第2話

 見せ物屋の声が届かないほどの奥に進むと、闇市に出る。


 闇市はほぼ治安が良いとはとても言えない状態のマホドーラの中でも、に治安が悪い。そもそも売り物の大半が盗品や内臓、薬だったりする。或いは、特殊な武器。


 トイフェルは闇市の雑踏を歩く。トイフェルはそこそこに背の高い部類に含まれる為、普通の雑踏の中ではほんの少し目立ってしまう。しかし、闇市では周囲の奴らはそこそこに背の高いので、あまり悪目立ちをしない。そうでなくとも、闇市の雰囲気が、トイフェルにはとても居心地の良いものであった。



×



「……」


 導かれるように入店した武器屋は、特殊な武器を扱っていた。盗品や、死体漁りで得られたものもいくつかあるだろう。


 その中で、トイフェルは一つの武器に目が奪われてしまった。


 ——それは、古めかしい、ただの銃。


 店主の話によると、川を漁っていたら見つけたものらしい。何故だか、火薬を詰めても弾を込めても一切発砲出来ないなまくら銃らしいが、デザインが良い為に置物として売ってあるらしい。


「……(ただの鈍……そんなわけ、無い、だろ)」


 こういうものは、特定の魔力、魔法で発動するものだ。


「……」


 その銃は、とても手に馴染んだ。


 とても、懐かしい感じがした。


 ——何故だか、とても、古い銃それが欲しかった。


 店の内部に居るのは、自身を含めて4人ほどだった。店員は店主以外には居らず、店主は流れるTVショーに、他の客達は素晴らしい武器達に夢中のようだ。トイフェルは古銃をさっと手に取り、


『っ、野郎!』


店を出る前に、パン、と軽く発砲されたそれを運良く避け、そのまま店を飛び出した。追手は現れなかったが、用心しておくに越した事はないので、早々に闇市を去る事にした。



×



 店が見えなくなる角を曲がった途端、トイフェルは反射的に壁に張り付いた。それと同時に、目の前を銃弾が掠めていった。


「……何だ?」


マフィア達の抗争が始まっていたらしい。


 巻き込まれたくない人達が逃げようと騒ぎ出し、人混みが大いにごった返す。


 人混みを掻き分けるのが面倒だな、と考えていると、


『泥棒だ! 蜥蜴みてえな男だ!』


と、店主らしき声が聞こえた。このままここに留まっていれば、確実に捕まってしまい面倒な目に遭う。ここは、マフィアの抗争この状態を上手く利用して逃げる以外に道は無い。トイフェルは迷わず飛び込んだ。

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