とある日常2

第35話

「………」


 トイフェルは目を覚ました。


 きっと元は白かったであろう、ひび割れて黄ばんだ天井が目に入る。


「……ここは、」


「あらぁ、目を覚まされました?」


トイフェルの小さな呟きに、朗らかな声が返された。


 身体が全く動かせなかった為に、目だけでその方向を見た。


「ここは病院ですよ、一応」


 羽毛のように柔らかそうな輝く白金プラチナの髪を持つ、ナース服の女がそこに居た。


「偶然私が見かけたから良かったものの。あなた、そのままでしたら死んでましたよ?」


 刺さった点滴の様子を確認する看護婦と思われる女が、裏路地の汚い地面に血塗れで転がってたんです、と微笑む。


「オレ……僕、は」


「記憶が混濁してるんですか? まあ、あの出血量なら仕方ないと思いますけど」


と、看護婦は周辺の棚を弄り、カルテを取り出した。


「コレ、見覚えあります?」


 カルテと共に棚から持って来た、かなり古びている銃をトイフェルに差し出す。


「……それ、は」


 ジャック・スケアクロウ以前の自分が使っていた銃だった。重い腕をどうにか持ち上げ、銃を受け取る。


「強く握って離さないんですもの。その腕を切ってしまおうかと思いましたよ」


しばらくして手が緩んだのでそんな事しないで済みましたけど、と微笑みながら看護婦は物騒な事を言う。


「あなたの持ち物なら良いんですよ」


カルテにトイフェルの様子を書き込みつつ、看護婦は答える。


「……」


トイフェルは銃を見る。握った感触は手に馴染んでいるが、些か小さいような気がした。自分が握り易いよう、持ち手を作り直さなければいけないようだ。持ち手が古いので、丁度良いだろう。


と、


「痛っ、」


カルテで思い切り頭を小突かれた。やけに、痛みが酷く身体に響いた。


「私の話、聞いてくれませんか、ね?」


 カルテを持つ看護婦は、可愛らしいとしか言いようがないような角度で、首を傾げる。にっこり、と微笑むその笑顔は、天使のような雰囲気を持っていたものの、なんだかやけに威圧感があった。


「……はい」


凄味のあるその笑顔に、それ以外の返答があるだろうか。


「私が、治したんですからね」


『私が』と少し強調して告げる。お礼を言って欲しい、と言う事だろうか。


「……アリガトウ、ゴザイマス」


しかし、その返事は些か不服だったらしい。少し顔が不機嫌そうだった。


「あなたの身体、魔法が効きにくくて物凄く大変だったんですからね?」


「私が」と言われても困る。

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