第14話:Aチーム同士の戦い

 少しの休憩を挟み、ついに決勝戦となった。

 大修練場の観客席には立ち見の客も入っており、満員御礼となっている。

 席を獲得できなかった客は大修練場の外で聞き耳を立てており、観客の盛り上がりからどうなっているのかを想像しようとする者も出てきていた。


「先鋒はルキオスだったな」

「おうよ! ウィードが5連勝で暇だったからな、やる気満々だぜ!」


 両拳を打ち合わせてニヤリと笑ったルキオスの肩を軽く叩いたウィード。

 審判から名前を読み上げられると、右手を軽く上げて舞台へ向かう。


「……とはいえ、今回の相手はルキオスと相性が悪そうだな」

「ですね。順番の変更が可能であればロキ殿に行ってもらったのですが、どうでしょうか」

「えっ? そうなのか?」


 ロキとゲイルのやり取りを耳にしたウィードが驚きの声を漏らす。


「お前は相手のことをもっと知っておくべきだな、ウィード」

「んなこと言ってもよー。どうせお前たちが倒してくれるんだから、俺には関係なくないか?」

「……い、いきなり変なことを言うんじゃない!」

「ん? 俺、何か変なことを言ったか?」


 ウィードからすると普段通りの発言だったが、ラスタは彼からの信頼による発言だと勘違いしてしまった。

 先鋒程度なら自分たちで問題はないだろうと思ってくれているのだと。


「……な、なんでもない! ルキオスを応援するぞ!」

「……? お、おう、そうだな」


 誤魔化そうと声を荒げるラスタを見て、ウィードは首を傾げながら応援に力を入れる。

 ロキとゲイルは笑みを浮かべながら応援を始めた。


 ――しかし、ロキたちの予想は的中してしまい、善戦はしたもののルキオスは敗退してしまった。

 相手もルキオスと同じ魔導闘技の使い手なのだが、その戦法は相手の魔力を霧散させて単純な肉体で戦うというものだ。

 これが同じ魔導闘技の使い手には無類の強さを誇っている。

 単純な肉体でのぶつかり合いであれば体躯の大きさや筋肉量が戦績に大きな影響を及ぼすだろうが、それら全てでルキオスは相手に劣っていた。


「……すまん」

「いや、完全に相性が悪かったからな、仕方がない」

「その通りです。それに、ルキオス殿の敵はロキ殿が取ってくれますよ」


 大きく肩を落として控え室に戻ってきたルキオスと、ラスタとゲイルが迎え入れた。

 そして、名前が出てきたロキはすでに臨戦態勢に入っており、名前を呼ばれるのを今か今かと待っている。

 魔導闘技の使い手は基本的に魔力で肉体を強化して肉弾戦を行うが、ロキは二振りの剣を巧みに操り高機動で相手を圧倒するスタイルを得意としている。

 この高機動を魔力を使用して再現しているであれば相手に分があったかもしれないが、ロキの場合は自らの技術を駆使して実現させていた。


「……行ってくる」

「頼んだ、ロキ」

「ルキオスは安心して見ていろ」


 ニヤリと笑い舞台に上がっていったロキ。

 そのまま試合が開始になると、相手はルキオスの時と同様に魔力を霧散させる魔導闘技を発動させて突っ込んでいく。

 ロキの双剣と相手の手甲が激しくぶつかると、相手はニヤリと笑い自らの勝利を確信した。


「何を笑っているのかはわからないが、俺の動きは変わらないぞ?」

「な、なんだと!?」


 ロキの高機動が魔力によるものだと勘違いしていた相手は動きの変わらない彼に驚愕し、見た目にも明らかに動きが鈍ってしまう。

 その隙を見逃すわけもなく、ロキは鋭く双剣を振り抜いて傷を与えていき、最終的には片膝を地面について降参の合図を出した。


「勝者――ロキ・フォンターナ!」

「「「「わああああああああぁぁぁぁ!」」」」


 二年生が三年生を圧倒したことで観客席からは歓声が巻き起こった。

 勢いそのままに、ロキは三年生Aチームの次鋒にも勝利を収めて2連勝を飾ったが中堅を相手に敗退し、試合を中堅のゲイルに託した。


「お任せください。必ずや勝利を手にしてラスタにつなげましょう」

「信じているぞ、ゲイル」


 ロキからバトンを受け取ったゲイルは言葉通りに相手の中堅に勝利を収め、次の副将を相手に激闘の末に敗退したものの、この試合で相手は相当な疲労を溜め込むことになった。


「副将までは倒しておきたかったんですが……申し訳ございません、ラスタ」

「構わんさ。あとは俺とウィードに任せておけ」

「……はい、そうさせていただきます」


 額に浮かんだ汗を拭いながら、ゲイルは小さく息を吐き出してベンチに腰掛けた。

 ラスタは横目でウィードを見ると、彼にしか聞こえない小さな声で告げる。


「……大将戦は、頼んだぞ」

「ん? どうしたんだ、ラスタ?」

「いいや、なんでもない。では、行ってくる」


 ラスタにしては弱気な発言だと思い問い返したウィードだったが、特に言及することもなく舞台へ歩いていく。

 副将戦は相手の疲労もあり、大方の予想通りにラスタが勝利を収めた。

 しかし、先に三年生Aチームの大将が出てくるという展開は多くの観客たちの予想を完全に覆している。

 一回戦では二年生Bチームを相手に5連勝を飾ってみせたシンだが、予想外の活躍を見せる二年生Aチームの副将と大将を相手にしてどのような活躍を見せるのか、それも多くの観客が期待するものになっていた。


「二年生の成績1位、ラスタ・レミティアだね」

「はい。シン先輩との一戦を心待ちにしていました」

「それは私も同じだ。だが……申し訳ないのだが、私は君以上に対戦を楽しみに思える相手を見つけてしまったんだよ」


 シンの言葉にラスタは片方のこめかみをピクリと動かす。

 しかし、その相手が誰であるのかは理解しており、その感情を覆させてやるという強い想いが彼の中に沸き上がってきた。


「そのお気持ちは理解しています。ですが……俺は、絶対に奴を超える。その前に、あなたに認めてもらえるよう、今ここで全力を出させていただきます!」

「いいだろう。胸を貸してあげるから、全力で挑んでくるといい」


 そう口にしたシンがニコリと微笑み直剣を構えると、ラスタも最大限に集中力を高めて構えを取った。

 しかし――ラスタの全力はシンに全力を出させるには力及ばず、敗退してしまった。


「……さあ、楽しみだな。ウィード・ハルフォードよ」


 舞台上では誰の耳にも届かない小さな声でシンが呟いたのだった。

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