第二章:二年生
第8話:二年生での学園生活
学園生活を送る中で、ウィードは可もなく不可もなしな成績を収めていた。
ルキオスからは呆れられ、ロキからは絡まれる毎日だったが、それはそれでハルフォード家にいた頃にはあり得なかったやり取りだったこともあり、彼は内心で楽しんでいる。
最初に絡んできたラスタは自らの剣術の腕を磨くために鍛錬を重ねており、ゲイルも変わることなく槍を振り続け、時にはラスタと模擬戦を行っていた。
一方でウィードは普段と変わらず王都の街中へ足を運び、女性に声を掛けては逃げられ、ベンチに腰掛けて大きく肩を落とすを繰り返している。
この頃にはすでに、ウィードが女性目的で騎士になったのでは? という噂がアルカンダ騎士学園の生徒たちに広がっていたのだが、彼からすると事実なのでどうでもいいことだった。
こうして時は過ぎていき――ウィードたちは二年生に進級した。
「――……なんだろうな、ルキオス。俺はもう、諦めの境地に達してしまったよ」
「いや、それを俺に言われてもどうしろってんだ?」
「……慰めてくれ。お前のその逞しい二の腕で!」
「嫌だよ! なんだそれ、ウィードってそっちの趣味もあったのかよ!」
「……いやいや、冗談に決まってるじゃん。えっ? お前、そっちの趣味があったのか?」
「そりゃ俺のセリフだからな! この野郎!」
一年生の時と変わることなく、ウィードはルキオスと共に行動している。
しかし、そこに一つの変化が起きていた。
「おい、ウィード。お前はもう少しやる気を出したらどうだ? そうでなければ代表から落選してしまうぞ!」
「俺は代表入りとか興味なーし! むしろ、ルキオスならまだしも、お前やラスタと一緒に戦うとか考えられないっての――ロキ」
二人と共に行動しているもう一人、ロキが口を挟んできたのだ。
「な、なんで俺とラスタなんだ! ゲイルだっているだろう!」
「あいつは別だ。なんていうか……女性だけじゃなく、男性からも人気が高いやつだろう?」
「ウィード、やっぱりお前って、男にも興味が――」
「ないからな!」
入学した最初の頃は敵対していたウィードとロキだが、彼らは授業をこなして行くうちに何度も剣を重ね合わせ、徐々にではあるがロキがウィードの剣術の才を認めたのだ。
それと同時にウィードがルキオスと行動を共にしており、爵位の低い者同士で気が合ったというのも理由の一つかもしれない。
とはいえ、それをウィードが気にしていたかどうかは定かではない。彼の目的は今もなお、女性にモテたい、お近づきになりたいというものだから。
「でもよう。真面目な話、ウィードがいてくれたら三年生にも勝てるんじゃねぇか?」
「俺もそう思う。正直、成績5位の奴では俺たちと実力差がありすぎる。張り合えるお前でなければ、下剋上を成し遂げることはできん」
「いや、だから、俺はそういうのに興味はないんだよ。それに、代表を決めるのは二年の担当騎士だろう? 俺は巧みに実力を偽っているんだから、選ばれるなんてことはあり得ないんだよ」
「……そこは自信満々に言うことじゃねぇと思うんだが?」
そんな調子で廊下を進み、ウィードたちは大修練場に到着した。
今日は生徒同士で模擬戦を行う授業内容となっている。
二年生になって初めての授業である。ルキオスとロキは気合いを入れているが、ウィードはどうやって手を抜こうかと考えていた。
「おぉーい。お前たちで最後だ、さっさとこっちに来ーい」
やや力の抜けたような声で三人を呼んだのは、先ほど話題に上がった二年の担当騎士だった。
ボサボサの黒髪に眠そうな表情を浮かべた男性は、初対面だと騎士だとは誰も思わないかもしれない。
事実、生徒たちも最初はこの人が本当に担当騎士なのかと疑った者もいたくらいだ。
「えっとー? ……あー、ルキオスにロキに……ウィードだな」
剃り残しのある髭を撫でながら、逆の手で名簿を眺める。
顔をやや下に向けながらも、上目遣いに担当騎士は三人を見つめた。
「……おい、ウィード」
「なんでしょうか、先生!」
実力は誤魔化しつつ、態度は真面目な生徒を演じるウィード。
「お前の相手は俺だ」
「……はい?」
「それと、変な態度を取るな。てめぇはてめぇを出しておけ」
「……はぁ」
担当騎士はそう口にすると、頭をぼりぼりと掻きながら木剣をひょいと持ち上げた。
「あの、先生? 模擬戦は生徒同士で行うんじゃないんですか?」
「あー……まあ、お前は特別だ。面白そうだからな」
「いや、面白そうって、俺は特に特徴もない一介の騎士見習い――⁉︎」
直後、ウィードの言葉を遮るようにして鋭い袈裟斬りが担当騎士から放たれた。
体が自然と反応したのか、ウィードは目を見開いてそれを受け止めると、そのまま横薙ぎを放ち反撃に転じる。
しかし、その時にはすでに担当騎士は後方へ飛び退いており、ウィードの横薙ぎは空振りに終わった。
「……ちょっと、先生!」
「そうそう、自己紹介がまだだったな。俺はダン・フェリンドだ。よろしくな――誤魔化し上手な騎士見習いさんようっ!」
こうして二人は本気の模擬戦を繰り広げることになった。
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