第32話

「…………別に」


 ジャックは実につまらなそうに、大きく息を吐いた。


「……は?」


レイヴンは、オレの仲間じゃないんだよ」


呆気に取られた表情のナナセに、ジャックは答える。


「——ただの、長い間の顔見知りよ」


「……『だった』?」


眉を顰めるナナセに「そりゃあそうだろう」と言葉を続ける。


「利害が不一致になったんだから、切り捨てるんだよ」


 ジャックは大袈裟に両手を広げ顔を振り、わざとらしい程に、心底残念そうに肩を竦めた。


「実に残念。彼はとても優秀使える鴉だったから重宝したのに」


「……テメェ、そういう風に思っていたのか」


「オレと彼はただの利害が一致していただけの相手だったんだよ。……君は……何か、誤解していたみたいだね?」


ナナセを冷笑する。


「……(だけど、弱点が知られていたなんて》」


どう足掻いても勝てなくなったじゃないか、と


「テメェ、考え事か?」


 そう思考を飛ばして一瞬、反応が遅れた。再びナナセが炎を纏ったナイフを振り、ジャックの中心を刺そうと飛びかかる。それを防ぐ為の腕が、このままでは間に合いそうに無い。


「……く、(でも大丈夫だ。オレは生身の人間じゃ——》」


その一瞬の遅れを取り戻そうと無理に力を込めた。そして、



——バツン


「……っ、(……腕が、》」


 千切れる感覚と音が身体の中に響き、急に腕が重くなる。両腕を繋いでいた関節が完全に切れてしまったらしい。感覚が無くなってしまった両の腕が、突然重力に従って下がる。その所為で思いがけない方向から力が加わり、ジャックの身体が傾いた。


「(……クソッタレ、》」


ジャックは足を着いて体重をかけ、崩れたバランスを取り戻そうとする。



 だが、着いた両足に上手く体重が乗らなかった。



 ——実はジャックの両足には、骨が入っていない。



 案山子なんて、ただの害獣を追い払うためだけの道具であって、そもそも、地面に立って歩く事が想定されていない。上半身をそれなりに作った後は、下半身などは適当に二股に分けて、ただぶら下がっているだけのものだ。


 だから、ジャックの足の骨は、本物では無い。ただ、それなりに丈夫な程良い太さの枝を、骨のように組んだだけの代物だった。



 故に、



「——っぐ?!」



上手く踏みとどまることができなかった。中途半端に体重が乗った足のがずれ、バランスを崩す。そして、その足元をナナセは払った。

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