第33話

 受け身を取ろうと身体を捻ったものの、上手く身体が動かずにジャックは俯せに床へ倒れ込む。そして、その背をナナセは踏み、ジャックを思い切り床に叩き付けた。


「っ、」


顔面を強かに打ち付け、顔の皮のまだ無事だった部分が裂ける。皮が顔から剥がれ落ち、効力を失ったゼリー状の青い薬品が、皮膚の隙間から垂れた。


「派手に転んじまったなァ……足元がお留守だったのか?」


ジャックを踏みつけるナナセは、とても愉快そうに言う。実に、何処かで聞いたことのある言葉だった。


「俺は、テメェに殺されたお陰で、色々気が付いたんだよ」


ナナセはジャックを踏んだまま、言葉を続ける。


「『優しさ』や『清さ』だけじゃあ、どうしようもできねぇ悪が有るって事にな」


「それは結構な事だね」


と、尚も余裕そうな態度を崩さないジャックを強く踏む。


「殺される前の講座も、大変勉強になったぜ」


ナナセは見下ろす。


「……そういえば、さっき俺に『仲間達はどうしたのか』って聞いたな」



 まさか、


「ここに居るんだよ」


ナナセが足を退かしたその瞬間


「——どりゃっ!」

「っが、ぁっ!」


 かなりの質量を持った鬼が、上からのし掛かる。押さえ付けられる重さで、肋骨が折れる音がした。


「『仲間を連れて来い』って言ったから、連れてきてやったぜ?」


 重しによって動けなくなったジャックを見下ろし、ナナセは嗤う。肋骨が折れ、上手く息が吸えずに呼吸が短く、浅くなる。


「どうした?感動で声も出ねぇのか」


ナナセはジャックの横っ腹を蹴る。


「ぐ、」


 上手く身体が動かなくなり始めた。現に、重しが居なくなっても、既にジャックは起き上がれなくなっていた。


「なァ、テメェが下に見ていた奴らに殺されていく気分はどうだ?」


ナナセはもう、到底勇者とは思えないような憎悪に満ちた表情でジャックを見下す。


「テメェは俺みたいに生き返らせてくれる回復の使える仲間が居ないんだろ?」


——だから、お前はここで確実に死ぬ。


そう、ナナセは炎を纏わせた大剣をジャックの背に突き刺した。



 直接、肺に熱い空気が流れ込む。


「(——あれだ。神とやらがオレを殺しにかかっているんだろう》」


 もうどう足掻いても不利だとしか言いようのない状態で、何故だかジャックは冷静でいた。


「(……それなら…死んで、たまるか》」


 初めてそう思えた気がする。この状況をどうやって生き延びるかは知らないが。


 ジャックは燃える剣を振り下ろす勇者を睨み上げ

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