第5話:ルキオス・シュリスタ
盛大に肩を落としながら割り当てられた教室へ向かったウィード。
すると、後ろの席から声を掛けられた。
「あんた、さっきラスタに声を掛けられていた奴だろう?」
どんよりとした目で振り返ると、そこには短髪を逆立てた快活な笑みを浮かべる青年がいた。
「おいおい、どうしたんだよ? あいつに何か嫌なことでも言われたのか?」
「……言われていないが、嫌な事実を知らされて愕然としている最中だ」
「なんだそりゃ? ……まあ、いいか。俺はルキオス・シュリスタ、男爵家の次男だ。あんたは?」
「……ウィード・ハルフォード。男爵家の三男」
「おっ! 同じ男爵家の出かよ! これから三年間、よろしくな!」
急に声を掛けてきた何者だろうかと、残された僅かな思考で考えていると、聞き覚えのある名前にハッとした。
「……あんた、あれか? 今年のトップ4の一人か? 確か
自らの肉体に魔力を循環させて強化や硬化を行い、体一つで戦場を駆け抜けるのことを得意としているのが、魔導闘技である。
ルキオスは新入生の中では数少ない魔導闘技の使い手でありながら、その実力はトップ4に名を連ねるほどに強く、将来有望な人材の一人だった。
「あー……まあ、そうなんだが……あれ、あんまり好きじゃねぇんだよなぁ」
「そうなのか? 騎士を目指すなら目立つ方がいいだろうに」
ルキオスは頭をガシガシと掻きながら、あからさまに嫌そうな顔を浮かべる。
予想外の答えに興味を持ったウィードは、体ごと後ろに向いて正面で話をすることにした。
「それはそうなんだが、俺は真正面から相手を倒すことこそが騎士道精神だと思っているんだ。だから、俺だけ有利な立場で入学ってのも変だなって思ってよ」
「ふーん、そんなものなのか? 俺は騎士になりさえすればいいと思っているからなぁ。それに、騎士になってからもできれば楽に働きたいな」
「……そうなのか?」
「そりゃそうだろう。わざわざ忙しくしたいなんて思わないって。……なんだ、意外なのか?」
ルキオスの反応が気になり聞いてみたが、それはどうやらラスタが関係していたようだ。
「いやなぁ、ラスタが声を掛けた奴だから、てっきりガッチガチに固まった思考の騎士道精神を持っていると思っていたんだよ。だから、意外で驚いた」
「あいつ、そんなにガッチガチな騎士道精神を持っているのか?」
「そりゃもう。相手にもそれを強要するってんで、優秀ではあるけどなかなか仲間が見つからないらしいぞ?」
「……あー、なるほどねー。だからわざわざ俺に声を掛けてきたのか」
手を抜いていたことを見抜かれ、それを咎めるために声を掛けたのだと考えれば合点がいく。
自分の騎士道精神に泥を塗られたと考えたからこそ、本気で戦わなかった俺を咎めようとしたってことか。
「……面倒だなぁ」
「おっ! 気が合うじゃないか!」
「なんだ、ルキオスもか? 真正面から相手を倒すって騎士道精神も、ある意味ではラスタ寄りの考え方だと思うんだが?」
「俺の場合はできればそうしたいってだけだ。絶対にそうしたいわけじゃないし、それでこっちが殺されたら元も子もないからな」
ルキオスの考え方に好感を持ったウィードは、これからはできるだけ彼と行動を共にした方がいいだろうと考えた。
「いいねぇ。俺も気が合うと思ったよ」
「だろう? んなわけで、これから三年間、何かあったら一緒に行動しようぜ!」
「授業でもバディを組んだりすることもあるからな。よろしく頼むよ」
トップ4と一緒にいれば目立つかもしれない。しかし、それ以上に学園生活を送る上での仲間がいるということの方が、大きなメリットになるだろう。
「……ところでだ、ルキオス。とても重要なことを聞くが、いいか?」
「なんだ? 急に真剣な顔になって?」
「……アルカンダ騎士学園は、本当に女子禁制なのか?」
「当然だろう」
「マジか〜。はぁ〜、落ち込むわぁ〜」
机に突っ伏してしまったウィードだったが、そこへさらなる追い討ちが襲いかかる。
「ちなみに、先生たちの中にも女性はいないからな?」
「はあ⁉︎ マジか? それはマジなのか⁉︎」
「マジだよ、マジ」
「…………終わった。俺の学園生活は、入学早々に終わりを迎えたよ」
ウィードはこれから何を楽しみに学園生活を送るべきか、それを延々と考え続けることになるのだった。
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