第21話:地下道
地下に向かったウィードたちが見たのは、地下室ではなく、地下道だった。
続いている道に視線を向けても暗闇が広がっており、地下道が長く続いていることが容易に想像できる。
四人はいつでも戦えるようにと自らの武器を抜き、慎重でありながらも迅速に先へと進んでいく。
そして、通路の先から何やら物音が聞こえてくると、先頭を進んでいたウィードが手を上げて立ち止まった。
「……どうしたんだ?」
「……何か音が聞こえてきた」
「……これは、話し声でしょうか?」
「……どうやら、ここで間違いないようだな」
速度を落として進んでいくと、暗闇だったはずの通路に光が見えてくる。
その先から声が聞こえることに気づくと、四人は素早く動き出した。
二年生の時に学年対抗戦で一緒に訓練を繰り返していた四人は、お互いの長所短所を理解している。
故に、ウィードとルキオスが前に出て、次にラスタ、最後にゲイルが陣取るフォーメーションで自然と体が動いたのだ。
「……数は三人。いけるか、ルキオス?」
「……俺たちなら余裕だろう?」
「……そうだな。それじゃあ――いくぞ!」
身を隠し様子を見ていた二人が、潜んでいた角から一気に飛び出した。
「な、なんだ!」
「どうしてここがバレたんだ!」
「黙れ! まずはこいつらを殺すぞ!」
「話も聞かずに殺すときたか!」
「ぶっ飛ばしてやるぜ! 覚悟しやがれ!」
二人に気づいた三人組が武器を手にしようとしたのだが、その時にはウィードもルキオスも一番近くにいた相手を斬り、殴り飛ばして倒してしまっていた。
「ひいっ!? な、何なんだよ、てめぇらは!」
「それはこっちのセリフだ」
「こんな地下で何をやってたんだぁ?」
残された最後の一人だが、彼は二人から同時に睨みつけられると、その場に両膝をついて降参の意を示してきた。
遅れてラスタとゲイルが現れると、密かに逃げる算段をしていた男は今度こそ本当に諦めて額を地面に擦りつけていた。
「それで? お前たちはここで何をしていたんだ?」
「うっ! ……そ、それは……言えねぇ――」
「殺されたいみたいだなぁ」
「ひいっ!? い、言うから! 言うから剣を引いてくれようっ!」
ウィードが剣を男の首筋に当てると、悲鳴をあげながらすぐに自らの発言を撤回した。
「じ、人身売買だ! あの野郎は、王都の女を攫って、他国に売り捌いているんだよ!」
「他国に人身売買だと?」
「へへっ、そうしたら足がつかないってことで、他国の貴族も高値で――ひいぃぃっ!?」
男の笑い方に腹が立ったウィードが再び剣身を首筋に当てると、強く押し込み過ぎて血の筋が伸びていく。
「落ち着け、ウィード」
「この先はどこに続いている、答えろ!」
「み、港の近くにある、廃屋だ! そこから港に運び込んで他国に行く予定だったんだ!」
ラスタが苛立つウィードを宥めているが、彼の問い詰める言葉には怒気が込められている。
このままでは殺されてしまうと、男は素直にぺらぺらと情報を話してくれた。
「ちっ! 時間があまりなさそうだな!」
「私たちも急ぎましょう。ですが、その前に――ふっ!」
「げばっ!?」
ルキオスが舌打ちをしながら焦りを見せると、ゲイルは冷静に男の首筋を槍の柄で打ち抜き、意識を奪ってから縛り上げた。
「……よ、容赦ねぇなぁ」
「人攫いに容赦をする必要はないでしょう。さあ、急ぎましょう」
「お、おう、そうだな」
ウィードとラスタはすでは奥の通路へ歩き出している。
二人を追い掛ける形でゲイルが続くと、彼の背中を見つめながらルキオスがぼそりと呟く。
「……実はゲイルが一番、この中で怖いんじゃねぇか?」
そして、ルキオスはゲイルにだけは逆らわないようにしようと、心の中でひっそりと誓っていたのだった。
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