第34話 秘密の露見 (キュン3)

「あら、心配するのは当然です。レイモンドの結婚はこの国を左右する出来事ですもの。婚約したと聞けばいい知らせがあるのかと思うのは愛国心でしてよ」

「まさか、レイモンド様も王家の紋章が?」

 ライラの言葉にすかさずツッコミを入れたのはカイリ夫人だった。


「カイリ夫人」

 マーベラス夫人がカイリ夫人を見て横に首を振る。

 察してあげて、という2人の白々しい演技が無性に腹が立つ。

 こいつらの名前は覚える価値もない。取り巻きAとBってあだ名で十分ね。


 私も見るまで知らなかったけど、レイモンドの胸には王家の紋章が刻まれている。

 この場ではっきりと言ってやりたかったが、本人が隠しているのに私が言うわけにはいかない。


「王家の紋章があってもなくてもアスライとレイモンドは兄弟ですわ。それに私は政略結婚であってもアンジェラさんの味方です」

 ホホホ、とライラは勝ち誇って私に微笑みかけた。

 国王から私たちの結婚を許した理由を聞いたんですね。

 おしゃべりな国王だ。


「それはそれで賢い選択ですわね。レイモンド様がしっかりした後ろ盾を得たことは喜ばしいですわ」

 取り巻きBも高笑いした。


 我慢、我慢。

 今日は私がコートニーの付き添いなんだから。ことを荒立てないで我慢するのよ。



「コートニーさんには期待しているんですよ。聖女降臨した時代には王族は女神からの祝福を受けることが多いですからね」

「そうですわね。レイモンド様は真実の愛が手に入れられないと確定した以上、アスライ殿下と聖女様にはぜひ真実の愛を手に入れてほしいものですわ」

 取り巻きABが年甲斐もなく手を取り合って盛り上がっている。


 お言葉ですがレイモンドはまだ真実の愛を手に入れられないって決まってないですから!

 こうなったら絶対に私自身手の手で呪いを解いてやる。

 固く、心に誓った横でコートニーがいきなり席を立った。


 コートニー?


「お、お言葉ですが、わ、私とアスライ様が真実の愛を手に入れることは絶対にないと思います。そ、そもそも、ア、アスライ様の眼中に私は入ってませんし、レイモンド殿下はアンジェラ様とあんなに仲がよろしいのですから、真実の愛を手に入れ女神様の祝福を受けることはお二人で大丈夫だと思います」

 何をいきなり言い出すの?

 私とレイモンドが仲がいいのは秘密なのよ!

 レイモンドには愛する人が他にいるって設定なの!

 お願い、これ以上変なことは言わないで。


「コートニー、落ち着いて」

 極度の緊張からなのか、コートニーには私の言葉は全く届いていない様だった。


「そうね。呪いがあっても二人なら大丈夫でしょう。ですが女神の祝福を受けるには王家の紋章が必要なのです。それがレイモンドには現れていないので……ってまさか……王家の紋章がレイモンドに?」

「いいえ、そのような話はきいておりません。万が一レイモンド様に王家の紋章がある様なら陛下が私との結婚を許すはずがございません」

 国王は息子二人のうちどちらでもいいから女神の祝福を得て国を繁栄に導きたいと考えている。

 それがライラの意図と違っていてもだ。


「あなたには聞いていません。聖女殿。今の発言は予言ですか?」

 ライラの鬼のような形相を見て、ようやっとコートニーも自分の言った過ちに気付いた様だった。


 ✳︎


 何とかあの後コートニーが否定してくれたので、ライラもそれ以上追求してくることはなかった。

 しかし、本心から納得しているとは思えない。

 一度生まれた疑問は消えることはないのだ。

 今日のところは一旦引いて、真相を探ってくるに違いない。


「ア、アンジェラ様、本当にすみません。引きこもりの私なんかが絶対にアスライ様と真実の愛なんて無理だし、それにみんなしてアンジェラ様のことを蔑ろにしている気がしたら許せなくて」

 気付いたら叫んでました。とコートニーはしょぼんと肩を落とした。


「もう、言ってしまったことは仕方ないわ。とりあえずレイモンドにも話すしかないわね」

 私は回廊からミノワール宮殿を映し出す水面を眺めた。

 この素晴らしい眺めを見ることは2度とないかもしれない。


 ざわざわと風が吹き抜け鏡のような水面を揺らす。

 歪んで映る宮殿がこれからを示唆しているようで、私はコートニーに気づかれないようにため息をついた。




 ✳︎



「アンジェラ!」

 ミノワール宮殿から王宮に向かっていると、レイモンドが手を振ってかけてくる。


「どうしたの?」

「あいつに何されるかわからないから迎えに来た」

 レイモンドは私の手に自分の手を絡めとると、チュッとキスを落とす。


 ちょっと、人前で何してくれるのよ。

 文句を言いたかったが、今はそれどころではない。


「話があるの、時間ある?」

 ✳︎


「しばらくは警戒を強化しないとな。あいつのことだから確信がなくても大量に暗殺者を送ってくるだろう。外出も控えた方がいい」

「レイモンド、私なら大丈夫。コートニーにはまだまだ令嬢の作法を教えることがいっぱいあるし、何より一人にしておけないでしょ」

 アスライが全くヒロインに興味を示さないんだから、コートニーには自分で立派に生きていってもらわないとならない。

 それには基礎知識は身につけてもらわないと。


「だが、公爵家や王宮なら警護も行き届くが行き帰りが一番襲われる危険がある」

 今日は泊まって行った方がいい。と執務室で駄々をこねるレイモンドをなんとか宥める。


「じゃあせめて俺が送り迎えをしよう」

 いつの間にかソファーの端に追いやられてこれ以上端に寄れないのに、レイモンドはさらに間を詰め横にピッタリとくっついてきた。

 初めは二人でソファーの中心に適度な距離を保って座っていたはずなのに。


「レイモンドそんなことより、もう少しそっちに行って」

 そんなことより、と言われたことが気にいらなかったのか、レイモンドは私をひょいと持ち上げると膝の上に置いた。


「ちょっと、人前!」

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