第24話

「それは、……ただの、魔法を無効化する薬品だ」


 息を切らし床に転がるナナセは、してやったり、と言いた気にジャックを見上げる。が、その顔を見た瞬間、目を見開き


「嘘だろ……」


と、茫然と呟いた。


 その顔を見ただけで、ジャックは自身の顔がどのような状況になっているのかが容易に想像できる。


「……ああ、そうだろうね! その液体それには見事に魔法無効の効果があるみたいだよ」


実に丁寧な解説をありがとう! と苛立ち混じりに返答し、ぐいと着ている服の袖で雑に顔を拭う。確認の為ために、床に倒れていたひび塗れの姿見に両手を突いて顔を寄せ、自身の顔の状態を認識する。


「…………ああ、こんな……まさか、」


ジャックの顔は薬品がかかった皮膚が溶けてその部分のみ、見事に中身本当の姿が露わになっていた。皮と本当の体を繋げていた、癒着剤の青い色の薬品が溶けた皮と混ざって鏡に落ち、変色して青緑色の水溜りを作る。


「……………………誰にも、見せるつもりはなかったのに」


何度拭っても垂れてくる青緑の液体への対処を諦め、ジャックは絶望したような感情の抜けた声を零し、顔を半分溶かしたまま、ゆらりと立ち上がった。


「……如何してくれようか、ねぇ」


幽鬼のようなジャックは、座り込むナナセにゆっくりと静かに歩み寄り


「——ぶっ?!」


横っ面を蹴り飛ばした。


 ナナセは少し床をバウンドして転がり、武器の山に丸ごと突っ込んだ。


「こんなに面白くなくて、クソッタレな日なんて生まれて初めてだよ」


咳き込むナナセの襟を掴んで崩れる山から引き摺り出し、忌々し気に床に放り捨てる。


「その薬、何処で手に入れたかは知らないけど……色々と役には立ちそうだから、出処を教えてもらえないかな?」


逃げようと立ち上がったナナセと、唯一の出入り口である玄関の扉との間を塞ぐように立ち、ジャックは首を傾げる。


「テメェなんざに……」


教えるわけがないだろ、と拳を握るナナセとの間を


「——なんてね」

「ぅぐっ!」


一瞬で詰め、ジャックはナナセの首を力任せに掴んで締めながら持ち上げる。


「そんなの別に要らないよ」


「がっは、」


壁に投げるように打ち付け、ジャックは持っている長剣の刃先をナナセに向ける。


「君に教えてもらわなくても、探せば良いだけだからね」


喘鳴を出すナナセをもう一度壁に打ち付け、鎖骨の下に剣を刺す。そのまま壁まで深く差し込み、虫の標本のように壁に張り付けた。

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