クソッタレな神

第34話

 身体の全ての感覚がなくなっていた。


 温度を感じられる事がなければ、目も見えないし音も聞こえない。五感全てが機能していなかった。



「(——ああ、死んだ)」


 やっぱり、とは思っていた。どう足掻いても生き残れないあの状況で、どうやって生き延びると言うのだ。


 朧げに、


「(このネタはオレが死ぬなんて割と視聴率取れそう面白そうだっただろうに》」


そう思った。そういえば、彼女はきちんと家まで帰れたのだろうか。今となっては確認のしようもないのだが。


「……(……死んでるんこれじゃあ、天使ちゃんに提供できないよねぇ》」


自惚れかもしれないが、彼女ならきっと、面白がって取り上げてくれた筈だ。……有る事ない事をついでで色々と着色されそうだけれど。



「結構、長く生きたねー」



 突然、聞こえない筈の声が聞こえた。


 それは、もうなんだか気怠げで、適当そうな声だった。性別も、年齢の度合いもよく判らない。女のようでもあるし、少年のようでもある声だ。


 声の主なんざ誰だって良いが、この際だから色々と文句でも言ってやろう。



 ……もう、生きるの飽きたし疲れたんだけど。



 それは、心の底から漏れた言葉だった。


 げんなりとした態度でも、声には何も影響を与えられない。初めと同じトーンで、言葉は続けられる。



「ふーん。じゃあ、もう一回生きて転生してみようか」



 何が面白いのか、楽しそうに声は告げた。



 ただ、「声の主ならばそう言うだろう」とは、なんとなくは思っていた。



×



 長い時間をかけ、身体が再構築される。もしかすると、実はそんなに時間が掛かっているわけではないかもしれないが。


 骨に肉が纏わり付き、その中を血管が這っていく。長らく感じられなかった痛覚を、再び得たようだ。次は、肉のある身体になるらしかった。



「『魔法さえ効かなければ』とか、死ぬときに強く思ってたみたいだから、気まぐれでその思いに沿った魔法をあげるよ」



 少しは面白いのを見せてくれたから特別サービスだよ、と言う声が聞こえた。そんな事を言われても、別に此方の方は声の主を楽しませる為に生きていた訳ではない。



「あと、『死にたい』って言ってたから、『死ににくい身体』にしてあげたよ」



 そう声は最後に告げた。急に意識が遠のいていく。それでも、まだ薄らと残る思考を働かせて悪態を吐いた。




 ——やっぱり、マホドーラの神エルシャ神は、とんでもなく、クソッタレだった。


 と。

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