第33話 王妃とお茶会 2

 招待客はすでに着席しており私たちのことを品定めするかのように観察している。

 第1王妃派として一番に名前が上がる古参の2人だ。

 マーベラス夫人とカイリ夫人。若い時はライラ様の侍女も勤め裏側を全部承知している人たちである。


 和やかなお茶会にはならないだろうと思ってはいたが、この二人がいるということは本気で品定めに入っているということで間違いない。



 すでにコートニーの顔は真っ青で、今にも倒れてしまいそうだ。


「陛下、今日はお招きいただきありがとうございます」

「顔合わせに出られなくてごめんなさいね」

 いえいえ、側室の息子の顔合わせにいる方が怖いですから。


「今日はあなたとゆっくりお話しするのを楽しみにしていましたよ。お母様と言われるにはまだ早いから、ライラと気軽に呼んでちょうだい」


 思いのほかあたりが強くなくて少々拍子抜けする。

 実家は敵対する家柄であり、側室の息子と婚約までしている。目障りな存在であることは間違いなしなのに少々の嫌味でおしまいなんて、本番はこれからってことかしら。「は、初めて、お、お会いします。ボ、ボルジア伯爵のむ、娘コ、コートニーと申します。う、うまく話すことができず、も、申し訳ありません」

「やっと聖女にお会いできて嬉しいわ。言葉は緊張がなくなれば滑らかに話せると聞きました。気にすることはないわ」

 上から下まで、コートニーのことを舐め回すように見て、ライラは笑顔を崩さなかった。

 平民からは慈愛の国母様と崇められているだけはある。

 本性は眉ひとつ動かさず気に入らない人間を断頭台に送るのに。


 コートニーは練習の甲斐なくよろよろとカーテシーをした。

 やっぱり、まだ大物との対面は無理だったみたいね。

 仕方ない。あまりライラとは親しくなりたくないけれど、今日は私が頑張るしかない。


「お話には聞いておりましたが、本当に素晴らしい眺めです。昼間でもこれだけ幻想的なら、宮殿に灯りがともったらこの世とは思えないほど美しいのでしょうね」

「ええ、夜のミノワールは女神の住まう場所と言われるくらいなの」

 あなたは絶対に手に入れられないわ、とでも言いたいのだろう。僅かだが口角が上がった。


 ご心配なく。全然住みたいとは思っていませんから。


「さあ、座ってちょうだい」


 それからの会話はほぼ全てコートニーに向けたものだった。

 口を挟もうにもマーベラス夫人とカイリ夫人が絶妙なタイミングで私がライラに話しかけるのを阻止する。


「治癒の力も少しづつ上がってきていると聞きましたがなかなかうまくいかないとか。神殿から人を呼びましょうか?」

「い、いいえ。今の先生はとても親身になってくれていますし、も、もう少しこのままで頑張りたいです」

「そう。聖女には重い期待がかかるでしょ。陰で色々噂する人もお多いし。でも、治癒の力さえ自由に使えるようになれば誰も文句は言えなくなりますよ」

 期待しているのも、噂しているのもあなたですよね。と心で思ったがライラのさっさと習得しろ。という無言のプレッシャーにコートニーは何も言い返せないでいた。



「ライラ様。先生も魔力の調節が安定すれば治癒の力もすぐに使えこなせる様になるとおっしゃっていました」

「そうね。魔力を持っていないわけではないのだから、待つとしましょう。ああ、アンジェラ、あなたのことを言っているのではないわよ」

 急に話を振られたと思ったら、嫌味ですか。

 まあ、別に気にしませんけど。

 それよりも、私が魔法を使える様になったと知ったときのライラの顔を想像しよう。

 見ものですよ。

 言いたいけど、今はナイショ。



「勿論です。私も早くコートニー様が魔力の調節をできるように微力ながらサポートさせていただきます」

「ところでアンジェラ様。たわいもない噂を耳にしたのですが、ご存知からしら?」

 マーベラス夫人が言葉は申し訳なさそうだが、目は好奇心いっぱいに尋ねてくる。

 いよいよきましたね。


「どの様なものでしょう」

「アンジェラ様は呪いにかかっていると。妬みでしょうけどこのような噂は広まる前に根絶やししてしまうのをお勧めしますわ」

「高貴なお方のところまで噂されているなんて、ご心配をおかけして申し訳ありません」

 ランカスター家の秘密が噂になることなんてあり得ない。

 ライラの入れ知恵に間違いないだろうけど、お父様に報告ね。ライラ様のお気に入りといえど、ランカスター家を敵に回すということなのがどういうことなのか、しっかり教えてあげましょう。




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