第22話:魔導闘技

「――いたぞ! こっちだ!」

「――逃がすな! お頭に殺されるぞ!」

「――大勢で掛かればこっちのもんだ!」


 現在、ウィードたちは多くの敵と戦いながら地下道を進んでいる。

 警戒を密にしながら進んでいたものの、どうしても避けられない通路に差し掛かってしまい、意を決して飛び出したのだ。

 通路の奥からどんどんと敵が現れてくるだけでなく、通ってきたはずの道からも敵が押し寄せてきている。

 前方をウィードとルキオスが、後方をラスタとゲイルが相手取り均衡を保っていた。


「くそっ! こっちは急いでいるってのによ!」

「このままでは、船が出てしまいます!」

「そんなことはわかっている! だが、この数では――ちっ!」


 焦るウィードの声に、ゲイルとラスタも声を張り上げて答えている。

 もしもここで生き残れたとしても、エリーを助けることができなければ意味がない。

 無理をしてでも突破を図るべきなのだが、その糸口すら見つけられない状況になっていた。


「……お前たちは行け」


 その時、ルキオスが低く重い声でそう口にした。

 乱戦の中であっても、彼の声は不思議と三人にしっかりと届いていた。


「お前、何をするつもりだ!」

「ルキオス殿、無茶です!」

「死ぬつもりか!」

「俺がこいつら相手に死ぬと思うか? 大丈夫だ、手はあるからよ!」


 目の前の敵を殴り飛ばしながらそう口にすると、快活な笑みを浮かべながら両拳を打ち鳴らす。


「……本当に、手があるんだな?」

「おうよ! だから信じてくれよ、ウィード」


 前方からの敵がようやく途切れた。

 ウィードは強い光を持つルキオスの瞳を見つめながら、小さく息を吐き出した。


「……はぁ。わかった」

「へへ、助かるぜ」

「今度、食堂の飯でも奢らせてくれ」

「そこは豪華な飯じゃねぇのか?」

「贅沢を言うんじゃねぇよ。……だがまあ、無事に戻ったら、交渉の席にくらいは着いてやるよ」


 そう口にしながらウィードが左の拳を突き出すと、そこへルキオスが右の拳をぶつけた。


「ラスタ! ゲイル! 行くぞ!」

「おい、ウィード!」

「ルキオス殿、本当に大丈夫なんですね!」

「おうよ! ザコの相手は俺に任せておきな!」


 二人は目の前の敵を切り伏せると、大きく飛び退いてルキオスの後方へ着地する。

 僅かに振り抜いたルキオスがサムズアップしながら笑みを浮かべると、二人も彼を信じようと自らに言い聞かせて、苦渋の決断を下した。


「……俺は美味い飯を奢ってやる」

「私もです。なんなら買い物にも付き合いますよ?」

「へへ、さすがは侯爵家と伯爵家の跡取り息子だな! それじゃあ、頼んだぜ!」


 ルキオスの返事を受けて、二人もウィードと共に奥の通路へ走り出した。


「行かせるんじゃねえ!」

「こいつをぶっ殺してから追い掛けるぞ!」

「たった一人で何ができるってんだ? あぁん?」


 後方の通路からはまだまだ敵が近づいてくる足音が聞こえてくる。

 現役の騎士でも、この状況では死を覚悟するものだろう。

 しかし、ルキオスは死を覚悟するどころか、さっさと片付けて三人を追い掛けなければと考えていた。


「うるせぇんだよ! こっちはザコの相手を買って出てやったんだから、さっさと倒されてくれよな!」

「こいつ! ぶっ殺せ!」


 リーダー格の男が怒声を響かせると、六人の男たちが一斉に飛び掛かってきた。


魔導闘技マジックアーツ――阿修羅アシュラ!」


 ルキオスが魔導闘技を発動させた直後、六人の男たちが一斉に後方へ吹き飛ばされた――否、一度に殴り飛ばされてしまった。

 何が起きたのか理解できず、リーダー格の男は殴り飛ばされた男たちを見渡したあと、ゆっくりと視線をルキオスに戻した。


「……て、てめぇ、何者だ?」


 一度に六人もの男たちを殴り飛ばしたルキオスの魔導闘技。

 高速の拳を五回振り抜いたわけではなく、魔法を使って一度に六人を吹き飛ばしたわけでもない。

 文字通り、一度の拳で六人に殴り飛ばしたのだ。


「俺か? 俺はただの騎士見習いの学生だ」

「……が、学生だぁ? はは、てめぇがただの学生なわけがあるか。なんだよ、それは! その――背中から生えてる四本の腕はよう!」


 リーダー格の男は困惑した様子でそう口にした。


「これが俺の魔導闘技、阿修羅だ」


 ルキオス本来の腕と、背中から生えた四本の腕で、都合六本の腕がそれぞれ六人の男たちを殴り飛ばしていたのだ。


「ここから先には絶対に行かせねぇ! 通りたきゃ、俺を倒していくんだな!」


 そして――ルキオスは一人で五〇人に迫る数の敵を足止めし、自らに課した役目を果たしたのだった。

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