祭りの後

第30話

「……——、」


 ジャックは少し呆然として、手を見下ろした。


「…………」


 自分が、誰かの事を『本心から』心配するなんて。


 そんな、まさか。


「(……いや、》」


 ジャックは軽く頭を降り、変に飛んだ思考を振り払う。ただ、よく見知った相手が予想外の姿になって動揺しただけだ。——そうに違いない。



×



 廃墟に着いた。


 予想外な事ばかり起こるような日は、いつも通りなら「面白い」と楽しんでいた筈だ。


「……(どれもこれも、あのナナセとかいう男自称勇者の所為だ》」


 ジャックは溜息を吐く。悪趣味な飾りナナセの処理は明日にしよう。本当に疲れた、とドアを開ける。



 しかし。


「……」


 ナナセが、居ない。幾ら廃墟内が暗くとも、月明かりの差し込むこの部屋の中で、見失うはずが無い。


「……どういうことだ」


ジャックが呟いたその瞬間、


「こう言う事だよ」


と、上から声が


「……そっか」


したので、自身の身体を無理やり折り曲げ、その一撃目を回避した。


「……なっ!?」


を持ったナナセが闇の中から飛び出し、ジャックの首が有った箇所をその切っ先が通りすぎる。


「だから、言ったじゃないか」


ジャックは奇妙な姿勢を維持したまま、笑いを含ませた声で言う。


「『痛覚が鈍いから無理な動きが出来る』って」


ジャックは体勢を立て直し、ナナセの方を見た。殺した筈のナナセが生きている。呼吸も、脈も生命活動の様子が止まった事も、きちんと確認したのに。


「……『なんで、生きてるんだ』って思っているか?」


ナナセはジャックに問う。


「…………そうだねぇ。君、並大抵の生命力じゃ無いよね。どこかの虫みたいだ」


「——が、蘇らせてくれたんだ……!」


揶揄うジャックに、ナナセは怒りに満ちた様子で云う。名前を聞き損ねてしまったが、まあ自分には関係ないだろう。


「……『蘇らせた』ってことは、やっぱり君は一旦死んだんだね?」


「お前が、俺を殺さなければ、あの子も死ななかったんだ」


昏い目のナナセは、恨みの篭った眼差しでジャックを睨み、ナイフを構える。


「あの子が、彼女自身の命と引き換えに、俺を生き返らせてくれたんだ!」


「……『あの子』って……もしかして、この間満身創痍の君に飛びついた後、オレが折角丹精込めて付けた君の傷を治しちゃった子?」


エルフ耳をした修道女のような姿の女だった筈。


「テメェは、なんでそう腹立つような言い方するんだ?」

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