナは偏食なのだろうか?私はレジまで行くと行列になっている列にならんだ。夜だからレジは混んでいて少し時間がかかるだろう。レジに並んで少ししてレナは言った。


「もう帰る」


「え?なんで?」


待ったの内に入らない時間しか並んでないのにレナはイライラしたように言った。


「欲しいけど待てない」


「え、ちょっと待って!!レナ!」


私は歩き出そうとしたレナの手首を掴んで止めた。本当に大きい子供で驚いてしまうがレナは普通に声から伝わるほど怒っていた。


「なに?」


「なにじゃなくてもうすぐだから待とうよ?そんな一時間とかかかる訳じゃないんだから」


「は?いやだから。私は待つのは嫌いなの。待つってバカがやる事でしょ」


「嫌いでもバカでももう少しだから待とうよ?買ったらもう待たなくて大丈夫だし。ね?」


「いや」


いやと言うレナは不満しかなさそうだった。

これは美穂が言っていたのを痛感してしまう。我慢ができないレナは子供だが本当にもう少しだからどうにか我慢させよう。


「レナ、じゃあ、並んでる間少し話そう?話してたらすぐだから。私レナに聞きたい事あるし」


「は?いやって言ってんでしょ」


「でも、いいじゃん?レナは答えるだけだし、簡単でしょ?話すのも少しだけだから」


「…………じゃあ、さっさとして」


ダメかと思ったがレナは話す気になったようでなぜか私に呆れたように言ってきた。だが、手首は離さずに私は話しかけた。これは生粋の気分屋だろうから出ていく可能性が否めない。


「レナはどこに住んでるの?」


「●●駅の近く」


「あ、そうなんだ。レナって何の仕事してるの?」


「今はしてない」


「辞めたって事?」


「休職してるだけ」


「へぇ~、そうなんだ……」


レナは不機嫌そうに話してくれたが休職しているのは意外だった。ていうか何の仕事なのかますます気になった。さっきは答えてくれなかったけど今なら答えてくれそうだから聞こうとしたらレナが話しかけてきた。


「あんたそんな聞いてなにしたいの?誰にも相手にされないから相手にしてほしいって事?」


「え?私はレナを知りたいだけだよ。嫌いじゃないし」


「私はあんたみたいなの嫌い。アリみたいに小さいし。上向いて歩かなきゃならないなんて屈辱でしょ」


普通に嫌みを言われた私はレナより十センチは小さいからか言われたい放題である。まぁ、でもレナはこういう人だから深く考えないようにしよう。持ち手がない刃物とは美穂はレナをよく言い表せている。


「そんな上見てないよ?でも、レナは身長高くて綺麗だよね」


「あんたの意見なんか聞いてないから」


「うん。ごめん。言ってみただけ。あ、もう来たよ」


話していたらレジの順番が来た。レナが出て行かなくて良かったとほっとしながら会計をする。レナはお金は自分で払ったが腕が痛くなるからと言ってきたので私が荷物を持った。私の気持ちはずっと無視だけど美穂に言われていたのでそこまで気にならなかった私はもう帰ると言い出したレナのためにタクシー乗り場まで案内しようとした。レナはタクシーをよく利用するようだ。


「ここら辺はタクシー乗り場じゃないとタクシー捕まえられないからちょっと歩くよ?」


「ダル」


「まぁまぁ、近いから頑張って?」


「どこ?」


「こっちだよ」


悪態をつくレナを連れて歩く。スーパーが駅から離れていたからタクシー乗り場までちょっと歩いていたら前から来たスーツの男二人に絡まれた。


「ねぇ、二人とも可愛いね。これから暇?ちょっとカラオケでも行かない?」


「お、お姉さん芸能人かなにか?サングラスなんか夜にかけてたら危ないよ」


ちょっと酒臭いコイツらはだいぶ酔っているみたいで一人の男がレナの肩に腕を回した。レナは不愉快そうにそれを一瞬で振り払った。私はそれだけで不安になった。これはまずい予感がする。


「やめてくれる?ゴミが気安く話しかけてくんなよ」


「レナ…」


「あぁ?なんだよ。声かけてやってんのに調子乗りやがってよ。何様だよ?」


「は?頼んでないから。頭にウジ虫でも湧いてんの?」


どちらも怒りが滲んでいて不安は高まる一方だった。これは止めないとだよね?レナにナンパしたコイツらも悪いけど男は顔を赤くして怒り出した。


「はぁ?!おまえ言わせとけば………うぅ!」


「ゴミのくせにがたがた喋んないでくれる?耳障りなんだけど」


「おい!大丈夫か?!」


レナは思い切り男を蹴っ飛ばして不愉快そうに言った。連れの男は倒れた男の様子を伺うがまさか蹴っ飛ばすと思ってなかった私は本当に驚いた。レナは誰にでもこうなのか。レナは思い出したように笑った。


「あぁ、そうだ。ゴミは臭いから掃除しないとだよね?私が刺してあげようか?いい物あるから」


そう言って楽しそうにレナは持っていた鞄から何か茶色い物を取り出した。最初は何なのかよく分からなかったけどレナがそれを少し振るように動かすと刃物が出てきて驚いた。それは折り畳みナイフのようだった。


「綺麗でしょ?私のコレクションなの。結構長いから刺したら本当に死ぬかもよ?ねぇ、どこ刺してほしい?刺したら頭のウジ虫いなくなるんじゃない?一石二鳥だね」


「な、なに言ってんだこいつ……」


「レナやめて!!」


私は男に近寄ろうとするレナの手を掴んで止めた。

レナは脅しじゃなくて本気だろう。まるでゲームでもやってるかのように楽しそうだから。それは正しく異常だけどレナは機嫌良さそうに聞いてきた。


「なに?あんたも刺したいの?」


そして止めた私に見当違いな発言をする。

レナは本当に普通じゃなかった。


「そんな訳ないでしょ?何やってんの?危ないからやめてよ!」


「は?別にゴミを消そうとしてるだけじゃん。掃除しないとゴミで溢れるでしょ?そしたら汚れるから」


「ゴミじゃなくて人でしょ?!もういいからそんなのしまってよ!!」


私とレナが話していたら男達は走って逃げて行ってしまった。それはそれで良かったけどレナは男達を見ながら残念そうに呟く。


「あーあ…。せっかくのゴミが逃げちゃった。私が有効活用しようと思ったのに」


「レナ……。ちょっと来て」


「もう、さっきからなに?」


私はあり得ない事ばかり言うレナの手を引いて近くにあった公園のベンチに座らせた。レナはちょっと違う人種だと思っていたけどちょっとではない。私はさっき出していたナイフを眺めるレナに言った。


「レナ本当に何してるの?」


「掃除だって言ったでしょ?世の中には死んだ方がいいゴミが腐る程いるんだから掃除しようとしたの。分からないの?」


当然のように言ってくるレナは私の方に顔を向ける。

言いたい事はなんとなく分かるがいけない事はある。

私はレナを見て言った。



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