第8話

「……どういうつもり、かなぁ……」


 不法侵入の男が女を治癒している間に、状況を確認すると同時に、ジャックは冷静さを取り戻していた。


「おい、テメェ。こんな事をして許されると思ってんのか?!」


 治癒を終えた女を背に庇い、自身を見上げる不法侵入の男。見た事のない顔だったので、恐らく、つい最近転生してきたばかりなのだろう。


「……『こんな事』って?」


 ジャックは目の前の男が、今の状況をどう把握しているのか知る為に、聞き返す。だが、その台詞が運悪く、男の神経を逆撫でしてしまったらしい。


「……テメェみたいな非道な奴が居るから、この世界が酷くなるんだ!」


テメェをブッ倒す、と男は背負っていた大剣を構えた。


「……この世界、何度か良くしようと画策する君みたいな奴が現れたけどさぁ。……良くなった試しが無いんだよねぇ……」


 どうせ聞こえてないか、とジャックは不承不承ながら、戦闘態勢に入る。生産性のない面白くない争いなど、時間の無駄でしかない。



×



「はぁっ!」


 初めに動いたのは、男の方だった。真っ直ぐ、馬鹿正直に大剣ごと此方に飛び込む。


「……先に、手を出したのは君の方だから、ね?」


 ひらりとそれを躱し、ジャックは呟く。一応、女に記録を見せた辺りから、別の装置で記録も付けてあるので、まぁ、何かが起こった時でもあまり不利にはならない、筈だ。


「……君と、その娘。一体どんな関係だっていうのかな」


男に問いかける。



——要約すると、転生したばかりで右も左も分からない時に手を差し伸べてくれて、一宿一飯の恩義がある、ということらしい。


「……ふぅん。……で?」


 恩義があるからと言って、わざわざ戦う事はないだろう、という意味で続きを促したつもりだったが、随分と素っ気なく聞こえたらしく、更に、男の心を逆撫でしてしまったらしい。


 どうやら、此処に来たばかりの男は、前世の優しく生温い世界の感覚を、未だに引きずっていると見える。


「……結果的に、お金を払ったんだよね?」


男の説明を思い出しながら、聞き返す。


「親切を無碍むげに出来る訳ないだろう」


当然だ、と男はジャックの質問に答える。……少し自慢気なその返答に大いに虫唾が走る。


 ——なるほど、ぼったくられているのにも気付いていない。男の話を聞いた限り、ジャックの住処に不法に侵入し、尚且つ売色と薬売りを行った女が昼間に営んでいるらしい宿屋のグレードは、少々……いや、かなり下の方だ。

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