第22話

「……君がヒーロー主人公だとするならば……」


 ジャックはあまりナナセと関わりたくはなかったが、敢えて逆上しそうな言葉を選んで語りかける。ジャック自身よりも商品達に目を向けられたならきっと、ナナセは商品達をひっくり返してしまう。そうすれば、商談は成立しなくなるし、ジャックの重労働も徒労に終わってしまう。それだけは勘弁してほしかった。


「もしかして、彼女がヒロインハッピーエンドの相手だったのかな?……とんだTroiaクソ女だったけど」


 ジャックは小馬鹿にして鼻で笑い、暴言を吐き捨てる。ナナセは顔を真っ赤にさせ、ジャックの挑発に乗った。


「彼女を侮辱する奴は、俺が赦さない……!」


「……はーぁ、人の家に無断で上がり込む奴のどこが良いんだろうね」


「……『人の家』?」


ジャックの溜息にナナセは片眉を上げる。


「この廃墟のコト。ここはオレの家なんだよ」


 ジャックは自身の背後にあるオンボロ廃墟住処を親指で指し、端的に返答する。


「どういう事だ?」


「『ジャック・スケアクロウオレはマフィアだから、拠点を持っている』ーーって言っても、来たばかりの君には分からないか」


ジャックの説明に、ナナセは眉間の皺を深くするばかりだ。


「とにかく、此処はオレの家なんだ。……証明書もあるよ、一応」


証明書は土地の権利書のようなもので、おいそれと外に出せないが。


「あの女、勝手にオレの家を使って売色や薬の売買やってたんだけど、そんなことも知らない?」


怪訝な顔のナナセに、首を傾げジャックは問う。


「そんな訳、無い!……彼女は」


「じゃあ何でオレの家に居たの」


反発するナナセに、ジャックは冷静に言葉を突く。


「純粋、で……!」


「君はマホドーラこの世界で何を見てきたのかな」


純粋な奴なんて、すぐ食い物にされるか死んでしまうのに。或いはどうしようもないくらいに、穢されてしまう。


「……か弱くて」


「何を根拠に?」


弱くなる言葉尻を、ジャックは冷笑した。


「…………俺に、『怖いから迎えに来てくれ』って」


「へーえ。それが、此処に来た理由か」


可哀想な程必死に否定するナナセに、ジャックは提案する。


「そんなに信じられないんなら、勝負してみる?『勝った方が正しい』それが一番手っ取り早い方法だ」


「何……?」


酷く窶れたナナセを、笑う。


「良いよ。オレの家においで。たっぷりもてなしてなぶり殺してあげるから」

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