第25話:アルカンダ港
全速力で港へと続く森の中を進んでいく。
舗装された道もあるが、それでは時間が掛かると枝葉を気にすることなく、皮膚に傷を負いながら、森の中を突き進んでいた。
「……見えた! あれが、アルカンダ港!」
そして、高台になっていたことも功を奏して、アルカンダ港と停泊している船が視界に飛び込んできた。
そのままアルカンダ港に到着すると、気配を消した慎重な足取りで港の中を進んでいく。
夜中ということもあり人の影はどこにもないが、このどこかにエリーとコープスがいるはずだと、感覚を研ぎ澄まして探索を進めていく。
すると、まるでウィードにここにいるぞと言わんばかりの殺気が放たれたことで、彼は慎重になることを止めた。
「……正面からでも、勝てるってのか?」
バレているなら奇襲でもなんでも仕掛けてきたらいいのだと内心で舌打ちをしながら、ウィードは殺気のする方へ歩いていく。
「……コープス!」
「遅かったじゃねぇかぁ、騎士様よぉ〜」
背後に海を背負いながら、岸壁の手前で待ち構えていたコープスがニヤニヤと笑いながら両手を広げる。
周囲を探るがエリーの姿はなく、どこかに隠されているのか、もしくはすでに船へ運び込まれてしまったか。
どちらにしても、コープスを倒さなければ捜索は難しいと判断したウィードは剣を抜いた。
「ひゃひゃひゃっ! てめぇ、街ではボコボコにやられたってのに、ま〜だ俺様とやろうってのかぁ〜?」
「あの時のようにはいかないさ」
「ひひっ! それじゃあ、やろうかぁ〜?」
剣とナイフ、お互いに構えを取ったものの、しばらくは身動きを取ろうとしない。
自分の動きから相手の動きを予測し、その結果がどうなるのかを頭の中で何度も繰り返している。
それが一秒にも満たない中で繰り返されており、実のところウィードは想像の中で、すでに何度もコープスに切られていた。
「……ちいっ!」
「ひひひひっ! てめぇ、俺様に勝てねぇなぁ? そうなんだろう〜?」
嘲笑しながら左手で顔を押さえるコープス。
これを隙と見て前に出れば、一瞬のうちに切り殺されるだろう。
そうとわかっていても、先行する気持ちを抑え込むことは難しい。
ウィードはなんとか抑えることに成功したものの、それでも動きの阻害は出てしまっていた。
「ひひっ! わかりやすいなあっ!」
「くっ!」
僅かな表情の変化から、コープスは一気に前へ出た。
両手に握られた二振りのナイフが振り抜かれ、ウィードは防戦一方となる。
順手で握っていたかと思えば、いつの間に逆手に変わり軌道を変えて襲い掛かってくる。
「ひゃひゃっ! やるじゃねぇかあっ!」
「これくらいで、やられてたまるかよっ!」
最初こそ意表を突かれたものの、すぐに意識を集中させてナイフを受け止め、回避しながら隙を見て反撃を試みる。
しかし、ウィードの剣は空を切るばかりで完全にコープスの独壇場になってしまっていた。
(くそっ! あの一瞬の気持ちの揺らぎから、ここまで場の空気を持っていかれるのかよ!)
自分が未熟であることは重々承知しているが、それでもシン以外の今年入隊した騎士と比べれば、実力は勝っているという自負を持っていた。
(こいつは――シンと同等か、それ以上に強い!)
「ひーひひひひっ! いいねえっ! 耐えて見せろ! それで、悲鳴をあげながら! 命乞いをしながら! 死んでいけばいいんだよおおおおぉぉっ!」
コープスの連撃がさらに速度を増していく。
右から左から、上から下から、フェイントも混ざり、予測不能な軌道の変化も組み込まれた連撃を受けて、徐々にウィードは後退を余儀なくされる。
「……ふざけんじゃ、ねぇぞ! てめぇ如きに、やられるわけには、いかねぇんだよ!」
「ひひっ! いいねぇ、さすがは騎士様だあっ! だがなぁ、そういう表情を崩してやるのがあっ! 俺は楽しいんだよなあっ!」
下卑た笑みを浮かべながらさらに加速してきたコープスを見て、ウィードは舌打ちをしながら魔導闘技を発動させた。
「ここからが、本番だ!」
「かかかかっ! 面白いじゃねぇかよう! だがなぁ、俺様はまだまだ――加速するぜえっ!!」
まるで一度の剣戟音がそのまま長く響いているかのような、いつまでも続くコープスの途切れることのない連撃。
それをウィードが視覚強化を行うことで紙一重の防御を見せていく。
どちらも傷を負わず、一進一退の攻防が続いているかのように見えたが、ウィードは非常に強い焦りを覚えていた。
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