第9話:学年対抗戦

「……あの先生、マジでなんなん?」


 ダンとの模擬戦を終えたウィードは、クタクタになりながら大修練場をあとにした。

 ルキオスはロキと模擬戦をしていたのだが、今日に限っていえばお互いに手を抜いてウィードとダンの模擬戦に視線を注いでいた。


「お疲れさん!」

「お前、いったいダン先生に何をしたんだ?」

「何もしてねぇよ! なんで目を付けられたのか、全く思い当たらないんだけど!」


 やや怒気のこもった声を漏らしたウィードを伴い、彼らは二年生の教室へ移動する。

 これもダンの指示なのだが、ウィードは嫌な予感を感じていた。

 何故なら、指示を出しながらダンと目が合うと、彼がニヤリと笑っていたからだ。


「……何もなければいいんだけどなぁ」


 そんなことを呟きながら教室に入り、三人横並びで腰掛ける。

 しばらくしてダンが教室にやってくると、その視線がすぐにウィードを見つけ、大修練場で見せたものと全く同じ笑みを浮かべた。


「……絶対に、何かあるなこりゃ」


 その何かがいったいなんなのかはわからないが、ここまで来ると逃れられないと悟り、頭を抱えながらもことの成り行きを見守ることにした。


「さっきはお疲れさん。お前たちの実力を見させてもらったがー……うん、まあまあだな」


 頭をぼりぼりと掻きながらそう口にすると、周囲からは小さくない舌打ちがあらゆるところから聞こえてくる。

 ダンの物言いは、お前たちはまだまだだと言っているようなものだからだ。


「これからも精進するように。……さて、本題に入るが、これから学年対抗戦の代表を発表したいと思う」


 ――学年対抗戦。

 これはアルカンダ騎士学園における最大のイベントであり、在校生が自らの実力を示し、騎士団の中枢に入れるかどうかの登竜門とされているものでもある。

 代表入りできればそれだけで王都を守護する騎士団への入団は約束されたようなものであり、そこで活躍することができれば王族を守護する近衛騎士に抜擢されることだって夢ではない。

 一年生は見学のみで、二年生と三年生がメインのAチームとサブのBチーム、それぞれ五名ずつ選ばれて、毎年しのぎを削ることとなる。

 だからこそ、面倒くさそうにダンの口から代表を発表すると飛び出したのには、生徒たちからすると完全に予想外のものだった。


「ちょっと待ってください、先生! 今までだと、学年対抗戦の代表は年度の中頃に発表されるものではないんですか!」


 一人の生徒が声高にそう問いかける。

 彼の言うことはもっともで、通例では学年対抗戦の代表は年度の中頃に発表となり、後半にある対抗戦まで代表生徒を集中的に鍛えていく。

 だが、今はまだ二年生に上がったばかりであり、ダンが全二年生の実力を把握できているとは誰も思えなかった。


「それじゃあAチームから発表するぞー。一人目――ラスタ・レミティア」

「はい!」


 しかしダンは周囲の喧騒を気にすることなく代表者を発表していく。

 とはいえ、Aチームに関しては誰もが予想していた通りの人選となり、誰の口からも文句は出てこない。

 最初に名前を呼ばれたラスタを筆頭に、トップ4であるゲイル、ロキ、ルキオスの名前が読み上げられていく。

 最初こそ困惑していた生徒たちだったが、Aチーム最後の一人が読み上げられる時になると息を呑んで誰が呼ばれるのかと耳を澄ませた。


「Aチーム最後の一人は――ウィード・ハルフォード」

「「「「…………はああああああああぁぁっ⁉︎」」」」


 最後にウィードの名前が読み上げられると、本人とトップ4以外の生徒たちからは非難の声があがった。


「……はあぁぁぁぁ。そりゃ、そうなるよなぁ」


 ダンがニヤリと笑った時点で、なんとなくこうなるのではないかと予想していたウィードは頭を抱えた。

 多くの生徒が抗議の声をあげ、その視線は目上のダンではなくウィードに集まっている。

 せっかく可もなく不可もなしな成績を維持してきたのに、それが今回の一件で水の泡になってしまうかもしれないのだ。


「先生! 俺は絶対に納得できません!」


 そこで一際大きな声をあげた男子生徒がいた。

 茶髪茶眼の青年は、鋭い視線でウィードを睨みつけている。


「どうして成績5位の俺ではなく、こんな中途半端な実力しか持たない劣等生がAチームの代表なんですか!」

「そりゃお前……実力じゃねぇか?」

「実力というのであれば、俺が選ばれるのが妥当だと思います!」

「えっと、お前はー……ゼル・カイエンだったな。お前はBチームだ。頑張れよー」


 ダンはゼルの名前が出たのをいいことに、そのままBチームの代表者を読み上げようとした。しかし――


「ふざけるな! そんなに実力を見たいなら、俺はこの劣等生に――決闘を申し込む!」

「……ええぇぇぇぇ〜?」


 完全に面倒ごとに巻き込まれてしまったと、ウィードは頭を抱えながら思っていたのだった。

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