第12話:学年対抗戦・初戦

 ――そして、学年対抗戦の日がやってきた。

 この日だけは女性禁制のアルカンダ騎士学園に女性の入場が許されている。厳密に言えば、生徒以外の者たちの入場が許されるというものだ。

 一般人にも将来王都を、この国を守る騎士見習いを見てもらおうというものであり、同じ都市に学園を構えるアルカンダ女性騎士学園の生徒の勉強にもなるだろうという意味も込められている。

 そのことを理解していなかったウィードは代表に選ばれた最初こそやる気が出なかったが、当日になると多くの女性客が来園したことでやる気に火が点いていた。


「よおおおおぉぉおおぉぉしっ! 絶対に優勝してやるううううぅぅううぅぅっ!」


 ウィードの変わりように呆れるルキオスとロキだったが、ラスタは興味がなさそうにしており、ゲイルは冷静にこれからのことを話し始めた。


「私たちは一回戦の初戦を戦うことになります。相手は三年生のBチームですが、こちらも強敵で間違いないでしょう」

「だな。何せ、過去最強の学年のBチームだからな」

「しかし、そうなるとAチームはどれだけ強いんだろうな」


 ゲイルの言葉にルキオスとロキがそれぞれ感想を口にする。


「だが、俺たちはそんな三年生Aチームを倒すために今日ここにいる」

「そうだぜ! そして俺は、会場に押し掛けた女性たちにいいところを見せるんだ!」

「……お前の動機はどうでもいいとして、しっかりと頼むぞ、ウィード」

「どうでもいいってなんだよ! 畜生、お前に言われなくてもちゃんとやるっての! 何せ――先鋒を任せてもらえているんだからな!」


 そう、ウィードは今回の試合で先鋒を務めることになっている。

 これは相手から見ると下剋上など考えていないと思われるだろう。何せトップ4ではなく成績が真ん中くらいのウィードが先鋒だからだ。

 Aチームにどうして成績真ん中の生徒が入っているのかは疑問に思われるだろうが、それでも今年のトップ4は貴族の間でも有名な人物であり、彼らが先鋒を務めないということは例年通りだろうと見てしまうだろう。

 しかし、それこそが今年の二年生Aチームの狙いでもあった。


「悔しいが、お前は俺よりも強い。そこは認める」

「いや、認めるなよ。俺はモテたいだけで、強さを誇示したいわけじゃねぇんだよ」

「……お前のモテたい願望は置いておくとして」

「置くなよ!」

「俺たちはお前なら三年生の成績1位、シン・オーセンを倒せると思っている」


 少しだけふざけていたウィードだが、シンの名前が出てくると場の雰囲気が一気に引き締まる。

 シン・オーセンはアルカンダ騎士学園が創設されて以来、最強の騎士見習いだと言われていた。

 入学時点で騎士に匹敵する実力を持っていると言われており、三年生になってその実力をさらに高めている。

 そのことはやる気のなかった時のウィードの耳にも入ってきており、彼の試合を見るのが内心で楽しみにしている自分も少なからずいた。


「……まあ、それも三年生Bチームに勝ってからだなぁ」

「ウィードが5連勝で決めてもいいんだぜ?」

「むしろ、それをしてもらった方が決勝の大将に据えるのが楽だな」

「怪しまれることはなくなりそうですね」

「というわけだ。俺は大将でふんぞり返ってやるから、5連勝を頼むぞ」

「……てめぇら、簡単に言いやがって!」


 そうこうしているうちに、一回戦の初戦の開始時間が迫ってきた。

 会場では学年対抗戦を盛り上げるために司会が楽しそうなアナウンスを行っている。

 そちらに耳を傾けていると、ついに入場を促す声が聞こえてきた。


「それじゃあ行ってこい、ウィード!」

「さっさと終わらせろよ」

「よろしくお願いします」

「……期待しているぞ」

「まあ、気楽にやってくるさ」


 お互いの先鋒が名前を呼ばれ、大修練場の舞台に上がっていく。

 相対した時点で、ウィードは相手が自分より格下であるとすぐに理解した。


(うーん……ここから徐々に強くなるだろうけど、これならマジで5タテもいけそうだなぁ)

「第一試合先鋒戦――始め!」


 そんなことを考えながら武器を構えて、審判が試合開始の合図を出す。

 相手はBチームとはいえ実力者である。

 しかし、ウィードから見ればラスタよりも、ゲイルよりも、ロキよりも、ルキオスよりも格下の相手だった。

 実力を隠すべきか考えていたが、体が勝手に動いてしまい、三年生Bチームの先鋒を一撃で倒してしまっていた。


「……あっ」

「……し、試合終了! 勝者――ウィード・ハルフォード!」

「「「「わああああああああぁぁぁぁ!」」」」


 ――結局、ウィードは5連勝を実現してしまい、嫌でも三年生Aチームから注目を浴びることになってしまったのだった。

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