第11話:顔合わせと目標

 代表者が発表されてから数日後、ダンの計らいによりAチームは親睦を深めるためにと授業を免除されて別室に集められていた。

 ウィードからすると余計なことをと嫌々だったが、ルキオスやロキは三年生相手に本気で下剋上を狙っているようでやる気満々である。

 しかし、代表に決まってからもラスタやゲイルとは顔を合わせていなかったのも事実であり、ウィードは彼らがどのような反応を示すのか少しだけ気になっていた。

 割り当てられた部屋のドアを開けると、そこにはすでに二人が待ち構えていた。


「お疲れ様です、ウィード殿、ルキオス殿、ロキ殿」

「爵位の高い俺たちを待たせるとは、いい度胸だな」

「知らねぇーな。こっちにだって用事があるんだから、いきなり呼び出されてもすぐに行けるわけがないっての」

「お、おい、ウィード。いきなり喧嘩腰かよ」

「だが、お前の言いたいこともわかる。爵位が高いからと誰もが従うと思わないことだ」


 一触即発の空気が一瞬にして部屋の中に広がっていく。ルキオスもまさかロキまで同調するとは思っておらず、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。


「まあまあ、三人とも。私たちは今日からチームなのですから、穏便にいきましょう。それに、ここでいがみ合っていても時間の無駄なのですから。ねえ、ルキオス殿?」

「えっ? お、おう、そうだな! んだよ、ウィードもロキもよう! さあ、空いている席に座って話をしようぜ! ほらほらー!」


 重たい空気など関係ないのか、ゲイルは爽やかな笑みを浮かべながら涼しい声音でそう口にすると、ルキオスのそれに乗っかって二人をやや強引に席へ座らせる。

 まだ何か言いたそうにしていたラスタだったが、ゲイルが口にしたことも事実であり、言葉を飲み込んで小さく息を吐くに止めた。


「自己紹介は不要ということで、よろしいですか?」


 この場をゲイルが仕切るようだが、それに関しては誰からも文句は出ない。そして、彼の言葉に全員が頷いた。


「ありがとうございます。では、簡単に学年対抗戦について説明していきましょう。皆さん知っているとは思いますが、念のためです」


 せっかく集まったのだからと言わんばかりに、ゲイルはにこやかな表情のまま話を進めていく。

 学年対抗戦は一対一で試合を行う勝ち抜き戦になっている。

 先鋒、次鋒、中堅、副将、大将が配置されるのだが、例年では成績順に低い方から先発に起用されることが多い。

 しかし、それは勝ち目がない二年生や三年生のBチームの話であり、毎年のように勝利を収める三年生のAチームは別だった。


「三年生のAチームは、先鋒に最も優秀な生徒を配置することが多いです。その理由はわかりますか?」

「確か、一回戦で試合に出た生徒は決勝では後ろに配置しないといけないんだよな?」


 この場で中立の立ち位置にいるルキオスがゲイルの問いに答える。それ以外はただ小さく頷くだけだ。


「その通りです。これは疲れを考慮してと言われていますが、学園側からの要望で、なるべく全生徒が試合をできるようにという処置ですね」


 過去、三年生に圧倒的実力を持つ生徒がいた時代、その生徒が一回戦と決勝の両方で先鋒を務めたことがあり、その時に全勝してしまい三年生Aチームは他の生徒の活躍の場を奪われてしまった。

 そんなことがあり、翌年以降に今のようなルールが適用されたのだ。


「それと、決勝に上がってきた対戦相手が優秀だった場合、最終試合を盛り上げるためでもあります」

「その優秀な生徒からすると、一回戦で力を見せられてるから決勝で出番がなくてもそれで良し、出番があればさらに実力を見せつけられるってわけか」

「その通りです。まあ、学園側としても優秀な人材を輩出したいという意図がありますから仕方ありませんね」


 やや呆れたように呟いたルキオスに対して、ゲイルは苦笑いを浮かべながら自らの見解を口にした。


「……それで? 俺たちはどうするんだ?」


 ここで口を開いたのはずっと黙ったまま話を聞いていたロキだった。


「どうする、とは?」

「俺はこのチームなら下剋上が成せると思っている。なら、一回戦の先鋒に誰を置くかが重要になるんじゃないのか?」

「下剋上ですか。……それは、私もそう思っています。他の皆さんはどうですか?」

「俺もそう思ってるぜ! Bチームに行ったゼルがいたら無理だったろうけど、ウィードがいたら可能性はあるだろう!」


 ロキ、ゲイルに続いてルキオスが自信満々にそう答える。

 そして、三人の視線がウィードとラスタへ向いた。


「……俺もそう思う。このメンバーなら、過去最強と言われている三年生のAチームにも勝てるだろうな」

「えっ、マジで? 俺ってそんなに重要なのか? 無理だと思うけど?」


 唯一、ウィードだけが無理だろうと口にした。


「まあ、多数決ということで、我々は三年生に対して下剋上を挑むことにいたしましょう」

「だったら三人の答えが出た時点で決定だったよな! 俺の意見は意味なくないか!」

「形式的には必要かなと」

「ゲイル、てめぇなあっ!」


 実際に誰がどこに配置されるのかは学年対抗戦が近づいてからということになり、今日は解散となった。


「……絶対に無理だろう」


 これ以上は目立ちたくないと思いながらも、ウィードは今まで通りに学園生活を送っていくのだった。

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