第28話

「……アンジェラ?」


 ジャックはそれに声を掛ける。


「良かった。見間違いじゃなかったのね」


 随分と素敵な見た目になってるから自信なかったのよ、と、声は笑う。その言葉に、自分の姿がどうなっているのかふと思い出し、ジャックは首のない身体から顔を背ける。


 身体は目の前にあるが、何故だか声は他の方向から聞こえる。声の方向に近付いてみると、


「ねぇ、カカシ君。何か接着剤やテープとか持っていないかしら」


 傷口から溢れる腐った血液のような赤い体液塗れになって、アンジェラの頭だけがそこに転がっていた。


「……癒着剤なら持ってるんだけど」


 それは自身泥と藁タンパク質と繋ぐ為の薬品だ。アンジェラの身体プラスチック同士にも使えるのかは判らなかった。


「そう。それでも良いわ。とにかく貸して」


 ジャックは転がる頭を拾い上げ、じっくり観察する。首の傷口は切り口が綺麗に切れており、長かった黒髪も、首と同じところでばっさりと切りそろえられていた。


「何見てるのよ。体液が身体から出て行く感覚が気持ち悪いんだから、早く」


 動かないジャックに焦れ、アンジェラは催促する。アンジェラの首を胴体から切り離したそれは、ジャックの持ってきた道具鈍の大剣達では作れない、綺麗な刀傷だったので、どうやら先程の騒動に巻き込まれた訳ではなさそうだった。


「……この怪我、一体どうしたの」


 身体の側まで持ってくると、首のない身体がジャックの持つ首を受け取ろうと腕を伸ばす。しかし、片方の腕は上手く動かないようで、中途半端な高さで止まっていた。


「『勇者御一行様』から粛清されちゃったのよ。『犯罪行為の助長をする番組の関係者だから』って」


「……そう」


 まあ彼女は報道の為に自ら色々やらかしているので、いつか粛正されるそうなるだろうと思っていた。


「ちゃんと返してよ?」


 ジャックはアンジェラの腕を無視して、首の無い胴体の上に頭を据える。そして、きちんと上がっている手に蓋を外した癒着剤の入れ物を持たせた。


「……支えといてあげるから、自分で塗って」


怪訝な視線に答えると、アンジェラは一瞬目を見開いてから柔らかく微笑み


「貴方にしては気が利くじゃない」


 と、癒着剤を少し手に取って傷口に塗り始める。未だに傷口から溢れ出ていた赤い体液は、頭と首を癒着剤で繋げることで、ようやく止まった。


 傷口の周辺の肌色が赤い体液と青い薬品で痣のような色に染まる。

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