真実

第38話

 記憶を頼りに街を歩けば、思ったより街並みに変化が無い事に気がつく。そういえば、死んでから一体どのくらいの年月が経ったのだろうか。まあどうでもいいか。


「んー……」


 拠点にしていた廃墟のある土地に着いた。


「……見事に、全焼したんだな」


 煤けて欠けた、古い基礎の地面しか残っていない。というか、焼けて外壁等が無くなった所以外、なんら変わっていなかった。土地の境界線を担う庭の柵は古くなっただけで形は変わっていないし、勝手に生える雑草の量も増えているだけで全く手入れされていない。こんな広い土地なのに、誰も使ってないらしい。


と、


「……」


誰かの気配を感じ取り、トイフェルは周囲を警戒する。


「……お久しぶりです、ジャック様」


 周辺の影のように真っ黒な鴉達が集まり、人の形を成した。


「裏切り者なのに、よく出てこられたね」


わざと以前の口調に変えて、気配に言葉をかけた。


「記憶が戻ったようで、安心しました」


「……やっぱり、君だったか」


 心底安心したように息を吐くその姿に、疑いは確信へと変わった。以前からずっとトイフェルに付き纏っていた鴉はやはり、レイヴンだったようだ。


「……勇者が殺されると思っていました。まさか、貴方が死んでしまうとは思ってもみなかったのです」


大変申し訳ございません、とレイヴンはトイフェルに頭を下げた。


「……なんとなくだけど、知ってたよ」


トイフェルは頭を上げてくれるかな、と溜息を吐く。


「鬱陶しかったけど、害意は無いし危ない事から遠ざけようとしていたみたいだし。むしろ過保護でそっちの方が邪魔だった」


そう答えれば、レイヴンは少し気不味そうに目を逸らした。


記憶が戻るまで今まで近くで守ってくれていたみたいだけど、もうその必要はないよ」


 もう大丈夫だから、と答え、トイフェルは自分の名前の意味を改めて思い返す。Toufel verbrannt焼け死んだ悪魔だなんて、芸が無さ過ぎる。


「別に、もう君のことは恨んじゃいない。僕は、もうジャック・スケアクロウクソッタレな案山子じゃないから、君は君の好きなように生きれば良い」


 これから僕は前回の反省を生かして、楽しく生きていこうと思っているんだ、とレイヴンの方を見る。


「——ところで、君に聞きたいことがあるんだけど」


トイフェルは、にっこりと微笑んで情報屋に問う。



「自称『勇者』の居場所を、教えてくれるかな?」



 その笑みは、以前よりも悪魔のようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Vogelscheuche 4^2/月乃宮 夜見 @4-2-16

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ