第13話:観戦と視線
観客席はウィードの5連勝で大いに湧いていた。
しかし、中には彼の実力に気づいた者もいただろう。特に決勝戦の対戦相手になるだろう三年生Aチームのシン・オーセンの目には、間違いなくウィードが実力者だと写ったに違いない。
「……彼が今年の大将になるのか。面白いなぁ」
美しい白髪が太陽の光の反射させる中で、白髪の隙間から覗く鋭い視線はウィードの一挙手一投足を逃すまいと見つめ続けていた。
――試合が終わり、ウィードたちは選手用の観戦席に移動していた。
その途中、三年生Aチームの面々とすれ違ったのだが、本来であれば厳しい上下関係もあり壁際に立って頭を下げるのがルールなのだが、学年対抗戦の代表者に関しては例外となる。
お互いに左右に寄って道を譲り合い、すれ違いざまで軽く会釈を行い通り過ぎていく。
その際、ウィードは横目でシンをチラリと見たのだが――
(ん? 目が、合った?)
まさかシンもこちらを見ているとは思いもよらず、ウィードは慌てて視線を切る。
特に何かを言及されるわけでもなく、その場をそれだけで終わったものの、ウィードは決勝戦が壮絶なものになる予感をこの時に感じていた。
選手用の観戦席は他の観戦席よりも一段高い位置に配置されており、舞台全体を見渡せるようになっている。
前に人がいるわけでもなく、周囲のことを気にすることなく観戦と対策を立てることが可能だ。
椅子に腰掛けてからしばらくして、両方の先鋒が舞台に上がってきた。
「あちゃー。三年生Aチームの先鋒はシン先輩かよ」
「二年生Bチームには申し訳ないですが、これは5連敗確実でしょうね」
シンが二年生の時、彼は当時の三年生Bチームを相手に5連勝を決めている。
決勝戦では大将に回ったものの、出番が回って来た時には相手の残り三人を一人で倒して下剋上を成し遂げていた。
「だがその分、俺たちはシン先輩の動きを長く観察することができる」
「あぁ。ゼルたちには申し訳ないが、俺たちの勝利のためにできるだけ長く戦ってもらいたいものだな」
ルキオスとゲイルがBチームの心配をする中、ロキとラスタは自分たちのことを考えての発言をしている。
ただ一人、ウィードだけは舞台に上がったシンを黙ったまま、視線を外すことなく見つめていた。
「……どうしたんだ、ウィード? お前にしては珍しく真剣に見てるじゃないか?」
「ん? あー……まあ、気になることがあってなぁ」
すれ違う時、勘違いでなければシンはこちらを見ていた。それをウィードは不思議なほど気になっていた。
殺気ではないが、何かを放たれていたように感じたのだ。まるで俺を見ろと言わんばかりに。
「……まあ、試合が始まれば何かわかるか」
答えは試合の中にあるだろうと考えていると、ついに一回戦二試合目が開始された。
――結果から言うと、試合はシンの圧倒的勝利という形になった。
先鋒戦からシンが受ける側に回って二年生Bチームの良いところも見せつつ、最終的には圧倒的な実力を見せつけてシンが勝利を手にしていく。
次鋒、中堅、副将との試合も同様の魅せる試合をしてきたシンだったが、大将として登場したゼルだけは彼の態度に苛立ちを覚えていた。
「よろしくね」
「……シン先輩は、俺たちを舐めているんですか?」
笑みを浮かべながら声を掛けてきたシンだったが、ゼルは彼がわざと攻撃を受けつつ最後は圧倒的な実力を見せつけて勝利を手にする姿を好ましく思っていなかった。
「すまないね。そういうつもりではなかったんだ。ただ……」
「ただ、なんですか?」
「うん。私は自分の実力を十分に把握している。本気でやってしまえば君たちは実力を見せることができずに終わってしまうんだよ」
「……確かに、俺たちはシン先輩に比べたら弱いです。でも……それでも、俺は本気の先輩と最初から全力で戦いたい!」
ゼルは自分の力に自信を持っている。同学年のトップ4とは差ができてしまっているが、それでも努力を欠かさなければいつかは追いつけると信じている。
だからこそ、手を抜かれて試合をするということが自分の努力を見下されていると思えてならなかった。
「……そうか、わかったよ。それならゼル・カイエン君。私は全力で君の相手をしよう」
「……ありがとうございます」
戦斧を構えたゼルを見据えながら、シンは美しい輝きを放つ直剣を抜き放つ。
お互いに構えを取ったことで審判も試合の準備が完了したと判断し、右手をあげる。そして――
「先鋒大将戦――始め!」
――一瞬だった。
ゼルが動き出そうと体に力を入れた途端、その力がガクンと抜けて膝から崩れ落ちていく。
すでに意識を失っていたゼルがうつ伏せで舞台に倒れ込むと、一拍を置いて審判がシンの勝利を宣言した。
直剣を鞘に納めたシンは観客席の上の方に視線を送る。
その視線が選手用の観戦席で試合を見ていたウィードを向いており、視線がぶつかり合うとお互いに自然と笑みを浮かべていたのだった。
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