第31話

 何故だか思った以上に怒っているナナセの様子を見、少し思案してから


「——あぁ、もしかして……あの子の事も、それなりに好いてたってコトかな?」


ジャックは合点がいった、と笑みを浮かべる。


「それならば、たかだか半年少しの間しかともに居ない相手の事でそう感情移入はしないよねぇ」


「半年、だぞ!」


 何を言っているんだ、とナナセは叫ぶ。ナナセの言葉に、ジャックはそもそもの時間の感覚や認識がずれていることに気が付いた。二十数年しか生きていない若者ナナセと、六百年近く生きている化物ジャックとでは、無理のない話だった。


「それに、テメェは恋愛感情の有無そういうのが無いと感情移入しねぇのか?」


ジャックの言葉を信じられなさそうにナナセは見る。


「——いいや。オレは、損得勘定でしか相手とは関わらないよ」


ジャックの冷淡な言いようをナナセは「俺とテメェは一生分かり合えないな」と吐き捨て、


「もう、テメェは人間じゃねぇんだな」


ナイフの切っ先をジャックに向け構えた。


「オレが人だった頃なんて、……生まれてから一度もなかったよ」


最初っからクソッタレな案山子だったものでね、とジャックは睨むナナセに自虐し嗤った。



×



「……(……まずい)」


 ナナセと向かい合うジャックは、余裕な笑みを浮かべたままだったが内心では焦っていた。散々暴れ回ったせいで、身体がもう持たないかもしれない。


 それに、


「……処で、どうしてオレの弱点が炎だって苦手なものを知ってる?」


 ほんの少し一度殺す前までは自身の動きに合わせて色々な属性の魔法を使い分けていたのに、先程からナナセが繰り出す魔法の全てが、炎で統一されていた。


 ジャックは炎が苦手だった。そもそも彼を構成している物質の殆どが、よく燃える藁や乾燥した死肉だ。普段なら泥が保持している水分や身体に塗り込んでいる薬品による効果で、ある程度の炎食らっても平気であった。


 しかし、現状は薬品は漏れて泥は乾燥済み燃えやすい状態だった。


「……お前、一応信頼していた人になれるカラス仲間が居たんだってな」


「……まさか、」


「お前の情報は、全部お前の仲間のレイヴンカラスから全部買った」


目を見開くジャックに「お前の仲間は薄情だな」とナナセは嗤う。一頻り嗤った後、ナナセはジャックに問う。


「長年の仲間に、裏切られた気分はどうだ?」

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