第5話

 ……というか、この女が常習者であることなど、既に調査済みであった。


 数日前から調度品の位置のずれ、趣味の悪い香水の残り香、質の悪い薬の香り。そして、あきらかにをしたであろう、調度品の汚れや臭い。


 腹が立つ事に、ジャックが仕事で出掛けているタイミングで行なわれているらしいソレを、今までが忙しかった所為で、どうにもすることが出来ないでいた。漸く余裕が出来、念入りに計画を練り上げ、上手く周囲の情報を操作する事によって、まんまと女は引っ掛かった訳だった。


 ……自身の住処で見知らぬ奴らの入り乱れる様子をただ証拠集めの為だけに放置など、二度とやりたくない。


「どうしよう、かなぁ」


 ジャックは呟く。


「——実はさぁ、君が、今まで何処で誰とナニをやっていたかなんて……既に知っていたんだけど」


と、袋を持っていない方の手で記録用の道具を懐から取り出し、見せる。


『……!』


 羞恥だか怒りだか分からないが、女は顔を真っ赤にさせて、ジャックを睨み付けた。


「……はぁ。何かな、その顔は」


 ジャックは記録の機械を仕舞うと古いソファから立ち上がり、女の側まで歩み寄る。


「そもそもこの廃墟ココ、オレの住処なんだけどな」


低い声が女の耳朶を打ち、女の白く細い肩が跳ねた。


「『手入れされていないから、誰も管理していないと思った』? ……何を言っているのかな」


女の反論を、ジャックは一蹴する。


マホドーラここいらの建物は殆ど持ち主はいるんだよ。本当に管理されてないなら、一般人がわんさか住み着くだろう?」


尚も不服そうな女を見、ジャックは溜息を吐く。


「ただ迷い込んだだけなら、別にただ出て行けば良いだけの話だ」


 それを見逃してあげるくらいの寛容さは、流石のオレでも持ってるんだよ、と女を見下ろしたまま、にっこりと微笑む。その顔は逆光で見え辛い状態だったが、細まる鈍色の目が、ゆっくり弧を描く薄い唇が、笑顔であると、女に印象付けた。


「だけどさぁ、」


笑顔を貼り付けたまま、ジャックは続ける。


「——売色されんの、許せると思うかな」


一瞬で、その顔から表情が抜け落ちた。


「おまけに?」


ジャックは手に持つ、粉の入った袋を見る。


「こーんなクソッタレな興奮剤、抑制剤の売買とか」


それをぽい、と床に放り捨てる。


「盗られて困るものなんて、何もないから鍵をかけてなかったけど、それが仇になったみたいだね」


ジャックは肩を竦めた。

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