第19話 ラブレーターですか? (キュン6)
「さあ、そんなところで呆けてないで、目を通してくれ」
いつの間にかレイモンドは私のベッドの上で壁にもたれかかり足を組んでくつろいでいる。
そしてひらひらと契約書を片手で振ると、反対の手でポンポンと自分のすぐ横を叩く。
横に来いといことらしい。
私は仕方なく、レイモンドの横に足を抱えるように座る。
満足そうにレイモンドは微笑むと、契約書を見せてくれた。
定型文の後に、具体的な契約事項が書かれている。
「レイモンドはアンジェラのことを決して裏切らない」
「レイモンドはアンジェラの幸せのために最善をつくす」
「レイモンドはアンジェラを一生大切にする」等長々と愛の言葉が並ぶ。
いつの間にかレイモンドがピッタリとくっついて頭を肩にもたれかかりながら私の顔を伺っている。
首筋にかかる息がくすぐったいし、なんだか胸の奥がザワザワ騒がしい。
「何か問題でも?」
視線の止まった私に、レイモンドがさらに身体を近づるように肩を抱き寄せてきた。
「まだ読んでいる途中だから、少し離れて」
「ああ、わかった」
そう返事したのに、やっぱりレイモンドは離れてくれない。
心臓に悪いからさっさと読んで、早く帰ってもらおう。
契約書には他にレイモンドの個人所有物である別荘や宝石をアンジェラに譲ることが書かれてあった。
そして、
「アンジェラの呪いは必ずレイモンドが解呪する」
「アンジェラの呪いのためレイモンドが命を落としてもアンジェラの責任ではない」
「アンジェラはレイモンドが先に亡くなった場合、それからは自分の幸せを考えて生きること」
以降は私の照れた顔がたまらなくてついからかってしまう。それを不快に思ったときはドレスを買うとか、これが契約か! と思うことばかり綴られていた。
「何これ? こんなの契約書じゃないでしょ」
「ん? 何か足りないことがあるか?」
レイモンドは真面目な顔で、どこが足りないか考え始める。
「あ、君を毎日満足させるとかか?」
毎日は無理だけど、愛の言葉は毎日囁くから。と頬を染める。
「違う……」
「じゃあ、子供の数か? 俺は何人でもいいな。できれば全員アンジェラに似て欲しいけど」
「違う。レイモンド、これは契約書って言わないでしょ? これじゃまるで……」
「まるで?」
「ラブレターみたいじゃない」
消え入りそうな声で呟くと、レイモンドは意外だったのかニヤニヤした顔を引っ込めて、まじまじと私をみた。
「そんなつもりはなかったんだが、ラブレターが欲しいならもっと甘い愛の言葉を贈るから」
「だって、ここに書かれていることみんな私のためじゃない。一方的な利益だけじゃ契約にならないって言ったのはあなたでしょ」
「俺にも、ちゃんと利益がある。君が幸せなら俺も幸せだし、君が笑っていてくれれば俺も安心だ」
ニカッと、イケメン全開の笑みを私に向け、そのままの顔でチュッとおでこにキスを落とす。
「な、何をするのよ」
「一つ、付け足そうと思って、毎朝起きたら君からキスをくれ」
そんなイチャイチャ夫婦みたいなことは恥ずかしすぎてできない。
「無理。レイモンド、私が愛した人は不幸になるのよ」
仮にも王子様が破滅するなんてあっていいわけない。しかも、私から毒を盛られる危険だって100パーセントなくなったとは言えないのに。
「それって、考えすぎじゃないのか?」
「本当よ、小さい頃、婚約者は婚約した途端、馬車の事故とか病気とかで婚約を続けられなかったの。レイモンドとの婚約話もお父様が神殿に確かめて呪いにかかっているのは間違いないと言われたから破談になったくらいだもの」
「呪いの有無はともかく。俺は大丈夫だから心配いらない」
「なんでそう言い切れるの?」
「だって、アンジェラは俺のことが好きなのに未だにピンピンしてるだろ」
「好きじゃないわ!」
「そうはっきり言われると傷つくんだけど」
「だって、好きじゃないもの」
「まあ、今のところはそう言うことにしておいてやる。だが、一つ言えるのは呪いの基準は曖昧だってことだ」
呪いの基準って何?
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