第37話
トイフェルは頭を抱えた。——実際には、身体が動かせないので、『気持ちだけ』だったが。
「……今更、過ぎる」
大きく溜息を吐いた。きっと気が付けるようなタイミングは今までにもあったはずだった。
自身の中で好感度が高いのは分かっていたが、それは滅多な事では不利益を起こさない相手だったからだと思っていた。
「…………あー」
よく分からない感情と共に、声が漏れた。本当に、色々と消えたい。
「……そういえば、」
『好感度』で思い出した。
一応、もう1人比較的好感度が高かった相手の事を。
「……」
トイフェルは、思考を閉ざすようにゆっくりと目を閉じる。
×
「さて、居候さん。そろそろ出て行ってもらわなきゃいけないので、出て行ってくれませんか?」
次の日、にっこり、と柔らかい笑顔で看護婦は告げた。昨日の夕方頃から、ようやく身体が動くようになったばかりだというのに。
「『ここにあと1、2日居てくれ』って言ったのは君だろ」
少し睨むように看護婦を見ると、「事情が変わったんです」とつんと顔を逸らした。
「私を邪険にする患者は要らないので、早々に出ていただこうかと」
「私怨かよ」
しかも、『邪険にした』というのは、少し考え事をして話を聞いていなかった、ただそれだけの事の筈だ。
もう動けるんでしょう? と看護婦に問われ、トイフェルは頷く。身体が動かせると分かってからは、消灯時間が過ぎても1人でリハビリのようなものを行っていた。そのおかげである程度は動けるようになっていたが、その事を知っていたようだ。
「あと、長く居れば入院費もバカにならなくなりますから、払えそうな最大額の辺りで放流するんです」
私ってば優しいでしょ? と胸を張るが、言い方に問題があり過ぎる。放流とは。
「分かった。今日中に出ていけばいいんだな」
そう聞けば、看護婦は意外そうな顔を一瞬した後
「物わかりがいい人は嫌いじゃないですよ」
と天使のように微笑んだ。
×
ベッドから立ち上がり、歩行に問題がないか確認する。話によると1週間ほど寝ていたらしいので、確かに入院費にかかる費用が気になる頃合いだった。保険などには入っていなかった。
荷物をまとめ(殆ど無いに等しかったが)、処方された薬を持って部屋を出る。丁度、看病してくれた看護婦を見かけたので、お礼を込めて揶揄った。
「じゃあな。天使ちゃん」
「確かに、私は天使のように可愛いですよ。……でもそう呼ばれるのはなんだか不本意です」
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