第15話

 身体を全体的にメンテナンスした作り直した後、ジャックは身体を乾かすついでで自身の肉体を見下ろす。よく考えてみると、今まで本当の姿藁の身体をじっくり見ていなかった事に思い至る。


「まあ、今までが忙しかったってのもあるけどね」


 本当は、自身が醜い案山子クソッタレな姿である現実を見たくなかったのかもしれない、と少し詩的センチメンタルな事を考えてみて、一笑に付した。


「オレがゴミだって事ぐらい、紛れも無くどうしようもない事実だよねぇ」


ジャックは笑ってみるが、鏡に映ったその案山子自分の顔には、一切の表情の変化は起こっていなかった。


 それもその筈だ。案山子の顔には表情筋などありはしないし、そもそもジャック自身、心の底から笑っている訳では無かったのだから。



×



「……なるほど。ここは……こう動くんだ」


 巫山戯るのを止めて、真面目にじっくりと観察したお陰で、今更ながら自身の身体を理解できたような気がする。骨と泥、藁で出来た自身の身体は、ジャックが動作確認をしている間に程よく乾いた。


 姿見の前に立ち、最後にもう一度身体の様子を見る。


「……問題は、なさそうだ」


 次にメンテナンスを行う時は、更に丈夫にする為に麻の布でも混ぜてみようかな、と考えながら、ジャックは大切に仕舞っていた人間の皮を取り出す。


 ゆっくりと丁寧に、皮が裂けないように、伸びないように身体に皮を被せていく。皮を被せる前に、接着剤の役割を果たす特殊な薬品を塗るのも忘れないようにしなければ。



×



 すっかりと綺麗に皮を被ったジャックは、


『結び付け』


と、脱いだ時のように裂け目が始まる腰の上背中に手を当て、特別な言葉を吐いた。


 その途端に皮の裂け目が綺麗に繋がり、皮の表面に若々しい張りが戻る。接着剤の役割を果たすゼリー状の薬品は、本体と皮を繋ぎ止める他に、身体の形を綺麗に整えて本体と皮膚の感覚を繋げる役割を果たしているらしい。


 再び鏡でいつもの姿を確認する。服を纏っていない仄暗い鈍色の瞳の青年が、割れた鏡の向こうで薄く笑っている。


「……そういえば、オレの身体の中心に、黒い結晶があるんだよね」


 発音練習のついでに、思っていた事を口に出した。


「肋骨の下に。どんなに身体が入れ替わってもこれだけはずっと同じだから、きっと、これが本当の『オレ』なんだろうね」


 それを何処の誰かが聞いていたが、ジャックは気にしないでいた。

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