第19話:反撃開始
しばらくすると、ゲイルと一緒に情報を聞きつけたコレント家の私兵たちが姿を見せた。
エリーが拐われた状況に関してはラスタが説明を行い、私兵たちはその足で騎士団詰所へと向かう。
残されたウィードたちは、これからどうするべきかを話し始めた。
「本来であれば俺たちが出しゃばるものではないが……誘拐事件は時間との勝負にもなってくる」
「特に今日は生誕祭です。騎士団も周囲の警備に人員を割いているでしょうから、エリー様の捜索にどれだけの人員を割けるかは見当がつきませんね」
ラスタとゲイルが話をしている間、ウィードはずっと口を閉ざしている。
自分が怒りに任せて剣を振るわなければ、あの場でエリーを連れていかれることもなかったはず。
そう考えてしまうと、悔やんでも悔やみきれない思いでいっぱいになってしまう。
「……ウィードはどうするんだ?」
そんなウィードへラスタが声を掛けた。
「……俺には、何もできない」
「何故だ?」
「目の前で無様に攫われたんだぞ? ……エリーも、俺のことを見限っているだろうさ」
「……ならば、他国へ売り飛ばされるのをただ黙って見ているつもりか?」
「そんなこと! ……だが、どうしたらいいんだ。俺は、コープスって野郎に手も足も出なかったんだぞ」
下唇を噛みながら、ウィードは悔しそうに声を紡いでいく。
「今ならまだ間に合う。人間を運ぶのはそう容易ではないはずだからな」
「ラスタの言う通りです。それに、彼らはエリー様だけではなく、他にも女性を誘拐している可能性があります。運ぶ人が多くなればなるほど、移動は困難になりますからね」
ラスタの言葉にゲイルも同意を示した。
しかし、それでもウィードは首を縦に振ろうとはしない。
「……俺は、エリーが好きだ」
すると突然、ラスタがエリーのことが好きなのだと告白し始めた。
「……お前、こんな時に何を言っているんだ?」
「彼女に告白したこともある。貴族同士の政略結婚ではなく、素直な俺の気持ちを伝えたんだ」
「だから、いったいなんの話を――」
「だが、断られたんだ」
ウィードの言葉を遮るように、強く口調でラスタが言う。
「彼女には、幼い頃に命を救われた王子様がいるらしい」
「……えっ?」
「その王子様と結婚するのだと、だから他の誰とも結婚するつもりはないのだと、はっきりと断られた」
エリーがラスタの告白を断った理由を聞いて、ウィードは何も言えなくなってしまった。
「その王子様っていうのは、お前なんだろう?」
「……すまん」
「どうして謝るんだ? 事情は知らないが、その時にお前がいなかったらエリーはきっと死んでいたんだろう。謝る必要はどこにもないじゃないか」
「それは、そうだが……」
「お前は、自分が助けた相手がまた命の危機に陥っているというのに、ただ指を加えて遠くから見ているつもりなのか?」
ラスタの言葉を受けて、ウィードは大きく目を見開いた。
「……それだけは、絶対にダメだ」
ウィードがエリーを助けた時のことを、ラスタは知らない。
しかし、彼が口にした最後の言葉は、ウィードを奮い立たせるには十分すぎるものだった。
「エリーは、母上と共に助けた大事な命だ。それを奪わせるだなんて、絶対にあってはならない!」
「どうやら、やる気になったみたいだな」
「えぇ。それに――彼らも来てくれたようですよ」
横で話を聞いていたゲイルが口を開くと、路地の方からウィードがよく知る人物が姿を現した。
「ウィード!」
「貴様、大丈夫なのか?」
「……ルキオスに、ロキまで」
別の場所でウィードのことを探していたルキオスとロキが合流したのだ。
「こっちの方から武装した奴が出てきたからよ、気になって来てみたんだ」
「……どうやら、派手にやられたらしいな」
「……下手を打っちまった」
「だが、まだ取り戻せるだろう?」
「ラスタの言う通りです。お二人には移動しながら事情を説明しましょう。まずは、コープス一味がいる可能性が高い場所へ向かいます」
立ち上がったゲイルがそう口にすると、ウィードとラスタも立ち上がる。
「心当たりがあるのか?」
「心当たりと言えるかはわかりませんが、そういったならず者たちが集まる場所なら知っています」
ウィードの問い掛けに答えたゲイルは、視線を南の方向へ向けた。
「……なるほど、スラム街か」
「えぇ。ですが、そこが当たりなのかどうかはわかりません」
「なら、俺は別行動を取らせてもらおう」
「ロキも何か心当たりがあるのか?」
確証はないのだとゲイルが口にすると、後ろで聞いていたロキがそう提案してきた。
「情報は多い方がいい。俺は騎士団の方に出向いてコープスについての情報がないか確認してから、お前たちを追い掛けよう」
「助かります、ロキ殿」
「よっしゃー! そんじゃあこっから反撃開始といこうぜ、ウィード!」
「そうだな。エリーは王子様が助けに来てくれるのを待っているはずだ」
最後に、四人の視線がウィードに集まった。
「あぁ。俺が……いいや、俺たちがエリーを助けるぞ!」
「「「「おうっ!」」」」
こうして、ウィードたちの反撃は始まった。
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