第18話 愛のある契約結婚? (キュン1)
読めないとは?
別に古代語や特殊な文字で書かれているわけではない。
「普通の童話に見えるけど」
「俺たちにはな。魔術師によると強力な古い魔法がかかっていて他の人間には絵が描かれているだけの本に見えるらしい……まあ、開いてみたらわかる」
私はレイモンドに促されて、しっくりと手に馴染む懐かしい本を開いてみた。
「え?」
何これ?
私は綺麗な挿絵とその横にびっちりと書かれた文字に驚いて、レイモンドの顔を見た。
「どう?」
「私の本とは違う」
「いや、これは間違いなく君のだよ」
「でも、こんな難しい本じゃなかったわ。本当に普通の童話だったのよ。文字だって子供向けでちょっとだったし」
「確かにもらったときは子供向けだったよ。内容もお嬢様が呪いにかかり王子様に助けられるっていう簡単なもの。でも、開くたびに内容がどんどん追加され変わっていくんだ」
「そんなことあり得る?」
「ああ、魔術師が言うにはこれほど強力な魔法のかかった本は見たことがないって。だから呪いの解き方も信憑性が高い」
「信じられるの?」
「心配するな。俺が絶対に呪いは解いてやる」
と言うことは私の呪いが解けるかもしれないの?
自信ありげにレイモンドは私に笑って見せた。
「これは君に返すから、じっくり読んでみるといい。ただ、あくまでも童話だから現実とは違う部分も多いけどね」
「わかった。読んでみるけど、これからの未来も詳しく書かれているの?」
「いや、残念だけど未来のことはほとんど書かれていない。書かれていたとしてもその通りにならないときもあるし」
レイモンドの言葉にちょっと安心した。
それでなくても、この世界には原作がある。それ以外にもこんな変な本まであっては私の破滅の運命が避けられなくなってしまう。
「レイモンド、ちょっと髪をさわるのやめてくれない?」
レイモンドはすぐ隣に座り、何やら真剣に考え込ながら私の髪を弄んでいる。
「何か言いたいことがあるならはっきり言ってちょうだい」
「ああ、うん」
となんとも歯切れの悪い返事をして、レイモンドはまた黙り込んでしまう。
「何?」
「あのときの約束覚えてるか?」
「フレドリック領での約束かしら?」
私達の関係はナイショというやつだ。
確かに、今日もお父様にはナイショにしてくれた。
「違う。初めて会った時だ」
あなたと会ったことすら覚えてないのに、約束のことなんか覚えているはずないでしょ。
「そうか。思い出さなくてもいいけど。俺は約束は守るからその時はアンジェラにも約束は守ってもらう」
なんとなく拗ねた感じで、レイモンドはそっぽをむく。
「覚えてない約束なんて守れないけど」
「とにかく、約束は約束だからな」
「わかったわ。まずはその約束を思い出してみる」
うん、と言うまでしつこそうなので取り敢えず努力はしよう。
子供の頃の約束なんて、たかがしれているだろうし。
「それでいい。ちなみにその本には出てこないが俺の持っている方にはきちんと書いてあるから言い逃れはできないからな」
レイモンドがふふん、と胸を張る。
「もう一冊本があるの?」
「ああ、題名が同じで表紙の絵は王子様だ。主に王子様の視点で書かれてる」
「見せて」
「それはダメだ。恥ずかしいからな」
「私の方だけ読んで、ずるい!」
「だから返しただろ」
「酷い!」
「酷いのはそっちだろ。俺のこと忘れていたんだから」
「じゃあ、思い出したら見せてちょうだい」
うーん。とレイモンドは腕組みをして大袈裟に悩んでみせる。
「わかった。もう一つ俺と約束してくれたら見せてやろう」
またそれ?
「なんで私がそんな交換条件を飲まなくちゃならないのよ」
「約束を忘れている方が悪い」
まあ、確かに一理ある。
約束を忘れるって言うことは、約束を破るのと同じだ。
まあいっか。どうやらレイモンドは約束を守る人間らしいし。
「いいわ。聞くだけ聞いたあげるから言ってみて」
「アンジェラ。俺と契約結婚しよう」
レイモンドが私の手を取り正面から見つめられる。
うっ、ちょっと待ってよ。
今度は何?
「レイモンド、話を急ぎすぎよ。いくら呪いを解く方法がわかってもそれが本当かどうかもまだわからない。それに、あなたをまだ信じたわけじゃないわ」
口ではなんとでも言えるもの。
まだ会って数日、人を信じるには全然時間が足りない。
「この本もまだ読んでいないし、あなたが話してくれたことももっと考えてみたい。結婚の返事はお父様と相談してするから」
「公爵は関係ない。今は政略結婚の話じゃなくて契約結婚の話をしている」
「どう違うの?」
「全然違うだろ。政略結婚は家同士の利益のため親が勝手に契約。契約結婚は君と俺と2人の結婚の契約だ」
そう言って、レイモンドは一枚の契約書を取り出した。
「まさかそれ契約書なの?」
用意早すぎない?
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